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やはりあった「受動喫煙」リスク〜「アイコス」最新研究

石田雅彦科学ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 タバコ会社は加熱式タバコに副流煙はなく、受動喫煙は生じないと主張しているが本当だろうか。最新の研究によれば、アイコスを吸った部屋の中の発がん性物質レベルは環境基準を超えることがわかったという。つまり、受動喫煙の恐れがあるということだ。

加熱式に換えてもリスクはある

 家族の喫煙に悩み、子どもへの受動喫煙の危険におびえる人は多い。家族に喫煙者がいれば、呼気にも有害物質がしばらく含まれ、衣類に付着したタバコ煙の悪影響も無視できない。

 喫煙者の家族が加熱式タバコに換えたことで安心した人もいるかもしれないが、タバコ会社は長く嘘をつき続けて消費者を騙してきた。タバコ会社の言うことを鵜呑みにするのはそもそも危険なのだ。

 例えば、タバコ会社は加熱式タバコから出る物質を「蒸気」や「エアロゾル」と呼ぶが、これは消費者が蒸気と聞けば「水蒸気」や「霧のような物質」をイメージするように誘導する誤解を生じさせる表現だ。実際に出るのは水蒸気ではなく、様々な化学物質を含んだグリセリンなどの揮発性の気体である。

 タバコ会社は加熱式タバコによる有害物質の低減をPRし、従来の紙巻きタバコのような副流煙が出ないので受動喫煙のリスクもないと主張している。タバコ規制の重要項目に受動喫煙による健康への害があるため、タバコ会社がいっているように受動喫煙のリスクがなければ、加熱式タバコに対するタバコ規制も考慮しなければならなくなるだろう。

 米国のローレンス・バークレー国立研究所(Lawrence Berkeley National Laboratory、LBL)は、UCバークレー校の敷地内に置かれた米国エネルギー省所管の総合研究所だ。ノーベル賞の受賞研究者も13人輩出し、特にサイクロトロンを使った素粒子物理学が有名で、そのほかにも化学、材料物性、遺伝子工学、環境工学など対象分野は幅広い。

アイコスで主流煙と副流煙を調べた研究

 今回、LBLの室内環境(Indoor Environment)の研究グループは、アイコスとアイコス用ヒートスティック(HEETS、茶・黄・青)を使い、主流煙と副流煙で33種類の揮発性有機化合物を特定し、その結果を発表した(※1)。

 実験方法は、室内を模した200リットル(56×56×64センチ)の密閉容器内(内部の空気は攪拌)において、アイコスに吸引器で1パフ(吸煙)あたり55ミリリットルの喫煙量で2秒間の吸引を30秒間隔で行ったという。アイコスは1回あたり6分間まで使用でき、この実験では6分間に12回のパフが可能だった。

 パフごとに吸引できた主流煙と、アイコスを吸煙して出てきた副流煙を密閉容器内で3時間測定する。6分間(360秒)の間にヒートスティックの温度はゆっくりと上昇し、最終的に220℃に達した。

 加熱温度によって生じる物質が大きく変化し、特に高温になるとニコチンやグリセリンの割合が大きくなり、化合物の総量も増えていった。連続使用によって摂取する有害物質が異なるということだろう。また、実際のヒートスティックを観察すると、十分に加熱されて炭化した部分とほとんど温度による影響のない部分が混在し、研究グループは不完全な燃焼による有害物質発生の懸念が生じたという。

 主流煙で検出された主な物質は、ニコチン、メントール、グリセリンであり、アセトアルデヒドとジアセチルも多かった。アセトアルデヒドはWHOでは発がん性物質であり、ジアセチルは呼吸器疾患を引き起こすことが知られている。

 また、強い毒性のあるアクロレイン、発がん性のあるグリシドールも検出されているが、これらはグリセリンとプロピレングリコールが熱分解される際に副産物として生成される物質だ。これによりアイコスと電子タバコの健康への悪影響の共通点もみえてくる。

室内を確実に汚染するアイコス最新情報

 研究グループは、アイコスから主流煙として喫煙者が吸い込み、副流煙として放出される33物質を特定したが、この中には上記のような物質の他にもベンゼンなどのいくつかの発がん性物質が入っている。もちろん、量は主流煙のほうが多いが、副流煙にもアセトアルデヒド、呼吸器に害を及ぼすアセトン、劇物に指定されている2-ブタノンなどが微量ながら含まれていた。

 喫煙者の呼気と副流煙によるアイコスの受動喫煙リスクはどうだろう。研究グループは検出された物質の量から、現実世界の居住空間や飲食店などの公共スペースに当てはめて見積もってみたという。例えば、アクロレインでは1日20本のアイコス喫煙で室内の濃度が徐々に上がっていき、公共スペースでも環境基準を超えるケースもあった。

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1日にアイコスのヒートスティック20本を吸った場合、家庭におけるアクロレインの室内の濃度変化を24時間で予測した例。アクロレインは強い毒性を持ち、様々な病気との関係が示唆されている物質だ。Via:Lucia Cancelada, et al., "Heated Tobacco Products: Volatile Emissions and Their Predicted Impact on Indoor Air Quality." Environmental Science & Technology, 2019

 研究グループは、アイコスの煙は目に見えにくいため、その悪影響はわかりにくいが、有害な汚染物質は確実に環境中へ放出されているという。さらなる調査研究が必要だが、受動喫煙の害がないわけではないことが明らかになった以上、タバコ会社の主張を鵜呑みにしないほうが賢明だろう。

※1-1:Lucia Cancelada, et al., "Heated Tobacco Products: Volatile Emissions and Their Predicted Impact on Indoor Air Quality." Environmental Science & Technology, Vol.53, 7866-7876, 2019

※1-2:測定した物質:グリセリン、プロピレングリコール、メントール、アクロレイン、ニコチン、アクリロニトリル、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドなど

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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