ミュージカル界は新たなフェーズに!活躍する2.5次元俳優たち
数年前から人気が高まり、テレビの番組でも特集が組まれるほどメジャーになってきたミュージカル。コロナ禍で落ち込んだ時期から、今まさに回復傾向にあり、特に3月は開幕ラッシュを迎え、取材者は劇場のはしごをするなど大忙しでした。その中で目立っていたのは、2.5次元舞台(マンガ・アニメ・ゲームなどを原作・原案とした舞台芸術の1つ)で活躍していた俳優たちが、舞台のセンターで皆を引っ張っていること。ミュージカル界は新たな局面に突入しています。
例えば、現在上演中のミュージカル『SPY×FAMILY』。主演のスパイであるロイド役を森崎ウィンさんと鈴木拡樹(すずき・ひろき)さんがWキャストで務めています。鈴木さんは2.5次元舞台を代表するベテラン俳優で、昨今では様々な舞台で活躍中です。
また、殺し屋・ヨルの弟・ユーリ役で、まるでマンガの世界から抜け出してきたような再現ぶりを見せる岡宮来夢(おかみや・くるむ)さんは、ミュージカル『刀剣乱舞』の鶴丸国永役で注目された存在。ビジュアルだけでなく、振り切った演技と高い歌唱力が光ります。ミュージカル『The Fantasticks』、『「進撃の巨人」-the Musical-』など、特にここ半年ほどの短期間で、観る度に声が太く大きく、歌が上手くなっていて、とにかく勢いがあります。現在各所で活躍している俳優たちは、見た目の美しさだけでなく、実力が伴っているのが特徴です。
作品ごとに出演者が選ばれる舞台では、かつては「劇団四季」出身者が舞台の人気を押し上げていました。「劇団四季」は作品を前面に出し、スターは作らない方式で行われてきたので、作品名でロングラン公演がしやすい環境にあります。そしてスター性あふれる俳優たちは外に出て、名前でチケットが売れる人気者になっていきました。鹿賀丈史さん、市村正親さん、山口祐一郎さん、石丸幹二さんなど、「劇団四季」出身者は今も舞台を支えています。
次の世代が、音楽大学出身者。井上芳雄さん、山崎育三郎さんを始めとする、音大で声楽を学んだ実力者たちが登場します。その卓越した歌声に魅了され、俳優個人のコンサートにも多くの観客が集まりました。今やミュージカル界の中心となっているこの世代の俳優たちは、未来についても深く考え、ミュージカルを知ってもらうため、劇場に足を運んでもらうための方法に真剣に取り組んできました。
そこで成功したのが山崎育三郎さん。テレビの世界に進出したのです。「言うは易し、行うは難し」で簡単にいくことではありません。舞台のスケジュールは何年も前から決まる上に、舞台が続くと他の仕事は入れにくい。稽古期間も長い。育三郎さんは思い切って、多い時には年間5本出演していた舞台を1本に絞り、テレビを優先しました。下手すればテレビの仕事もない、戻ってくる場所がなくなる危険性もはらんだ勝負の判断。そんなことになれば本末転倒なのですが、ドラマやバラエティとうまくはまり、知名度をグンと上げてまたミュージカルの世界で輝くことができています。
井上芳雄さんも、然(しか)り。いろいろと試した結果、自分に向いているのは司会だと判断し、過密スケジュールにもかかわらず、情報番組のコメンテーターや歌番組の司会、バラエティまで幅広く参戦し、事あるごとにミュージカルのことを伝えています。彼らの頑張りが今のミュージカル界の人気につながっているのは間違いありません。
そして、ここへきて若手が台頭してきています。ミュージカル『テニスの王子様』『刀剣乱舞』を始め2.5次元の世界観が、年を追うごとに大人気となり、多くのファンを獲得しています。バラエティに富む個性にあふれた若い男性たちが出演する舞台は、流行語にもなった「推し」が見つかるものです。しかも2次元の世界を体現するので視覚的にも楽しませることができ、何より人の目を引く力があります。舞台関係者が見逃すわけはありません。「この人は!」と思う人を見つけたら声をかけ、ボイストレーニングを紹介することもあるといいます。トレーニングを積んだらオーディションを紹介し、合格すればグランドミュージカルの世界に幅を広げるのです。
しかも今は、マンガ原作の演目がとても増えています。コロナ禍は劇場を閉めざるを得ず、やっと開けても中止になることもあり、復活を目指す今、経営的にも失敗ができない状況です。マンガ原作は、元々の舞台ファンの他にマンガファンも観に来てくれるうえ、2.5次元舞台で活躍した俳優が出演すれば若いファンがついてきてくれます。まさに今の時代にマッチした内容といえるでしょう。
冒頭の『SPY×FAMILY』を始め、『キングダム』『進撃の巨人』『エヴァンゲリオン』『のだめカンタービレ』などマンガ原作作品は続いています。最近の傾向として、テンポの速い展開・動きが求められているように感じます。映像を倍速で鑑賞するという人もいる世の中、実際に「速く動ける人」はもってこいです。
『キングダム』の主演・信役を務めたのは三浦宏規(みうら・ひろき)さんと高野洸(たかの・あきら)さん。この2人は、ミュージカル『刀剣乱舞』で兄弟役を演じていた間柄。2.5次元舞台ファンから見れば感情を揺さぶられるし、帝国劇場でこれだけ激しく動く演目はなかなかないのではないでしょうか(『キングダム』はオーケストラの生演奏は入っていますが、歌はありません)。
三浦さんはバレエ一筋の経歴を持ち、数々のコンクールで優勝・入賞するなど本来ならバレエダンサーになっていた人。ケガで足の形にゆがみが生じたため、踊ることには問題はないものの、タイツで美しさも表現しなくてはいけないバレエの世界では厳しいと自ら判断し、ミュージカルの世界に飛び込みました。やはり動きが圧倒的に美しいのです。熊川哲也さんに憧れていただけあり、ジャンプ力、指の先まで神経が行き届いた踊りには目を奪われます。
嬴政(えいせい)/漂(ひょう)役を演じた牧島輝(まきしま・ひかる)さんは、今作品で劇的にファンを増やしました。そのビジュアル・声・情熱に、2.5次元舞台の時より年代が上の女性たちにまでファン層を広げています。
要は、今の時代に2.5次元俳優たちがぴったりマッチしたということです。でも、実力がない人が急に舞台に立ったとしてもお客さんはついてきません。皆が先を見据えて努力をしていたからこそ、アンテナを張っていた制作者たちのセンスがあったからこそだと思います。
これまで、2.5次元とグランドミュージカルのファンは、似ているようであまり被らない位置にいたのですが、昨今の流れで一気に垣根がなくなっています。劇場にいる方たちの年齢層も若くなっているのを感じますし、これまで2.5次元舞台を観ていなかった方たちも、彼らを知ることによって、活動範囲を広げている様子も見られます。新しい風が吹き始めました。
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