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IQOSのような「新型タバコ」への切り替えは「健康への害を減らす」のか

石田雅彦科学ジャーナリスト
(写真:イメージマート)

 いわゆる加熱式タバコの喫煙者が増えているが、その喫煙実態はあまりよく知られていない。健康を気にしつつ禁煙できない喫煙者が新型タバコに切り替える場合もあるが、完全に切り替えられないデュアルユーザーで害は減らないという研究結果も出ている。

切り替えは健康懸念と周囲への配慮から

 筆者は定期的に近所のターミナル駅にある公衆喫煙所へ入り、喫煙者の喫煙行動やどんなタバコを吸っているのか観察している。滞在時間は平均で約3分ほどで、2口3口吸って逃げるように出ていく喫煙者も多い。年齢層は老若男女だが、やはり中年男性が多く、女性は目立つがさすがに男性の1/4から1/5程度だ。

 紙巻きタバコと新型タバコの割合は3:1くらいだが、家庭では新型タバコ、公衆喫煙所では紙巻きタバコを吸う喫煙者もいそうだ。喫煙の理由は、欠乏したニコチンを摂取するためが主だが、もちろん紙巻きタバコにも新型タバコにもニコチンは入っている。

 これまでの研究によると、加熱式タバコなどの新型タバコに切り替えることで禁煙できたり、喫煙率を下げるという証拠はまだない(※1)。禁煙するために新型タバコは効果がないということだが、ではなぜ切り替えるかといえば、やはり健康への不安と周囲への配慮だ(※2)。

 多くの喫煙者は、タバコが健康に悪い影響をおよぼすことをよく知っている。そのため、なるべくなら害の少ないタバコ製品に手を伸ばす。タールやニコチンが少ないタバコ、フィルター付きのタバコ、そして加熱式タバコやスヌースのような新型タバコへ。

デュアルユースが8割

 タバコ会社は、新型タバコの有害物質について従来の紙巻きタバコより少ないとアナウンスしているが、新型タバコの有害性に関する研究にはタバコ会社の資金が入っていることも多く(※3)、有害性の低減という主張の信憑性には常に疑いがつきまとう。

 実際、新型タバコによる健康への害の懸念は増えてきている(※4)。例えば、香港の高校生で、非喫煙者と加熱式タバコの喫煙者を比べたところ、咳や痰が出るなどの呼吸器の異常が加熱式タバコの喫煙者で多かったという報告もあるし(※5)、最近ではIQOS(金属板にスティックを差し込む旧タイプ)のエアロゾルから炭化した有害物質が検出されたという英国ノッティンガム大学の研究も出ていたりする(※6)。

 また、切り替えた喫煙者が紙巻きタバコも吸うデュアルユースの場合、健康懸念の払拭のために新型タバコを吸う意味はほとんどない(※7)。これはタバコ会社の研究でもそう述べられていることだ。

 タバコ会社の研究でさえ、新型タバコに有害物質が入っていることがわかっているし、朝起きてから寝るまで長い年月、喫煙を続けるという喫煙者の生活習慣を考えれば、塵も積もれば山となる。そもそも紙巻きタバコでの研究で、1日数本の喫煙者でも長期間の喫煙で健康に悪影響が出る(※8)。

 多くの喫煙者は新型タバコには満足できない。紙巻きタバコのほうが手軽だし、美味しく感じるし、何よりニコチン満足度が期待できないからだ。そのため、新型タバコの喫煙者の約8割が紙巻きタバコとのデュアルユーザーと見積もられるが(※9)、前述した通り、デュアルユースは紙巻きタバコを吸い続けるのと同じ害となる。

 自身の健康にとって最もいい選択は、新型タバコも紙巻きタバコもどちらもやめることなのは間違いない。

※1:Harry Tattan-Birch, et al., "Heated tobacco products for smoking cessation and reducing smoking prevalence" Cochrane Library, doi.org/10.1002/14651858.CD013790.pub2, 6, January, 2022

※2-1:Charlotte N E. Tompkins, et al., "Factors that influence smokers’ and ex-smokers’ use of IQOS: a qualitative study of IQOS users and ex-users in the UK" Tobacco Control, Vol.30, Issue1, 15, January, 2019

※2-2:Anthony A. Laverty, et al., "Prevalence and reasons for use of Heated Tobacco Products(HTP) in Europe: an analysis of Eurobarometer data in 28 countries" The Lancet Regional Health - Europe, Vol.8, September 2021

※3:Erikas Simonavicius, et al., "Heat-not-burn tobacco products: a systematic literature review" Tobacco Control, Vol.28, Issue5, 2018

※4:Farzad Moazed, et al., "Assessment of industry data on pulmonary and immunosuppressive effects of IQOS" Tobacco Control, Vol.27, s20-s25, 29 August, 2018

※5:Lijun Wang, et al., "Characterization of Respiratory Symptoms Among Youth Using Heated Tobacco Products in Hong Kong" JAMA Network Open, Vol.4(7), e2117055, 14, July, 2021

※6:Clrement N. Uguna, Colin E. Snape, "Should IQOS Emissions Be Considered as Smoke and Harmful to Health? A Review of the Chemical Evidence" ACS OMEGA, doi.org/10.1021/acsomega.2c01527, 22, June, 2022

※7:Frank Lucicke, et al., "Effects of Switching to a Heat-Not-Burn Tobacco Product on Biologically Relevant Biomarkers to Assess a Candidate Modified Risk Tobacco Product: A Randomized Trial" CANCER EPIDEMIOLOGY, BIOMARKERS & PREVENTION, Vol.28, Issue11, 1, November, 2019

※8-1:Teryy Pechacek, Stephen Babb, "How acute and reversible are the cardiovascular risks of secondhand smoke?" the BMJ, Vol.328, 980, 22, April, 2004

※8-2:Allan Hackshaw, et al., "Low cigarette consumption and risk of coronary heart disease and stroke: meta-analysis of 141 cohort studies in 55 study reports" the BMJ, Vol.360, j5855, 24, January, 2018

※9:Matthew D. Stone, et al., "Switching from cigarettes to IQOS: A pilot examination of IQOS-associated reward, reinforcement, and abstinence relief" Drug and Alcohol Dependence, Vol.238, September, 2022

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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