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「全国的な地価上昇」の裏で横浜に暗い見通し。異国情緒は外国人観光客に魅力なし?

櫻井幸雄住宅評論家
横浜・山手の外国人墓地と洋館。日本人は異国情緒を感じるが、外国から来た人は……。(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

 異国情緒あふれる場所として観光客を多く集めている横浜。人口の多さで大阪市を凌ぐ日本第2の大都市が、今後、観光地としての人気が落ち、地価も下がる可能性がある、と言ったらどうだろう。

 そんなこと起きるわけがない、と思うだろう。しかし、横浜市は今インバウンド効果のカヤの外に置かれ、それが地価下落につながる可能性がある。

今、地価上昇がみられるのは、インバウンド効果が大きな場所が中心

 横浜には、地価下落の危険性がある。そのことを解き明かす前に説明したいことがある。それは、今、地価上昇がみられるのは、インバウンド効果が大きな場所が中心であるということだ。

 今年3月に発表された地価公示と7月に発表された路線価、そしてこの9月19日に発表された基準地価……地価に関する3つの公表で共通していることは、「都心でも地方でも地価が上昇している」こと。都心の地価が上がっていることは、今さらいうまでもないだろう。注目したいのは、地方でも地価上昇が認められるようになったことだ。

 たとえば、北海道のニセコ周辺や京都、石川県の金沢などで、地価上昇が顕著になっている。その理由として挙げられるのが、外国人観光客や外国人スキー客の増加だ。

 「東京から京都に向かう外国人観光客の多くが、ここを経由するようになった」といわれるのが、石川県の金沢。北陸新幹線が開業して以来、東京に降り立った外国人旅行客が金沢を経由して京都に向かうようになり、金沢市内には大きな荷物を背負ったり、引いたりする欧米人の姿が目立つ。

 同様に、外国人の姿が目立ち、外国資本の土地取得も増えているのが、北海道のニセコスキー場周辺。いずれも地価上昇が際立つ場所でもある。

 地方ではバブル崩壊以降、地価の下落が続いていた。下がり続けて、なかにはタダでも引き取り手のない土地もあり、“負動産”とも呼ばれるケースもある。

 そんな地方でも、インバウンド効果が大きい場所では地価が上昇している。これは、今後の不動産市況を考える上で注目すべき動きとなる。

 では、横浜のインバウンド効果は、どうか。これが、かなり見通しが暗いのである。

日本人に人気の観光地も、外国人には見慣れた景色

 今年2月28日に公表された国土交通省「宿泊旅行統計調査」平成30年・年間値(速報値)によると、昨年(平成30年)に日本を訪れた外国人ののべ宿泊者数は8859万人泊で調査開始以来の最高値となった。ちなみに、前年比で11.2%の増加だ。

 これに対し、日本人ののべ宿泊者数は4億2043万人泊で、日本人と外国人を合わせたのべ宿泊者数の全体は5億902万人泊。

 この5億902万人泊がどこに宿泊したかを調べると、以下の順位となる。

1位 東京都 6120万人泊

2位 大阪府 3576万人泊

3位 北海道 3527万人泊

4位 千葉県 2518万人泊

5位 沖縄県 2283万人泊

6位 静岡県 2141万人泊

7位 神奈川県 2035万人泊

8位 京都府 1828万人泊

9位 長野県 1821万人泊

10位 愛知県 1729万人泊

 横浜市がある神奈川県は全国7位の宿泊者数で、これを見る限り、横浜市の観光客も多いと推測できる。が、この数字は日本人を含めた数だ。外国人だけの宿泊者数を見ると、様相が一変する。

 以下は、都道府県別の外国人のべ宿泊者数。

1位 東京都 2177万人泊

2位 大阪府 1389万人泊

3位 北海道 818万人泊

4位 京都府 571万人泊

5位 沖縄県 525万人泊

6位 千葉県 406万人泊

7位 福岡県 316万人泊

8位 愛知県 291万人泊

9位 神奈川県 252万人泊

10位 山梨県 219万人泊

 神奈川県は、外国人ののべ宿泊者数で順位を落とし、日本人を含めたのべ宿泊者数全体のなかで外国人宿泊者が占める割合が小さいと分かる。

横浜よりも鎌倉……だから、新たな魅力施設が必要

 ズバリ言って、横浜は日本人観光客に人気が高くても、外国人には人気がない。

 横浜は本来、日本有数の観光地だった。が、それは、「日本人にとって、魅力的な観光地」である、という話。外国人にとって魅力的かどうか、となると、話が違ってくる。

 たとえば、山手にある外国人墓地は日本人にとって異国情緒あふれる場所。しかし、西洋人にとっては普段自国で見慣れた風景であって、わざわざ見に行きたいとは思わない。

 レンガ造りの建物が残る港町の風情も、西洋人には見慣れたもの。中華街も、外国人観光客を呼び込むインパクトは小さい。

 それよりも、日本的な街並が残る京都や金沢、鎌倉のほうが、外国人観光客に喜ばれる。だから、横浜に宿泊する外国人が少ないのだろう。

 これは、横浜市にとって、将来の危機となる。同様の危機は、これまで異国情緒で日本人観光客を呼び込んできた神戸や長崎にも起こりうる。

 少子化による人口減少が進む日本にとって、外国人は必要欠くべからざるもの。外国人は日本の経済を支える大きな柱になり、外国人が多く訪れる場所は、今後、景気と地価がさらに上昇する可能性がある。

 一方で、インバウンド効果が見られない場所には、将来の不安があるわけだ。

 現在、横浜市には400万人近い人口があり、大阪市を上回っている。

 巨大な経済圏ができあがっているだけに、将来、人口が減ってゆくことは大きな危機となる。

「クィーンの塔」と呼ばれる横浜税関と大桟橋。横浜は外国人を迎える「玄関口」であるが、このままでは目的地ではなく“通過点”になってしまう可能性がある。筆者撮影
「クィーンの塔」と呼ばれる横浜税関と大桟橋。横浜は外国人を迎える「玄関口」であるが、このままでは目的地ではなく“通過点”になってしまう可能性がある。筆者撮影

 今の経済をそのまま維持して行こうと思えば、外国人観光客や外国企業を呼び込む要素が必要になる。千葉県の巨大テーマパークや静岡県の富士山に匹敵するような……そんな思いが、IR(カジノを中心にした統合型リゾート)の誘致に走らせたのかもしれない。横浜市民の1人である私には、そう思えてならない。

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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