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俳優の芦名星さん突然の訃報:コロナ禍のストレスと自殺防止の心理:自殺予防週間に

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
ありし日の芦名星さん:艶やかに 都内でファッションショー(写真:ロイター/アフロ)

■女優の芦名星さん突然の訃報

悲しいニュースです。女優の芦名星(あしな せい)さん(36歳)が亡くなられていたのが、自宅マンションで見つかりました。

亡くなられた原因は不明ですが、報道によると、警察は自殺と見て調査を進めているということです。

芦名星(あしな せい)さんのお名前を聞いてすぐにはわからない人も、テレビドラマ『相棒』(テレビ朝日2017~2019)の女性記者役とか、『テセウスの舟』(TBS2020)のメッキ工場の職員、大河ドラマ『八重の桜』(NHK2013)での会津藩士の娘、妻役など、数多くの出演作品を聞き、お顔を拝見すると、「ああ、あの女優さんか」とわかる人も多いことでしょう。連続ドラマの主演も務めてきました。

ウィキペディアによると、芦名星さんは『八重の桜』の舞台である福島県のご出身で、東日本大震災でご実家が全壊の被害にあうものの、被災地支援の活動も行ってきました。

■有名人、芸能人の突然の訃報

今年2020年も、多くの芸能人、有名人が亡くなっています。

渡哲也さん、野村克也さん、梓みちよさん。拉致被害者家族の横田滋さん。コロナ禍で亡くなった岡江久美子さん、志村けんさん。そして、先日亡くなった三浦春馬さん。

往年のファンにとっては、高齢とはいえ昔から応援ししていた人が亡くなるのは、辛いものです。私の母は、昭和9年生まれですが、同世代の美空ひばりさんの訃報を聞いたときは、まるで親友や親戚が亡くなったかのような衝撃を受けていました。

それでもかなりの高齢とか、以前から病気療養中と知っていれば、心の準備もできますが、突然の訃報は辛いものです。家族親戚でもなく、友人でなくても、いつもテレビで顔を見るような人には親しみを感じているからです。

身近な人や、親しみを感じている人との死別は辛いものです。特にまだ若い人や、突然の訃報なら、なおさらです。

そして自死された三浦春馬さん。そのショックからまだ立ち直れない人も多くいるでしょう。

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ファンの方々はもちろん、特にファンではなかったのにという方々も、自分の心がこんなに沈むとは思わなかったとおっしゃっている方もいました。

芸能界での突然の訃報は、同じような悩みを抱える他の芸能人にも影響を与えているかもしれません。しばしば、大きな自殺報道は、次の自殺を誘発してしまいます。

■心の苦しみ、ストレスが重なるとき

人は、元気な時には、多少のことなら跳ね返せます。しかし、ずっとストレスが続き、心が弱っている時には、いつもなら跳ね返せることが大きなダメージになることもあります。

一人ひとりの事情は様々で、私たちは各個人の苦しみを知ることはできません。ただ、この半年のコロナ禍がストレスになっていない人はいないでしょう。

コロナによる世界の惨状。見ているだけでも辛くなります。日本でも、学校が休校になり、どの観光地も店も、客は激減。収入減少。品不足も続き、慣れない遠隔授業やリモートワーク。コロナのせいで多忙になった人もいます。これらが、ストレスにならないわけがありません。

仕事を失った人もいます。楽しみにしていたイベントが中止になった人もいます。多くの「喪失体験」をした人々がいることでしょう。

うつや自殺など、様々な心の問題は、一回の大きな出来事だけでなく、むしろ日々のストレスの罪重ねが悪影響を与えます。

思うようにいかない仕事や勉強。家族や友人との不和。楽しみにしていた趣味の集まりも中止。そして失業や離婚。こんなストレスフルな出来事が続けば、心身の不調も当然です。

被害とストレスは、芸能界にも及びます。ドラマも中止で再放送が続いていた時には、番組制作会社の人も仕事がなかったと語っていました。ある演劇関係の人は、この半年仕事はゼロだったと語っていました。

忙しすぎること、責任が重すぎることもストレスですし、仕事がないこと、やりがいのある仕事が減ることも、ストレスです。

人は、いくつかの苦しい出来事が重なって、とうとう心も体も悲鳴を上げ始めるのです。

■ストレスと心の癒し

どんなに強くて有名な人でも、心のバランスが崩れることはあります。ストレスが多い人ほど、ストレス発散の場、癒しの場、コンフォートゾーンが必要です。

コンフォートゾーンとは、ストレスのない「居心地のいい場所」です。

しかし、本当の癒しのためには、コンフォートゾーンだけでは不十分です。コンフォートゾーンから飛び出して、冒険や活躍をすることも大切です。

病気や怪我の時に、安静にしていることが必要であり、リハビリが必要であり、健康な体のためにはスポーツも必要なのと同じです。ただ体以上に、心はいつ安静が必要で、いつリハビリやスポーツが必要なのか分かりにくいのが問題です。

■自殺予防デー/自殺予防週間

今月9月10日は世界自殺予防デーでした。今年のテーマは、「Working Together to Prevent Suicide」(自殺防止のために、共に協力しよう)でした。

自殺防止は、医師や心理カウンセラーだけの仕事ではありません。みんなの協力が必要です。

9月10日~16日は、厚労省による自殺予防週間です。

厚労省自殺防止週間ポスター
厚労省自殺防止週間ポスター

「死にたい」「消えたい」「遠くへ行きたい」は自殺のサインです。「(仕事や学校を)やめたい」や、身辺整理なども、自殺のサインの時があります。ただ、何が自殺のサインかわからないことも多くあります。

自殺のサインがわからなくても、自殺防止はできます。

あなたが「あれ?」と感じた時に、一声かけましょう。説教も感動的な話もいりません。

一声かけて、「大丈夫」と返事が返ってきても、もう一声かけて、少しおしゃべりをしましょう。それが、自殺防止になるかもしれません。

芦名星さんのご冥福をお祈りしています。素敵な女優さんでした。とても残念です。このような残念なお別れを、少しでも防いでいきたいと願っています。

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社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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