サントリー延長Vランの松島幸太朗、神戸製鋼には「潰しに行く気持ちで」。【ラグビー旬な一問一答】
サドンデスの延長戦は、実質的にこの人が締めた。日本代表の松島幸太朗だ。
12月8日、東京・秩父宮ラグビー場。日本選手権準決勝を兼ねたラグビートップリーグ順位決定戦のセミファイナルがあり、2連覇中のサントリーはヤマハに25―25で追いつかれ、大会初の延長戦に突入する。
サントリーはしばし防御で耐えていたが、5分、フルバックの松島がビッグプレーを披露する。
自陣で相手キックを捕球するや、相手防御をかわして敵陣へ進む。味方の中村駿太にボールを渡した先でヤマハの反則が宣告された直後、サントリーのマット・ギタウはペナルティーゴールを決めた。28-25。
試合後、取材エリアに現れた松島が試合を振り返った。
以下、共同取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。
――最後の走り。
「結構、プレッシャー(をかけにくる選手が)走ってくるのが見えましたけど、(自身の立ち位置と)距離があったので、そこはうまくかわすことができたかなと思います。
(自身に圧力をかけにきた)2人とも僕を見ていたので、1回でかわすことができた」
――自陣から攻めるヤマハが松島選手に向かってキックを蹴ってきた。その前にもひとつ、キックを蹴っていて、その時は味方選手が捕球していますが。
「(ヤマハは)蹴ってこないだろうなというイメージだった。1回目(のキック)は相手に入ったのでもう1回ディフェンスをという形だったのですけど、2回目は中途半端なキックになった(結果、自身の手元にきた)。そこはチャンスに変えられました。(急なキックに)反応できるポジショニングは取っていた」
――松島選手が相手キックを捕ってカウンターを仕掛けるシーン。延長戦に入る前から何度かありました。松島選手がキックを捕った瞬間、目の前にはヤマハの防御網が敷き詰められていたような。
「プレッシャーが結構、強いなという感じもあって。キャッチする人を狙いに行っている感じもあって、意図的にやっているんだなと」
―― 一度、タッチラインの外へ出された。しかし次に似たシーンがあった時はしっかりと前進。ボールを活かしました。修正は。
「反応のところだけ。最後の部分(延長戦での走り)以外では、ヤマハのいいチェイスがあった。(出されたシーンも)残ろうとは努力しましたけど、単純にいいディフェンスだったので」
――それにしても、延長戦を戦った時の気持ちはいかがでしたか。
「身体は疲れていますけど、メンタル的には緊張感が高まる。難しいことをせずシンプルにやっていこうと、意思統一ができたのかなと思います」
――どちらかの点数が決まればその地点でノーサイド。反則はできない状況でした。
「まず敵陣に入ってしっかりとディフェンスをするというところ(計画)。敵陣にいた方がチャンスはあったと思うので」
――実際、終盤は防御時の反則がなかった。
「(序盤に)ジャッカルのところでペナルティーを取られていたので、後半からはラックにいく(むやみにボールに絡む)のではなく(防御ラインの)幅を取ろうと意思統一していました」
サントリーは戦前から、レフリングの傾向を踏まえてゲームプランを立てる。試合中も笛の傾向には敏感に反応する。松島が防御について話した「後半からはラックにいくのではなく幅を…」はその意識の表れだ。
重要局面になるほどサントリーに順法精神ありと認められる傾向があった。試合を通じての反則数はヤマハの「6」に対しサントリーは「11」と多めだったが、最後の場面でヤマハが反則を取られたシーンも、然りだった。
サントリーは15日、秩父宮で決勝戦をおこなう。
トップリーグおよび日本選手権の3連覇を目指す。対する神戸製鋼はチーム改革の只中にある。元ニュージーランド代表スタンドオフのダン・カーター、元同国代表アシスタントコーチのウェイン・スミス総監督らの手により、組織的にスペースを攻略する意識を植え付けつつある。
運動量と規律を重んじるサントリーにとっては、最後の難敵となろう。
――来週の決勝戦へ。
「もちろんリスペクトはしますけど、リスペクトをし過ぎず潰しに行くくらいの気持ちでやらないと、前のように好き放題やられる。日和佐篤、ダン・カーターにしっかりプレッシャーをかける。ミスを誘っていきたいなと思います」
――お話に挙がった「前」。9月14日の同カードを20―34で落としています。終盤こそ猛追撃を繰り出しましたが、後半開始早々に8―30と大差をつけられていました。やはり、接点やパスの出どころでのプレッシャーが不足していたと見るのですか。
「前は速いボールを出させてしまったというイメージ。ラック周りにプレッシャーを与えることはやっていきたい」
――前回のようには、大外へパスを回させない。
「きょうのヤマハはワイド、ワイドなアタックですのであまり上がらないディフェンスをしましたけど、次は臨機応変に」
――次勝ったら、3連覇。
「サントリーは3連覇をしたことがない。歴史を作れたら。最後の試合で全部を出し切れれば、一番、いいですね」
――調子は上がってきているのですか。
「きょうはミスが多かったので自分的には全然、だめでした。判断があまりよくなかった。次の試合までには修正したいです。早く判断する。その確実性を自分に求めていきたいです」
極端にセンシティブな読者に伝えるとすれば、決勝への意気込みを語る際の「潰す」はあくまで相手から快適さを奪うという宣言に過ぎない。9月の敗戦時は日和佐、カーターがテンポよくスペースに球を配し、身長2メートル超のグラント・ハッティングに小柄な選手のいるタッチライン際を何度も破られた。
一方でサントリーも9月の時点でいなかった新戦力を機能させるなど、シーズンを通して成長している。シーズンを通しての取材成果によれば、沢木敬介監督の頭の中には早くから再戦時の勝利への道筋ができあがっている。
12月のスポーツ界有数のビッグマッチ、注目されたい。