定額給付金のトリガーになるか「サーム・ルール: Sahm Rule」話題の景気指標。
米連邦準備理事会(FRB)の元エコノミスト、クローディア・サーム博士(Dr. Claudia Sahm)が提唱する、景気指標が話題だ。失業率をみると、景気後退入りがわかるというもの。まず、グラフをみてみよう。
この折れ線が0.5を上回れば景気後退シグナルであるとして、自動的に定額給付金を配るという提案つきのものだ。これまでのところ、0.5を超えた赤丸部分は景気後退期(グラフの背景が薄いグレーの部分)をうまく当てている。
折れ線の値は、失業率(季節調整値)の月次データを用いて次のように計算される。[当月を含む過去3ヶ月平均]ー[13ヶ月前~前月までの最低値]が折れ線の値で、それが0.5%ポイントを上回ったことを、景気後退局面に入ったシグナルとする。より機動的な財政出動が可能とのこと。米連銀(FRB)セント・ルイスのウェブサイトでリアルタイムデータをみることができる。
日本版サーム・ルール
私も日本のデータを使って試算したみたところ、下図のようになった。
このように日本のデータで試算してみたものの、日米の雇用環境の違いからか、米国版のようなわかりやすい相関は見当たらなかった。経済の実態や特性に応じたチューニングは必要なのだろうと思う。
ここで特筆すべきは、サーム博士の提案には、サーム指数が0.5%ポイントを上回ったときに自動的に定額給付金を配る財政パッケージもあるところだ。課税控除・税額控除といった財政出動ではなく、直接の給付金のほうが景気刺激効果が見込めるというエビデンスに基づいた提案であろう。これは、かつてのビルトイン・スタビライザー(安定化装置)を彷彿とさせる、”自動スタビライザー”の名を冠しており、この響きには、人々の興味を掻き立てるものがありそうだ。
もちろん問題は多い。そもそも、(1)直近3ヶ月の平均を過去1年の最低値と比べる根拠はなにか、3ヶ月・1年といったパラメーターは妥当なのか、(2)失業率以外の他にもっと適切なデータはないのか、(3)過学習やオーバーフィッティングはおきていないのか、(4)ルーカス批判にはどう応えるのか、等々。
定額給付金が財政政策の選択肢にもなったとはいえ、給付金のあり方は常に政治利害に左右される。そこで、政治判断や政治利害とは独立の、”自動安定化装置”を起動するトリガーとして、サーム・ルールのようなものが検討されてもよい....のかもしれない。
(学年は1つ違うが、サーム氏と筆者はミシガン大学経済学の博士課程のクラスメートでもある。筆者は、サーム氏の履修する経済数学のティーチング・アシスタントをしていたこともあったし、同じ講義をとったこともあり、ミシガン大学のことがとても懐かしく思い出された。Go Blue!)