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軽減税率、KFCのテイクアウトとイートインが同じ値段の理由

森信茂樹東京財団政策研究所研究主幹 
軽減税率の値付けを決めたKFC(写真:西村尚己/アフロ)

いよいよ軽減税率が始まる

消費税軽減税率の導入が10月1日に迫ってきた。煩わしいのがテイクアウト(食品として軽減税率の8%)とイートイン(レストランサービスとして標準税率の10%)の区分である。

ケンタッキー(日本KFCホールディングス)の値付け

7月20日付の日経新聞朝刊は、「KFC、店内・持ち帰り同額に 軽減税率の対応 方針転換」として、日本KFCホールディングス(HD)が、軽減税率の導入後も、テイクアウトとイートインの税込み価格について、本体価格を調整して税込み価格をそろえることとした。」旨報道している。

理由は、「持ち帰りと店内飲食で税込み価格が異なることによる従業員や来店客の混乱を防ぐため」である。

英国とドイツの例

消費税の本場、英国とドイツのコンビニやファストフードの例を見てみよう。

英国でもドイツでも、原則テイクアウト(軽減税率)とイートイン(標準税率)は、消費税率が異なるので、価格も別々に表示されている。

図表1

英国のコンビニ
英国のコンビニ

図表2

ドイツのファーストフード店
ドイツのファーストフード店

もっとも、英国では、テイクアウトについてはさらに細かく区分されており、温かい食料品(ホット・フード)の場合は、レストランサービスということで、標準税率となる。そこでマクドナルドのハンバーガーは、すべて20%の標準税率となっている。スープや温めて食べるパイなどは、ホット・フードコーナーを設置して、消費者にわかりやすくしている。

図表3

英国のホットフード(標準税率)
英国のホットフード(標準税率)

ドイツマクドナルドの例

一方ドイツのマクドナルドでは、テイクアウトでもイートインでも価格は同一に設定されている。

図表4

ドイツマクドナルドのレシート
ドイツマクドナルドのレシート

これは、「テイクアウトといって安く買い、その場で食べる」ということを排除するためである。ただし正確な納税のため、テイクアウトとイートインは消費者に尋ね区分する必要がある。

値付けは店の自由

背景にあるのは、欧州では、店側は、増税分を転嫁するだけでなく、顧客や従業員が混乱しないような値付けをする自由度があるということと、消費税は売上全体として計算・納税されるという認識・理解が進んでいるということである。すべての商品に同率で一斉に(前日に徹夜して)値上げする傾向の強いわが国とは感覚が異なっている。

わが国の消費税法も、「売り上げ合計に係る消費税額から仕入れ合計にかかる消費税額を差し引いて納税する」こととなっており、個別品目ごとに計算するわけではない。価格転嫁も全体として出来ていればよいわけだ。

今回の増税に当たっては、わが国の小売りも、より自由度の高い値付けをすることが、消費増税前の駆け込みや反動減を防ぎ、結果として店側のマージンの最大化につながると筆者は考えている。

東京財団政策研究所研究主幹 

1950年生まれ。法学博士。1973年京都大学卒業後大蔵省入省。主に税制分野を経験。その間ソ連、米国、英国に勤務。大阪大学、東京大学、プリンストン大学で教鞭をとり、財務総合政策研究所長を経て退官。東京財団政策研究所で「税・社会保障調査会」を主宰。(https://www.tkfd.or.jp/search/?freeword=%E4%BA%A4%E5%B7%AE%E7%82%B9)。(一社)ジャパン・タックス・インスティチュートを運営。著書『日本の税制 どこが問題か』(岩波書店)、『税で日本はよみがえる』(日経新聞出版)、『デジタル経済と税』(同)。デジタル庁、経産省等の有識者会議に参加

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