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『ボス恋』鬼編集長、菜々緒ストリープの「30万部雑誌」発売中!?

碓井広義メディア文化評論家
(提供:shiori/イメージマート)

上白石萌音主演『オー!マイ・ボス!恋は別冊で』の舞台は、鬼編集長(菜々緒)が率いる女性ファッション誌の編集部。世界を目指すという「MIYAVI」の創刊号は、1月28日の発売でした。

「菜々緒ストリープ」のインパクト

『オー!マイ・ボス!恋は別冊で』(TBS系)のヒロインは、地方出身の女子学生だった鈴木奈未(上白石萌音)。彼女が就職したのは、東京の大手出版社である音羽堂出版です。

志望していたのは「備品管理部」だったのですが、ひょんなことから新創刊するファッション誌「MIYAVI(ミヤビ)」編集部に配属されました。そして、彼女を待っていたのが、海外から招かれた敏腕編集長、宝来麗子(菜々緒)です。

麗子は、ヒロインを吹き飛ばしそうなインパクトのある女性であり、菜々緒さんはドハマリしています。当初、麗子の立ち居振る舞いを見て、「これって映画『プラダを着た悪魔』じゃん」と思った人は少なくないでしょう。

コーヒーの用意、チケットの予約、車の手配、メモの伝達、そして荷物運び等々。麗子が、まるで「小間使い」のように奈未を酷使する様子が、映画で雑誌「ランウェイ」の鬼編集長を演じていたメリル・ストリープと重なったからです。

菜々緒がストリープなら、奈未はアン・ハサウェイということになりますが、さすがに、そう単純なトレースではありません。

アン・ハサウェイ演じるランディは、野心満々のジャーナリスト志望でした。一方、奈未は編集者を目指していたわけでもなく、「普通の、人並みの生活が出来ればいい」というスタンスの「安定志向女子」です。

第1話では麗子が、

「雑用もまともにできないあなたが、普通や人並みを求めるなんておこがましい!」

と奈未を一喝していました。

それでも第3話あたりからは、徐々に仕事の面白さに目覚めつつあるようで、上白石さんは例によって「やがて輝く平凡女子」を好演しています。

そんな奈未が偶然知り合った、カメラマンの潤之介(玉森裕太)。この優しくて涼やかな青年が、実は麗子の実弟であり、資産家の御曹司でもあるといった設定は、ちょっと韓国ドラマみたいですが、ラブコメの王道という意味で文句は言えません。

世界を目指す雑誌「MIYAVI」

さて、鳴り物入りでパリからやって来た宝来麗子編集長が創刊する、新たなファッション誌「MIYAVI」ですが、一体どんな雑誌になるのか。

第1話で、副編集長の半田進(なだぎ武)が説明していました。

世界には様々なインターナショナル系のモード誌があり、たとえば「ヴォーグ」は世界27の国や地域で発行されていると。それを踏まえて・・・

「日本初の世界に向けたモード誌として創刊を目指し、出版界冬の時代に一矢報いようとし、そしてファッション業界に旋風を巻き起こさんと目論んでいるのがMIYAVIです」

って、チカラ入ってますね。

続いて、麗子の所信表明がありました。

「私がここに来たのは結果を出すため。2ヵ月後にMIYAVIを創刊し、半年で発行部数30万部を実現します!」

おお、これはスゴイ。

わずか2ヵ月で、ゼロから作り上げるのも大変なことなのに、半年後に「30万部雑誌」にするというのは、相当なことですから。

副編の説明を聞く限り、「ヴォーグ」をライバルとしているみたいですが、現在、「VOGUE JAPAN」、「ELLE JAPON」、「madame FIGARO japon」などの発行部数は、だいたい7~8万部といったところです。

そんな中で30万部というのは途方もない数字で、達成すれば出版界の事件です。もしかして、半年の合計が30万部? それなら月5万部でいいけど。

いや、麗子のことですから、やはり「30万部雑誌」にする自信があると見ました。

その上で、麗子と編集部の面々が、これまでにやってきたことを挙げてみると・・・

<第1話> パリからトップモデル(冨永愛)を呼んで、「表紙」の撮影を行いました。バラ園を見つけたのは奈未のお手柄ですが、渋る経営者をくどいたのは土下座も辞さない麗子でした。

<第2話> 第2特集の「カルチャーページ」で、人気漫画家・荒染右京(花江夏樹)とカルティエのコラボ企画を実現。同時に、「表4」と呼ばれる裏表紙でもカルティエの広告をゲット。奈未の「けん玉」チャレンジが功を奏しました。

<第3話> 「特別インタビュー」として掲載予定だった、柔道家の瀬尾光希(高山侑子)の記事。校了1週間前になって突然、麗子がグローバル経済アナリスト・小早川佐和子(片瀬那奈)に差し替えました。瀬尾の故障した腕が完全に治っていないことを見抜いたのは麗子です。

結局、現在までにドラマの中で見せてくれた、創刊号の主な「ネタ」は以上でした。

「MIYAVI」はライバルに勝てるか?

26日の第3話では、麗子の仕事のやり方を理不尽だと憤慨した編集部員たちが反乱を起こします。それでも最後は、再集合して作業にあたりました。そして「責了」の朱印が麗子によって押されたことで、2ヵ月をかけた創刊号の編集作業は終了を告げます。

テレビ画面に映った「中吊り広告」を見ると、見事なバラを背景にした冨永愛さんの写真をベースにして、前述の「ファッション×漫画コラボ」と「特別インタビュー」の他に、「春の小物大特集 『着飾る春』を再発見!」といった項目が印刷されています。

ちなみに「VOGUE JAPAN」の最新号では、映画『ティーンスピリット』などで注目の女優、エル・ファニングを特集しています。また同じく女優のリリー・コリンズも特集で登場。それぞれの記事と写真は、どちらもかなり魅力的なものになっています。

もちろん「MIYAVI」創刊号の中身も、「漫画家のイラスト」と「経済アナリストのインタビュー」と「春の小物」だけではないでしょう。

きっと私たち視聴者は知らない、充実の「キラーコンテンツ」が並んでいるはずです。そうでないと、半年後の30万部なんて夢のまた夢です。

ドラマの中の「架空の雑誌」の内容など、大した問題ではないと思う人もいるかもしれません。しかし、ヒロインの奈未にとって、麗子が本当に「ぶつかりがいのある存在」であり、自分たちが取り組む雑誌が「価値あるもの」であることは、大事だと思うのです。

なぜなら、このドラマは、奈未の「成長物語」でもあるからです。

「MIYAVI」創刊号、発売中!?

中吊り広告には、特集の項目と共に、

「2021年1月28日(木)発売」

の大きな文字が、しっかりと入っていました。

予定通りなら、1月28日に「MIYAVI」は本屋さんの店頭に並んだはずです。カリスマ編集長である菜々緒ストリープが、いずれ「30万部雑誌」にすると豪語した創刊号。それがどれほどのものなのか、出来るなら、ぜひ見てみたい。

それと、気になることが1点・・・

第1話から第3話まで、「ドラマの中の時間」は2ヵ月だったのですが、その間、創刊号の作業ばかりで、2号や3号の企画会議や仕込みや取材は、まったく行われていませんでした。大丈夫なのかな?

これまた視聴者に見えないところでやっていたのかもしれませんが、ちょっと心配になりました。

というわけで、今後も奈未の恋の進展と同様、「MIYAVI」の行方を見守っていこうと思っています。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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