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なぜレアルでベンゼマが不可欠な存在なのか?ゼロトップの可能性とアンチェロッティの苦悩。

森田泰史スポーツライター
レアル・マドリーのベンゼマ(写真:ロイター/アフロ)

リーガエスパニョーラで、首位を快走している。

現在、リーガでトップの座を守っているのはレアル・マドリーだ。2位バルセロナ(1試合未消化)との勝ち点差は12ポイント開いており、マドリーが優勝に向けて前進している。

クラシコではバルセロナが勝利
クラシコではバルセロナが勝利写真:ロイター/アフロ

一方、マドリーに課題がないわけではない。そのひとつが、カリム・ベンゼマ不在時の解決法だ。

先のクラシコで、マドリーはバルセロナに0−4と敗れた。カルロ・アンチェロッティ監督はその試合でルカ・モドリッチのゼロトップを試している。結果、守備の場面でプレスが掛からず、攻撃面では組織的なビルドアップを行えずに大敗した。

ベンゼマは今季、公式戦35試合に出場して34得点を記録している。ただ、ゴールだけではなく、マドリーの攻撃の全権を担う存在になっている。

ベンゼマが左サイドに流れ、ボールを受ける。右利きのベンゼマが前を向き、ドリブルとパスを駆使しながら内と外を使い分けた攻撃を仕掛ける。マドリーの攻撃はベンゼマで始まり、ベンゼマのフィニッシュで終わるのだ。

■ベンゼマの存在感

ベンゼマは2009年夏にリヨンからマドリーに移籍した。クリスティアーノ・ロナウドやカカーといったバロンドール級の選手と同時期に加入したため、期待値は彼らほどには高くなかった。

それでも、レアル・マドリーの“9番”である。試合に出れば、ゴールを求められる。ベンゼマが得点を奪えなければ、本拠地サンティアゴ・ベルナベウであろうと、マドリディスタから容赦ないブーイングを浴びせられた。

「猫を連れて狩りに出るようなものだ。犬を連れているより、狩りの収穫は少なくなる」とベンゼマを評したのはジョゼ・モウリーニョ監督である。当時、マドリーではベンゼマとゴンサロ・イグアインがレギュラー争いをしていた。そして、イグアインが欠場した試合でマドリーの得点力は下がっていた。

イグアインとベンゼマ
イグアインとベンゼマ写真:ロイター/アフロ

しかし、以前のベンゼマがマドリーでゴールを量産できなかったのには、理由がある。それはC・ロナウドとの関係性に起因する。

C・ロナウドは、2009年夏にマンチェスター・ユナイテッドからマドリーに移籍して以降、ストライカー色をより濃くしていった。リオネル・メッシとバロンドール争いをしていたという事情もあるかもしれない。いずれにせよ、C・ロナウドはマドリーで得点数を稼いでビッグタイトルを獲得することに野心を抱いていた。

そのC・ロナウドの“最良のパートナー”となったのが、ベンゼマだった。

ベンゼマはC・ロナウドのためにスペースメイキングを行い、ポストワークをこなした。守備面では、エースの負担が軽くなるように、プレスを掛けるべく汗をかいた。拮抗したゲームになればなるほど、C・ロナウドの横にベンゼマがいるというのが、マドリーの勝利のための必須条件になっていった。

得点を喜ぶクリスティアーノとベンゼマ
得点を喜ぶクリスティアーノとベンゼマ写真:ロイター/アフロ

ベンゼマとC・ロナウドが共にプレーした9シーズンで、ベンゼマが30得点以上を記録したのは1シーズン(2011−12シーズン/32得点)のみである。

他方で、ベンゼマは2018年夏にC・ロナウドが退団してから、18−19シーズン(27得点)、19−20シーズン(30得点)、今シーズン(現在34得点)と決定力を発揮してきた。かつて、彼が引き立て役に徹していたのは明らかである。

■ゼロトップの可能性

今季、マドリーはリーガの4試合でベンゼマが欠場している。その4試合の戦績は2勝1分け1敗だ。だがバルセロナに敗れ、ビジャレアルに引き分けており、相手が強くなると影響が出るのは否定できない。なお、コパ・デル・レイではベンゼマが欠場した試合でアトレティック・クルブに敗れて敗退が決まっている。

順当に考えれば、ルカ・ヨヴィッチ、マリアーノ・ディアスがベンゼマの代役になる。2019年夏に移籍金6300万ユーロ(約70億円)で加入したヨヴィッチ、カンテラーノのマリアーノが活躍すれば、クラブとしては万々歳だ。しかしながらヨヴィッチ(リーガ13試合1得点)とマリアーノ(5試合無得点)の得点力は物足りない。

そこでアンチェロッティ監督がテストしてきたのがゼロトップである。マルコ・アセンシオ、モドリッチといった選手がこのポジションで試されてきた。先日のクラシコでは、モドリッチがゼロトップに入った。だが攻撃で成果が挙がらず、ボールの循環は悪くなり、守備ではブロックが崩れた。モドリッチのいない中盤では、チームにベクトルを示せる選手がいなくなった。そのゲームで、マドリーで最多パス本数を記録したのはエデル・ミリトン(61本)だった。

「ベンゼマのクオリティを備えた選手は、他にいない。彼はポゼッションで我々を助けてくれるが、それをアセンシオにも期待した。だが我々のプランはうまくいかなかった。相手のプレスが激しく、チャンスを作れなかった」とはアセンシオをゼロトップで起用した時のアンチェロッティ監督のコメントだ。

また、モドリッチをゼロトップで起用した際には「ボールを保持して、前からプレスに行きたかった。だが先制されて我々はコントロールを失ってしまった。モドリッチをあのポジションに置いたのは、ビルドアップを良くしてバルベルデやヴィニシウス 、ロドリゴといった選手でスペースを使うためだった。しかし、それは失敗だった」とイタリア人指揮官は語った。

ゼロトップで起用されたモドリッチ
ゼロトップで起用されたモドリッチ写真:ロイター/アフロ

ベンゼマ不在時の解決策を、アンチェロッティ監督が考えていないかと言えば、そうではない。

だが、そのミッションは困難を極めている。そして、マドリーはその状態でタイトルが懸かる最も重要なシーズン終盤の戦いに向うことになる。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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