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エド・はるみ「クイズにされた」どん底でつかんだ学び

中西正男芸能記者
思いを切々と語ったエド・はるみ

  “グ~”で2008年には新語・流行語大賞も受賞したエド・はるみさん(54)。日本テレビ系「24時間テレビ」のチャリティーマラソンランナーも務めるなど、一躍時の人となりましたが、ブレーク後は「一部週刊誌の悲しい記事やネットでの心ない書き込みで、毎日泣いていました」と振り返ります。どん底の日々から抜け出すために、2016年からは慶應義塾大学大学院のシステムデザイン・マネジメント研究科に入り、ネガティブな気持ちをポジティブに少しずつ反転させていく研究を続けてきました。学びをまとめた著書「ネガポジ反転で人生が楽になる」も上梓。「誰でも生き続けたいんです。幸せな気持ちで」とあふれる思いを言葉に置き換えていきました。

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ブレーク後に

 芸人になる前に俳優を二十数年やっておりまして、そこから転じて、お笑いの世界に入りました。人生をかけた最後のチャンスだと思って、2005年に吉本興業の養成所に入ったんです。

 3年目に「グ~」でようやく皆さんに知ってもらえるようになりました。自分のしたかったことでご飯が食べられる。本当によかったなと。カブトムシじゃないですけど、やっと土の中から出てきたというか。そして、外に出て1年くらいで、徐々に状況が落ち着いてきました。

 その頃から、自分の本意とは違う悲しい記事とか、心ないネットの書き込みが増えてきまして…。そこから数年間は、ただただ心が傷つく日々が始まりました。

毎日泣いていた

 細かく言うと、2009年あたりから記事が出だして…。そこから5~6年、2014年末までは全く光のない時間でした。常に、心の水がいっぱい、いっぱい。水があふれたら、もう終わり。耐えて、耐えて、耐えて…。人間として壊れそうでした。

 ほぼ毎日泣いていました。ネガティブなことしか頭に浮かんでこない。テレビも見ることができない。見たら、知っている皆さんが活躍されている。正直、それを見るのもつらい。たまに自分が出てきたと思ったら「この人の名前は何でしょう!?」とクイズにされている。そして、また、そのクイズで皆さんが笑っている。皆さんに笑ってほしくてこの仕事に就いたはずなのに、なんでこんなにつらいのか。その矛盾も心にささってくるというか…。

 記事や書き込みにしても、もし自分が本当にしたことでしたら、自業自得だと思うんです。ただ、そうじゃないことが独り歩きして、どんどん広まっていく。それにどう対処したらいいのか分からないし「違う」と発信する場もない。

 結局、家で夫に話すくらいしかないんです。最初は夫も聞いてくれたんですけど、途中からは「気にしすぎだ」と言うことも増えてきて…。ただ、こちらからしたら「そりゃ、気にするでしょう」となる。それまで夫婦げんかなんてしたことなかったのに、そのことでけんかも増えました。

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100対0

 あと、私の職業的に「なんで、笑いで返さないの?」という人も出てきました。「何を真剣になっているの?」「人さまの前に出る仕事なんだからしょうがない」というような声もいただきました。ただ、笑いにできないこともある。「しょうがない」と思おうとしても、一つや二つではなく、次から次へと出てくる。親にも相談して「分かってくれる人は分かってくれるから」と言ってくれたりもしたんですけど、それだけではどうしても気持ちを落ち着かせることができませんでした。

 真実って不思議なもので、100対0って、なかなかないんですよね。たとえば、その場所に行ったのは間違いないけど、そんなことはしていない。もしくは、その人と話したけど、そんな言い方はしていないとか。40までは本当だけど60が違う。10だけが本当で90はウソだとか。それをいちいち言って回るのは不可能ですし、話によっては、私が本当のことを言うことによって、誰かが傷つくようなこともある。

 さらには、なかなかないと思っていた100対0の話、つまりはそんな事実が根っこから何にもないという話まで出てきてしまって。そういった案件が無限に出てくるんです。

大学院という光

 それが何年も続きまして、さすがにもう限界だと。何も希望がない。なぜこんなにつらいのか。いったい、何がどうなっているのか。自分のあり方、仕事、そして、社会までをもう一度勉強しなおしたい。そう思って行きついたのが、大学院に行くということだったんです。その道が見えた瞬間、初めて光が差しました。

