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ケルンの攻撃で重要な役割をこなすもゴールチャンスを得られず。大迫勇也がストライカーとして輝く条件

河治良幸スポーツジャーナリスト

ブンデスリーガ15−16の第9節で大迫勇也を擁するケルンは清武弘嗣、酒井宏樹が所属するハノーファーをホームに迎えたが、清武のCKから、アンドレアセンの上腕部に当たって入ったゴールがダンケルト主審にそのまま認められるという不運な形で先制を許すと、その後も決定的な攻め手を欠いたまま0−1で敗れた。

4−2−3−1のトップ下でスタートし、後半から4−3−3のインサイドハーフでプレーした大迫。本来のポジションがCFであることは日本のサッカーファンに説明するまでもないが、ケルンでは大型FWモデストを前線に張らせた2列目が基本になっている。この日も中盤の高めで攻撃の起点を作り、リズムが悪ければボランチのポジションまで下がってボールをつないでいた。しかし、この日はシュートが1本も無く終わってしまった。

組み立てのところでは抜群のボールキープ力を発揮し、パスの正確性も目立っていたが、そこからゴール前で相手の脅威になれず、シュートも打てなかったことは大きな課題だ。ただし、そこは意識だけでなくチームでの与えられた役割や戦術的な指示、仲間とのコミュニケーションも関係する。試合中に気になったのは中央からサイドに展開した後にバイタルエリアの位置でステイし、ゴール前に飛び込んで行かなかったことだ。大迫はこう振り返った。

「ミーティングで、サイドに振った時に空くから狙えというのはすごく言われていたので、そこにはいようとしましたけど、なかなかボールが入ってこなかったですね」

つまり大迫としては指揮官の戦術的な狙い通りにポジションを取り、そこからフィニッシュに行くイメージを描いていたにも関わらず、味方に使ってもらえなかったということだ。ストライカーとしての高いクオリティを備える大迫だが、もともと強引に自我を通す様なタイプではなく、コンビネーションを大切にしているタイプだ。ただ、そこが良くも悪くもドイツで殻を破りきれない要因になっている様にも思える。

組み立てで下がり目のポジションを取ることが多いことに関しても「もうちょっと後ろでスムーズに行ければいいですけど、なかなかそういう選手がいないので。そこは苦しんでいますけど。もうちょっとうまくやりたい」と語る様に、周囲の不足している要素をカバーしている分、ゴール前の仕事に意識を持っていけていない部分もありそうだ。

「ボールを持った時にもうちょっと短いパスを増やさないといけない」とチームの課題を説明する大迫は自分がより多くゴールに絡む場面を増やすためにも、チームの攻撃を機能させる必要があると考えてプレーしているのが見て取れる。そうしたチームプレーも彼の能力であり、シュテーガー監督に重用される理由の1つでもあるが、それだけではハノーファー戦の様にチームの攻撃が停滞した状況でゴールに直結する仕事をすることは難しい。

「ゴール前に入る回数を増やさないといけないですけど、今はほんと後ろの仕事が多すぎることはちょっとあるなと思う」

フィジカル的な部分や当たられてもボールを失わない技術には「去年からできていること」と大迫も自信を持っており、いざゴール前に出て行った時にそれを活かすイメージもあるはず。ただ、ケルンの攻撃がここから劇的に良くなる見通しはそれほど高くない中で、大迫としてもチームとしての機能性を高める意識に加えて、時に強気で勝負に行く、あるいは強く要求していかないと、ゴールの可能性もなかなか生まれないのではないか。

怪我での欠場もあったが、今季ここまで1得点。「現状は今のポジションで頑張るしかない」と語る大迫も前線で勝負したいのが本音である様だが、与えられたポジションの中で役割をこなしながらも、いかにゴール前のシーンを増やしていけるかが、ストライカーとしての評価、さらには日本代表への招集に結び付くポイントになるはずだ。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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