「イスラーム国」のラマダーン#2
結論から言うと、「イスラーム国」がラマダーン中のごちそうとして広報場裏で発信する画像を見る限り同派の活動状況が昨年に比べてよくなっているとは考え難い。
写真1は、シリアの内陸部の砂漠に潜伏していると思われる「イスラーム国」の者たちがラマダーンのごちそうとして肉を焼く模様である。観察のポイントは、少なくともこの画像を作成した集団はちゃんとしたコンロやかまど、ガス・電気・水道を備えた厨房のある所にはいないということだ。しかも、実際の食事風景である写真2には、ここで焼いている肉は出てこない。その上、副菜や飲み物のない単調な食事に見える。
かねてから「イスラーム国」の活動が活発化している要注意地域と目されるエジプトのシナイ半島においては、「イスラーム国」の者たちは多少はマシなものを食べているように思われる。
写真3では、それなりにたくさんの肉を調理している風景が映し出されている。しかし、この広報画像群においても、実際に「イスラーム国 シナイ」の者たちが食べているのは写真4の通り、魚の揚げ物が主菜である。サラダや飲み物も映り込んでいるが、食事の場所は屋外の砂地のようであり、彼らがイフタールを楽しむために条件のいい場所を確保しているとは言い難い。
一方、ソマリアで活動する「イスラーム国」の者たちは、それなりに手の込んだ料理をしている風景を発信した。揚げ物やスイカも含む、食材の調達や調理をする余裕には恵まれた環境のようにも見える。
ただし、写真5にみられるように、揚げ物の調理は焚火でしている模様で、食事の場所もちゃんとした建物のない露営地らしく、住環境に恵まれているかといえばそうでもなさそうだ。
ナイジェリア、ニジェール、マリなどで活動する「イスラーム国 西アフリカ」も食材の調達はそこそこできているようだ。しかし、こちらも調理風景を見るとあまり快適な住環境とは言えないようだ。
一連の画像群は、場所は様々だが「イスラーム国」が現在も存続し、健在であることをアピールしようとする広報活動の中で発信されたものだ。「ムジャーヒドゥーンたちは厳しい環境の中でも頑張っている」という文脈の広報ではないところは意識して観察すべきだろう。これらからは、「イスラーム国」の者たちが荒れ地や山地、砂漠に露営し、野外か本来調理する場所ではない小屋の中のような場所で乏しい機材を用いて調理しているようだということがわかる。繰り返すが、構成員にどのような衣食住環境を提供できるのかは組織の力量を測る上で極めて重要な観察点である。ここまでのところ、「イスラーム国」は盛んに活動していると言われている場所においても「組織的かつ優れたこと」をしているわけではなさそうだ。