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久保建英とメッシ。本当の共通点とは?

小宮良之スポーツライター・小説家
コロナウィルスの影響で中断前のエイバル戦。シャツを引っ張られても前に出る久保建英(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)

 時代は絶え間なく変遷する。

 今年、リオネル・メッシは33歳、クリスティアーノ・ロナウドは35歳になる。2018年バロンドールを受賞したルカ・モドリッチも、夏で35歳だ。彼らの時代は永遠ではない。

 新手が次の流れを作るときが来た。

 日本では、太陽が落ちて上るように、18歳の久保建英が現れた。久保は、世界レベルでも有数の若手と言える。レアル・マドリードが次世代候補選手として契約したことが、確たる証左だ。

 久保は時代の旗手になることができるのだろうか?

メッシに比肩する選手はいないが…

「日本のメッシ」

 少し前までの久保は、そう表現されることがしばしばだった。

 左利きの小柄なアタッカーで、バルサの下部組織ラ・マシア育ち。その共通点が異名の“根拠”だったのだろう。最近は、この喩えに手あかがついたか、使われることは少なくなった。そもそも、世界中に「メッシ二世」があふれかえり、ほぼ全員が“偽物”であることを承知の上で、使われていたこともある。

 メッシは史上最高の選手であり、比肩する選手など存在しない。

 しかし今の久保は、かつてないほどメッシに似ている、と言えるかもしれない。

久保とメッシの共通点

 メッシの本質は、単純なボールテクニックや突出したスピード、ではない。技術も、速度も、一つひとつを切り取れば、追随する選手は少ないながらいる。しかし、シーズン50得点は達成できないのだ。

 アルゼンチンの天才の神髄は、その変幻にあるだろう。相手チームが彼のプレーを研究し、封じ込めようとしたとき、それを逆手に使い、自分の技術を出せる。強敵と対峙するたび、彼は自らの技を革新させ、相手を凌駕できるのだ。

 たとえ一つのプレーでしくじっても、あきらめない。連続性の中、一瞬の感覚を研ぎ澄ます。そして、一つ上のランクのプレーヤーとして開眼する――。その点、メッシと久保は共通しているのだ。

エイバル戦のプレー

 コロナウィルスの影響でリーグ戦が中断される直前、久保はエイバル戦で極意を得たようなプレーを見せている。

 前半、何度もファウルで倒されながら、止まらずに前に進む。そこでFKを奪い、先制の起点となった。想定を超えた迫力に、相手は狼狽していた。

 後半には、自らカウンターで敵陣に突っ込み、3人に囲まれ、ボールを奪われてしまう。しかし味方が奪い返し、そのボールをゴール前で受けると、二人に立ちふさがれたが、脇を走る味方を囮に使う。そして利き足ではない右足でゴールを破った。敵陣に迫る力強さ、味方の信頼、ゴールを撃ち抜く覚悟と技術。久保の非凡さが集約されていた。

ボールを触るたび、成長する

「Desborde y Velocidad」(崩しとスピード)

 ラ・マシアのサイドアタッカーに対するスカウティングの基本を、メッシは極めてきた。

 例えば2010-11シーズン、カンプ・ノウでアスレティック・ビルバオを迎えた一戦、メッシは迫りくる3人のディフェンダーを、それぞれダブルタッチでかわし、エリア内でタックルを受け、転倒した(明らかなファウルだったが、笛は鳴らず)。ダブルタッチを目の前で見せられ、相手は相当に警戒しているにもかかわらず、止められない。居合抜きの要領で、懐に入ったときに足を差し出す敵を一刀のものとに切り下ろしているのだ。

 メッシは戦いの中でボールに触るたび、成長できる。間合いは達人の域で、相手の体勢などによって、微調整できる。なにより、そのプレーに成功することで、進化を遂げるのだ。

久保の進化スピード

 過去1年余りを振り返ると、久保の進化スピードも尋常ではない。

 2019年1月、17歳の久保はFC東京の補欠FWとしてスタートし、期待されていなかった。しかし、2月の開幕ではスタメンで出場している。チームメイトが舌を巻くほど、心身ともに鍛えられ、成熟していたという。

 久保は3,4月と試合を重ね、チームの主力になった。技術的にはもともと抜きん出ていたが、自信を深めていたし、守備も著しく改善されていた。5月のGWが明けたころには、絶対的エースとしてチームを首位にけん引。勝利をもたらすゴールを決められるようになった。6月には日本代表に選ばれ、レアル・マドリードとの契約が発表された。

 8月に開幕したリーガエスパニョーラでは、マジョルカに期限付き移籍。猛者が集う1部リーグで、プレー時間を徐々に増やしていった。そして中断前には、1部残留に奮闘するマジョルカの主力となって、来季のマドリード復帰も噂されていたのだ。

ボールを持ったら無敵

 久保は、時代を動かすパーソナリティを感じさせる。他の誰でもなく自らを恃みとし、チームを勝たせるという気概であり、その技術とも言えるか。英雄的選手だけが持っている特色で、進化の源だ。

 いくつもの変身を遂げてきたメッシと、今の久保は比べるべくもない。しかし、二人には共通点があった。敵を凌駕し、強者になる”進化力”だ。

「ボールが足元に入ったら、怖いものなんてないよ。自分は無敵になる」

 18歳だったメッシに、筆者がバルセロナでインタビューしたときの答えである。

 久保のこれからが楽しみだ。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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