井山裕太七冠に挑む「静かなるファイター」村川大介八段
日本囲碁界を席巻する井山裕太七冠(28)の前に強力な挑戦者が登場した。
1月25日大阪市・関西棋院で行われた第56期十段戦(産経新聞社主催)挑戦者決定戦、村川大介八段(27)-志田達哉七段(27)の対局は152手で白番村川が中押し勝ちし、井山裕太十段(七冠)への挑戦権を獲得した。
村川八段は国内では無敵の強さをほこる井山裕太七冠を、年下としてただ一人タイトル戦で破った実績を持つチャレンジャーである。十段戦五番勝負は3月6日大阪府東大阪市で開幕する。
内に秘めたる強さ
井山十段への挑戦が決まった数日後、筆者は村川八段にインタビューをお願いした。ひとたび対局の場を離れれば、勝負師とは思えないようなおだやかな受け答えから、将棋界のスーパースター羽生善治竜王にも似た「外柔内剛」の底を見せない芯の強さを感じた。
これまで二人はタイトル戦の大舞台で3回戦っており、番勝負としては井山の2勝1敗、今回が4回目の五番勝負となる。
<井山裕太七冠vs村川大介八段 過去のタイトル戦成績>
2014年 第62期王座戦五番勝負
井山王座2-3村川七段(奪取)
2015年 第63期王座戦五番勝負
村川王座0-3井山棋聖(奪取)
2016年 第41期碁聖戦五番勝負
井山碁聖(防衛)3-0村川八段
ツキも味方に
データが示すように2014年の王座戦では村川七段(当時)がフルセットで勝って王座を奪取している。チャレンジャーとして番勝負に臨むのは今回が3度目、今期十段戦の挑戦までの道のりについて振り返ってもらった。
村川「今回の十段戦はトーナメントで強敵とばかり戦い、苦しい碁も多かったですが強い相手に勝てたことは自信になっています。中でも準決勝の許家元七段(20)との対戦は強さを認めていた棋士なので半目残せた(*筆者注・最少差での勝ち)ときはうれしかった。ちょうどその日は自分の誕生日だったのです。2014年の王座戦で井山さんに挑戦した時も2局連続の半目勝ちがあり、そのときに似たツキを感じました。この幸運を五番勝負につなげたいと思います」
盤に臨めば「自分の碁」を打つのみ
5歳で碁を覚えた村川八段は小学3年生、8歳で関西棋院の院生(プロ養成機関の会員)になってからわずか3年で入段、11歳10カ月小学6年生でのプロ入りは関西棋院最年少記録だ。日本棋院所属の井山七冠は同年少し前に、12歳中学1年生でプロ入りしており、いつも一歩前を行くライバルの姿を目標にしてきた。
村川「井山さんとは小学生のとき中国で日中若手同士の交流企画があって、それをきっかけに仲良くなりました。最初は実力でかなり離されていたので納得いかない気持ちもありましたが、棋士になってからはとにかく頑張るよりないという心構えで精一杯追いかけてきました。
五番勝負はこれまでの教訓を生かして戦います。結果はコントロールできないものですから、いつもどおり地道に努力するよりありません。相手に関係なく自分の頭で考え工夫して納得のいく碁を打ちます」
現在村川八段は「黄金の椅子」と呼ばれる名人リーグに在籍、プライベートでも昨年春に結婚し公私ともに充実している。十段戦五番勝負でファンの期待にたがわぬ接戦が演じられることは間違いないだろう。
<第56期十段戦五番勝負日程・対局場>
第1局 3月6日 大阪府東大阪市「大阪商業大学」
第2局 3月22日 埼玉県戸田市「戸田市文化会館」
第3局 4月12日 長野県大町市「くろよんロイヤルホテル」
第4局 4月20日 大阪市「日本棋院関西総本部」
第5局 4月26日 大阪市「関西棋院」
<村川八段プロフィル>
1990年12月14日兵庫県生まれ。27歳。森山直棋九段門下。
5歳のとき父から碁を教えられ、のち関西棋院院生になる。2002年入段。08年五段。10年関西棋院第一位を獲得し七段に飛付昇段。11年新人王戦優勝、産経プロアマトーナメント優勝(12年、14年も優勝)。12年名人リーグ入り(通算6期)。13年阿含桐山杯で初の全棋士参加棋戦優勝、棋聖リーグ入り(Sリーグ通算3期)。14年王座獲得(八段昇段)。16年碁聖戦挑戦。
趣味は将棋観戦とプロ野球観戦(阪神)。