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支持政党・投票先・余命ウェイト投票・投票力指数

竹内幹経済学者。一橋大学経済学研究科・准教授。
衆院選の投票結果をビジュアル分析しました(いずれの図も筆者作成)

第50回衆議院議員総選挙が終わった。インフレによる物価高で生活が苦しくなるなか、これといった有効な対策がとられなかったこともあり、自民党が大きく議席を減らした選挙だった。ここでは各種の調査から3つのことを計算し簡単な可視化をしたい。

(1)どの党の支持者がどこに投票したのか、(2)若者の声を押し上げる「余命別投票」のシミュレーション、(3)与野党の連合における交渉力をみるシャプレイ値。

まず、(1)どの党の支持者がどこに投票したのか。これを次のサンキー・ダイアグラムにした。左側は「普段の支持政党」の割合で、それぞれが実際にどの党に投票したのかを一目でわかる便利な図だ。

3割を占める無党派層の投票先は、主に、立憲民主党、自民党、国民民主党へと分かれた。自民党支持者のうち半数近くの票が、自民党以外にまんべんなく逃げて行ったさまも一目でわかる。
3割を占める無党派層の投票先は、主に、立憲民主党、自民党、国民民主党へと分かれた。自民党支持者のうち半数近くの票が、自民党以外にまんべんなく逃げて行ったさまも一目でわかる。

3割を占める無党派層の投票先は、主に、立憲民主党、自民党、国民民主党の3党へと分かれた。また、自民党支持者のうち半数近くの票が、自民党以外にまんべんなく逃げて行ったさまも一目でわかる。

左の支持政党割合は時事通信社の出口調査を、支持政党ごとの投票先は日本テレビの出口調査を利用させていただいた(調査結果は事実であって著作物でないので)。

(2)若者の声を押し上げる「余命別投票」のシミュレーション。世代間の利害の違いを調整するのが政治の役割でもある。しかし、人口減少が続くかぎり、1人1票の投票制度では、若者は常に少数派になってしまう。若者が減ると、投資的政策よりも消費的政策がとられがちだという実証結果もあり、こうした高齢者に有利な状況はしばしば「シルバー民主主義」とも揶揄される。

そうした状況を解決する策として、余命別投票という考えがある。これは、これからの日本の将来に責任をとれる(とらざるをえない)若年世代の票に重みをつけるものだ。例えば、60歳男性の平均余命は23.68年であるのに対して、20歳男性は61.45年と、2倍以上は長生きすることになる。長生きする若い人に重みをつけることを、例えば人口ピラミッドにあてはめてみよう。すると、ゆがんでしまった人口ピラミッドも再建できるのだ(下図参照)。同じように、若い人の投ずる1票にも重みをつけるのはどうだろうか。つまり、20歳の投ずる票の重みもその余命の比率に応じて重くしてもよいのではないだろうか。

若い人の票や人口を余命の長さで加重してやると人口ピラミッドが再建できる。
若い人の票や人口を余命の長さで加重してやると人口ピラミッドが再建できる。

この余命ウェイトを使って、衆議院比例代表選挙(比例代表)各政党の得票率をシミュレーションしてみよう。まず、日本テレビの出口調査から、各年代がどの政党に投票したのかは推測できる。これに、各年代の①人口、②投票率(2021年の前回選挙での調査値)、③平均余命とを乗ずれば、余命別投票(余命加重投票)を行った際の各政党の得票率が試算できる。

世代ごとの支持に差が大きかったのは、国民民主党だ。同党は特に現役世代の手取りを増やすことをスローガンにしており、世代によって評価が異なるようだ。日本テレビの出口調査によれば、20代は26%が国民民主党に投票しており、これは自民党への投票19%を上回りトップである。しかし、70歳以上の高齢者は国民民主党を支持しておらず、わずか5%しか国民民主党に投票していない。余命加重をかけることで、国民民主党のように世代間で支持が異なる政党の得票率があがることが予想できる。下図がそのシミュレーション結果だ。

