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大気汚染、日中関係の悪化…、減少する中国在住日本人の子どもたち

中島恵ジャーナリスト

先週から今週にかけて、中国各地にある日本人学校で始業式が行われたが、そこで明らかになったのは、在校生数の減少だった。新聞報道などによると、北京の日本人学校(小学部・中学部)の児童数は今年、500人を割り込んだ。昨年4月に600人を割り込んだばかりで、今年はさらに100人ほど減少したことになる。

上海日本人学校も同様の傾向が出た。上海には日本人学校は2校あり、浦東校と虹橋校合わせて3000人ほどの生徒がいるが、今年は昨年よりも合計で200人以上減ったという。

原因は複数あるが、まずは大気汚染が第一に挙げられるだろう。PM2・5の影響は深刻だ。私も先日、北京を訪れたが、朝起きてカーテンを開けると、まるで夕方のようなぼんやりとした太陽がぽっかりと浮かんでいてびっくりした。大気汚染がひどい日には、町にもやがかかったように霞んでいて、見通しが非常に悪い。なんとなく「汚染臭」もする。何よりも、こうした空気を日々吸い続けることによって健康に甚大な害になることを実感した。

私の知人も、昨年、北京赴任の辞令を受けてすぐ、妻と子どもは同行させないと決めた、と話していた。子どもが小学校高学年なので、進学の問題ももちろんあるが、最大のネックは大気汚染だった。今は外出を控えるようにして何とか過ごせても、数年後、数十年後に、人体にどんな影響があるか、現時点ではよくわからないからだ。私も北京の地下鉄車内で、生後6カ月くらいの赤ちゃんが掌に収まるほど小さいマスクをしていた姿を見たときにはびっくりし、とてもやりきれない気持ちになった。

大気汚染以外にも原因が…

次に日中関係の悪化や日本企業のプレゼンスがじわじわと下がってきていることも関係しているだろう。わざわざ家族を帯同して腰を据えてビジネスを行うというよりも、昨今では撤退を視野に入れ始めた企業も増えてきている。長期滞在するかどうかわからないのであれば、とりあえず家族は日本に残して、という考えを選択する駐在員も多い。中国のあらゆる面でのコスト上昇も関係しているだろう。上海では鳥インフルエンザなどの問題もある。

日中関係が悪化することで、「なんとなく生活しにくくなった」「居心地が悪い」と感じている日本人もいる。そうした意味で、別の“空気”も遠因になっているのかもしれない。

私は以前、上海や大連にある日本人学校を何度か見学させてもらったことがある。学校内は、まるでそこだけ「日本」のようで、子どもたちは活発に学校生活を送っており、微笑ましかった。中国人と日本人のハーフの子どもも非常に多く、子ども同士は国籍に関係なく仲よく遊び回っており、屈託がなかった。中国語や中国の文化を学ぶ科目もあり、子どもたちの中国理解に役立っていると感じた。

そのときの情景を思い浮かべると、日本人学校で生徒数が減少していくというのは、まるで現在の日中関係のある面を象徴しているかのような気がした。

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「日本のなかの中国」「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミア)、「中国人のお金の使い道」(PHP新書)、「中国人は見ている。」「日本の『中国人』社会」「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国を取材。

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