IMFがEUにギリシャ支援停止を警告=危機回避で第3次支援策決定か
債務危機からの脱却を目指しているギリシャが再び、困難に直面している。ギリシャは2010年と2012年の過去2回にわたって、いわゆるトロイカ(EU(欧州連合)とECB(欧州中央銀行)、IMF(国際通貨基金)の3国際機関)から計2400億ユーロ(約31兆円)の金融支援を受け、また、昨年は民間債権団との1000億ユーロ(約13兆円)のヘアカット(債務元本の減免)、 いわゆるPSI(債務再編への民間部門の関与)合意によって、財政の健全化に向けて懸命の努力を続けている。
しかし、最近はトロイカからの金融支援と引き換えに受諾した厳しい財政緊縮政策による財政の健全化もうまく行っていないのが実態。こうした中、英紙フィナンシャル・タイムズ(『FT』)のピーター・スピーゲル記者は6月20日付電子版で、IMFのギリシャ担当者の話として、「ギリシャはEUから新たに30億~40億ユーロ(約3800億~5100億円)の追加支援が得られない場合には、IMFは7月末までにギリシャへの金融支援をいったん打ち切らざるを得ない」と報じて波紋を呼んでいるのだ。
ギリシャ議会は昨年3月に、第2次ギリシャ金融支援分1300億ユーロ(約16・6兆円)と第1次支援分1100億ユーロ(約14兆円)のうち、未消化分を含めた計1730億ユーロ(約22兆円)の支援をトロイカから受けることを承認した。しかし、ギリシャはこの支援プログラムの継続が困難になっている。その理由は、同記者によると、「IMFの内部規定では、いかなる国もIMFから金融支援を受け続けるには、少なくとも向こう1年分以上の財政運営に必要な資金を確保していることが義務付けられているためだ」という。ギリシャは、国営企業の民営化(株式売却など)が遅れ、5月にはユーロ圏の各中央銀行は保有する37億ユーロ(約4700億円)のギリシャ国債のロールオーバー(持ち越し)を拒否し償還を求めたため、財政収入が30億~40億ユーロ不足する事態となっているのだ。
スピーゲル記者は「7月にIMFがギリシャへの支援を無事に実行できたとしても“最後の審判日”が次の支援が予定される年末までに延びるだけ。このため、ユーロ圏各国の財務相は、年内にギリシャに対する新たな(第3次)金融支援策を策定することも視野に入れて議論するだろう」と指摘する。
IMFだけが“禊(みそぎ)”?
ここ最近、IMFはギリシャ支援に対し厳しい姿勢で臨んでいる。その背景には、IMF自体がギリシャ支援を検討した際、守るべき4つの資格要件のうち3つまで違反した可能性がありながら承認するというミスを犯したことを認める一方で、ユーロ圏各国政府がギリシャ支援を迅速に行わなかったために支援額が急増したことへの不満がある。
IMFは6月5日に、2010年5月に合意した向こう3カ年の第1次ギリシャ支援計画に関する評価報告書を発表したが、その中で、「第1次支援策のおかげでギリシャのデフォルト(債務不履行)は回避できたが、失業率27%(2013年見通し)と、リセッション(景気失速)は深刻で、成長を回復することも市場での資金調達の困難を解消することも実現できなかった」とし、「ギリシャ国債を保有していた民間債権団とのヘアカット(債務減免)協議は2011年10月に合意したが、それよりもっと早めに実現すべきだったのにユーロ圏の(政治家の)抵抗でできなかった」と“恨み節”をひとくさり。さらに、「公的債務問題への取り組みも、毅然として支援計画のスタートと同時に開始していれば、ユーロ圏の危機対応能力に不信感が生じることも、また、マイナス成長を助長することもなかった」と痛烈にEUを批判する。
ちなみに、IMF予想では、ギリシャの成長率は2009年の3.1%減から昨年の6.4%減まで5年連続で縮小したが、今年も4.2%減となる見通しだ。この点に関しても、IMFは「2011年12月まで、トロイカはギリシャの財政緊縮の達成目標について見直しをしなかった。その結果、成長が悪化し、財政目標は達成が困難なものとなった。財政目標は厳しすぎたのではないか、また、成長や民営化による収入、デフレ(物価下落が継続する状態)、市場からの資金調達について楽観的に見過ぎたのではないかという疑問を生じさせた」とし、ドイツの意向を強く反映した財政緊縮政策の影響を甘く見過ぎたと猛省している。
このIMFリポートに対するメディアの論調は、英紙デイリー・テレグラフのブルーノ・ウォーターフィールド記者が6月6日付電子版で、「IMFは報告書で、EUはユーロ圏を債務危機の伝染から守るためにギリシャを見捨てたと厳しく批判した」とし、これにはEC(欧州委員会)のオッリ・レーン副委員長(経済・通貨担当)もAP通信の6月7日付報道で、「IMFだけが手を洗って禊をし、その汚れた水をEUにぶっかけるようなものだ」と反論している。IMFはこの報告書が一部メディアにリークされたあとでさえ、事前にEUに見せておらず、今後のトロイカ体制に不協和音が生じる恐れが出てきた。
米国のノーベル賞経済学者、ポール・クルーグマン氏(現在、プリンストン大学教授)は6月5日のニューヨーク・タイムズのコラム(電子版)で、このIMFリポートについて、「言わせてもらえれば当時から分かっていたことだが、IMFは2つのミスを犯した。一つはもっと早い段階でギリシャの債務不履行となる事態を予想すべきだったこと。もう一つは財政緊縮政策のギリシャ経済への打撃を甘く見ていたことだ」とした上で、「もし、トロイカが2010年のギリシャ救済時にもっと多くの債務をヘアカットし、ECBが救済当初からギリシャにつなぎ融資を与えていれば、その後の財政緊縮による経済への打撃も相殺され、ギリシャは2012年ごろには資本市場での資金調達に戻っていた姿を想像するに難くない」と述べている。
他方、FT紙のチーフ・コメンテーター、マーチン・ウォルフ氏は6月9日付電子版で、「IMFの分析は頭脳明晰で、歓迎する」としたものの、「ギリシャはユーロ圏から離脱するか、一方的にデフォルトを宣言するか、または大胆な政策変更をしない限り、依然としてリセッションから抜け出せず、債務を返せば返すほど債務が増え続けるという負債デフレの状態が続く」と厳しい見方だ。
事実、投資の世界では、ギリシャはもはや先進国ではなく新興国扱いとなっている。株価指数プロバイダーとして知られる米モルガンスタンレー・キャピタル・インターナショナル(MSCI)は6月12日に、ギリシャの株価指数(アテネ総合指数)が2007年以降、83%も下落した事態を受けて、ついに、ギリシャをMSCI先進国株価指数から外し新興国株価指数に移し替えた。つまり、投資判断の引き下げで世界の投資家のギリシャ離れを加速させる恐れが出てきている。 (了)