 2015年の10月に大学院に合格して、翌年から実際に通いだしました。そうすると、サーッと視野が広がったんです。学ぶ中で、苦しんでいるのは私だけじゃないんだというのも分かりました。みんなが苦しんでいるところに、いろいろな仮説を立てながら裏付けを取っていく。結果、みんなが少しでも暮らしやすい世の中を作るのが学術の世界。みんなが少しでも楽しく暮らせればと思うのはお笑いも同じ。じゃ、学術という、ある意味、難しいところを楽しく伝えるようなことが自分にできないか。そう考えると、一気に希望が広がってきたんです。

 今はもちろんテレビでの露出は減っていますけど、そんな講演をしたり、博士号をとるために図書館で論文を書いたり、勉強会に参加したり。そんな日々を送っています。

動いてみる

 勉強して思ったのは、災害でも、事故でも、人との関係性でも、自分は誠実に一生懸命過ごしていても、思いがけないところからネガティブなことに巻き込まれることがある。それは誰にでも起こりうることです。

 信号を守っていても、車が突っ込んでくる場合もある。日々、誠実に生きていても、トラブルに巻き込まれることもある。そういう悲しみをどう受け止めたらいいのか。理不尽、不条理が世の中にはたくさんある。そういったことに見舞われた時に、どういう考え方をしたら、この先も生きていけるんだろうと。

 そんな中、私がお伝えしているのは「動いてみる」ことです。ただ、そんな元気すらない時も往々にしてあります。布団から起き上がれない。そんなこともあります。こんなことじゃいけないと思っていても、頭で分かっていても、できない。それがまたネガティブな流れを作って、どんどん負のスパイラルを生んでしまう。

 それを断ち切るのは、動くしかないんです。自分に掛け声をかけて、1ミリずつでも動いてみる。「今日はベッドの横のここだけ掃除してみよう」とか。人間って動くことによってしか、エネルギーは変わっていかない。自分も本当に苦しかったからこそ、しんどさの根深さも分かるし、それがポジティブに転じた時の喜びも分かるつもりです。

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誰でも幸せに生きたい

 誰でも、生き続けたいんです。幸せな気持ちで。どうすれば、そっちに向かって行けるのか。そんなことと向き合えたのは、つらい経験があったからだと今は思っています。そう考えると、感謝にも結び付いていきますしね。ま、もちろん、そんな簡単に結び付けられるものでもないんですけど(笑)。

 学びによって確かに救われましたけど、何かあれば、傷つくのは今でも一緒です。ただ、そうやって自分が感じたことをお伝えすることで、誰かの毎日が少しでも楽になるかもしれない。そういう希望が今はある。そこは本当に大きいと感じています。

 実は、最近、新たな目標ができまして。来年5月にホノルルで開かれるトライアスロンにチャレンジしようと思っているんです。1ヵ月ほど前に決めて、ホノルルに向けてみんなで頑張ろうというグループも見つけたので、そこに入りました。この前は外苑前をみんなで走ったり。今度はスイミングをやるんです。あと、合氣道もやりたいなと思っていて。今は本当にあれこれやりたいことが出てきて、それはそれで、だいぶ忙しくなっちゃってるんですけどね(笑)。

(撮影・中西正男)

■エド・はるみ

1964年5月14日生まれ。東京都出身。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。 明治大学文学部卒業。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修士課程修了。女優として舞台を中心に活動しつつ、コンピューターインストラクターやマナー講師の仕事も経験。その後、笑いへの情熱が沸き上がり、2005年に吉本興業のNSC東京校に11期生として入学。2006年から日本テレビ系「エンタの神様」などに出演し“グ~”のギャグで注目される。2008年には日本テレビ系「24時間テレビ」のチャリティーマラソンランナーにも選ばれた。 2010年に一般男性と結婚。2015年、慶應義塾大学大学院の修士課程に合格。システムデザイン・マネジメント研究科 でコミュニケーションについて研究し、今年3月に同修士課程を修了し修士号を授与された。研究の成果をまとめた著書「ネガポジ反転で人生が楽になる」も上梓した。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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