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開幕戦サウジの大敗にみる、4年前の日本vsコロンビア戦との類似性

杉山茂樹スポーツライター
4年前、コロンビアに1−4で大敗したザックジャパン(写真:Action Images/アフロ)

 W杯が成功したか否か、盛り上がったか否かを語るとき、開催国の成績は一番のバロメータになる。最悪の展開はグループリーグ落ち。ロシアは大国なので、面子は丸つぶれになる。

 ロシアのFIFAランキングは70位。本大会に出場する32カ国の中で最下位をいく。もちろん、FIFAランキングは各国の実力を忠実に反映したものではないとはいえ、”配慮”したくなる成績であることは確かだ。

 FIFAランキング64位と、ロシアに次いでお尻から2番目の成績にあたるサウジアラビアがグループAに組み込まれ、ロシアの開幕戦の相手をつとめることになったのは当然といえば当然だった。

 サウジには、1998年W杯で開催国フランスと同じ組に入り、その直接対決で0-4と敗れ、結果的に盛り上げ役を果たした過去がある。2002年日韓共催W杯ではドイツに0-8で敗れるなど、強者に対して大敗する癖も持ち合わせている。FIFAがロシアと試合させる国として、サウジより相応しい国はないのである。

 しかし、キックオフしてほどなくすると、サウジはいい感じで攻め始めた。特に左サイドでヤシル・アルシャハラニ(左サイドバック)、タイシール・アルジャッサム(左インサイドハーフ)、ヤヒア・アルシェハリ(左ウイング)が技巧を発揮。ロシア人選手以上に細かい、魅力的なボールタッチも含まれていたので、スタジアムには微妙な空気が流れた。ロシア人の密かな焦りを感じずにはいられなかった。

 ロシアW杯開幕戦。ロシア対サウジ。しかし番狂わせの予感は、前半13分をもって終わりを告げた。

 ロシア代表のベテラン左サイドバック、ユーリ・ジルコフが蹴ったCKがきっかけだった。その跳ね返りを、アレクサンドル・ゴロビンが、右足のインフロントで狙いすまして中央に入れると、ユーリ・ガジンスキーが、ヘッドで逆サイドに流し込んだ。

 悲劇に巻き込まれる可能性はこれで大幅に減少。ロシア国民の不安を解消する一発だった。

 ただ、ロシアがプレッシャーから解放されても、サウジにはまだ反発力があった。開始13分の間に掴んだ自信が、これで一気に消滅することはなかった。

 反撃を開始したサウジには見るべきものがあった。局地戦でのパス回しはその代表的なプレーになる。だが、それには奪われるリスクもつきまとう。どこで奪われるか。サウジはそこに頓着なく楽観的に攻め続けた。そして前半43分、交代で入ったデニス・チェリシェフにトドメを刺されてしまう。

 サウジ自慢の左サイドでミスが起き、攻守が入れ替わることでロシアのチャンスに発展した。振り返れば、前半13分の先制点もミス絡みだった。得点が生まれたのはCKからだが、その直前に起きた攻守の切り替わりは、サウジが奪われてはいけない場所(真ん中付近)で奪われたことが、きっかけだった。

 この試合を見て、想起したのはコロンビア対日本だ。2014年ブラジルW杯、クイアバで行なわれたグループリーグの最終戦。日本が1対4で大敗した試合だ。日本はよく攻めたが、悪い奪われ方を繰り返した。そのつどコロンビアにカウンターを浴び、気がつけば4失点を重ねた。

 この日のサウジも、一方的に攻められていたわけではない。単なる弱者ではなかった。後半も見せ場はそれなりに作ったが、それはそのまま、ロシアのチャンスに繋がっていた。

 4年前の日本とこの日のサウジ。いずれもそのサッカーに稚拙さを感じずにはいられない試合をした。悪く言えば、失点を許した後、キレてしまったわけだ。アジアのレベルを思い知らされる気がした。

 64位というサウジのFIFAランキングに対し、日本は61位だ。32チーム中、ロシア、サウジに次いで下から3番目だ。サウジが出場権を逃していれば、ロシアの開幕戦の相手に、日本があてがわれていた可能性もある。

 そこで日本はサウジと真反対のプレーができただろうか。最終スコア0-5で大敗したサウジを、日本は笑うことができるだろうか。

 とはいえ、5-0で大勝したロシアを褒めるわけにもいかない。これでエジプト、ウルグアイのどちらかに引き分ければ、ベスト16入りの可能性も濃厚となったわけだが、自ら特別な魅力を備えているわけではない。

 ロシアと言えば、フース・ヒディンク監督のもとでベスト4入りしたユーロ2008をまず想起する。あのときは、監督采配もさることながら、アンドレイ・アルシャビンという、特別な才能を持った選手がいた。それ以前の時代にも、アレクサンドル・モストボイ、バレリー・カルピンという欧州級のタレントがいた。

 かつては代表チームに、欧州で名の知られたクラブで活躍している選手がそれなりに存在したが、現在のチームはほぼゼロ。ドメスティックな選手で固められている。唯一の例外はジルコフになるが、彼とてすでに34歳だ。

 舞台となったルジニキ・スタジアムの周辺では、試合後、「ルシア! ルシア!」のシュプレヒコールが挙がった。しかし、歓声はすぐに途絶えた。一瞬で打ち止め。5-0で大勝したにもかかわらず、観衆は静かに帰路に就いた。98年のフランス国民も当初、冷めていたが、ロシアもいまのところ、それに近いものがある。

 ロシアは大国だ。同じく大国で94年W杯を開催したアメリカは当時、サッカー文化のない国として位置づけられたが、ロシアはサッカーにおいて正統な歴史がある。国民の気質、プライドも相当に高そうである。サウジに大勝しても、まだ居心地の悪さが残る。そんな感じが見て取れるのだ。

(集英社 webSportiva 6月15日掲載原稿)

【この記事は、Yahoo!ニュース個人の企画支援記事です。オーサーが発案した企画について、編集部が一定の基準に基づく審査の上、取材費などを一部負担しているものです。この活動は個人の発信者をサポート・応援する目的で行っています。】

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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