余命加重をかけることによって、自民、立憲などの得票率は下がる一方、国民民主党やれいわなどが伸びる。
余命加重をかけることによって、自民、立憲などの得票率は下がる一方、国民民主党やれいわなどが伸びる。

上側の青い棒は、出口調査の結果を集計したもの。各年代の人口と推定投票率をかけてから、投票先政党の票を合計したもの。一方、下側のオレンジ色の棒は「余命加重得票率」を示す。これは、65歳以上の票の重さを1とすれば、余命の長さの比率を採用し、20代の票は2.71倍、30代は2.27倍、40代は1.83倍、50代は1.40倍に加重した結果である。

自民党は各年代で一定の支持層があるので、余命加重がかかっても得票率にはあまり変動がない。しかし、高齢者に高く支持される立憲民主党は、余命加重によって得票率を2%ポイントほど下げる結果となる。一方、若者に支持される国民民主党の得票率は2.5%ポイントも上昇する。これは、2.7倍の重みをもつ票を投ずることができる20代に同党が支持されているからだ。

「余命」という言葉はややもすると残酷な響きがあるので、「未来加算投票制度」とでも改名したらよいだろう。少数派になりがちな若者に対するアファーマティブアクション(ポジティブアクション)だととらえればよいのかもしれない。

最後に、(3)与野党の連合における交渉力をみるシャプレイ値を計算しよう。どの政党も単独過半数がとれない場合、連合政権が組まれることになろう。その場合には、キャスティングボートをどの政党が握るかを占いたくなる。このとき、ただ議席が多い政党ほど有利とは限らない。自公政権の公明党がそうであったように、過半数達成の実現に欠かせないサイズの政党が交渉力をもったりする。たとえば、対立する左派党(40議席)と右派党(40議席)に対して、X党(20議席)がいたとしよう。左右の連合がありえないとすれば、X党がどちらになびくかで政局は決まってくる。このようなときには、議席数は少ないにもかかわらずキャスティングボートを握るX党の発言力が非常に大きくなる。

シャプレイ値は、そうした発言力のようなものを計算してくれる便利な指標だ。2012年にノーベル経済学賞を受賞したシャプレイ博士によるもの。

10政党いるので、ランダムに政党をひとつずつ順番に選んで連合に加えていく作業をしてみよう。10政党全部を連合にいれてしまうまで政党を加え続けるので、必ず途中で、連合の議員数が過半数223名に達するはずだ。そのときまさに、連合の大きさを過半数にしてあげた政党がいわばキャスティングボートを投じたといえる。

このようなランダムな連合形成のやり方は、全部で10!=362万8800通りの仕方がある。そのうち、どの政党がどれだけキャスティングボートを投ずることができたかを計算するのがシャプレイ値だ。厳密にはシャプレイ・シュービック指数というもので、この指数は発言力を表すひとつの指標として知られている。これに総議席数をかけることで、実際の獲得議席数とは異なった、力関係が浮かび上がる。

中規模の第2党は不利、第3党は有利というのが可視化される。立憲民主党は148議席もあるが、キャスティングボートを投ずる機会を測るシャプレイ値は低く、その発言力の強さは73名相当と低く評価される。
中規模の第2党は不利、第3党は有利というのが可視化される。立憲民主党は148議席もあるが、キャスティングボートを投ずる機会を測るシャプレイ値は低く、その発言力の強さは73名相当と低く評価される。

中規模の第2党は不利、第3党は有利というのが可視化される。立憲民主党は148議席もあるが、キャスティングボートを投ずる機会を測るシャプレイ値は低く、その発言力の強さは73名相当となる。どのような政権運営・国会運営となるのかが楽しみにみえてくる試算ではある。

ともかくも、選挙の結果や連合の在り方に関わらず、正しい政治が行われ、多くの利害が穏健に調整されることを私は望む。

経済学者。一橋大学経済学研究科・准教授。

1974年生まれ。一橋大学経済学部卒、ミシガン大学Ph.D.(経済学博士)。カリフォルニア工科大学研究員などを経て現職。専門は実験経済学と行動経済学。文部科学省学術調査官、法務省司法試験予備試験考査委員などもしました。1男1女の父。

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