年末年始を直撃する「静かな医療崩壊」 インフルエンザも各地で流行期入り
「医療崩壊」と聞くと、救急車がたくさん病院に搬送されてきて、「点滴をはやく持ってきて!」という災害時の医療を想像されるかもしれませんが、救急車は病院側が受け入れを許可して初めて搬送されるものなので、空きベッドの余裕がなく受け入れが困難な病院は、救急車が搬送されずにむしろ静かです。
今、この「静かな医療崩壊」が水面下で進んでいます。病院が患者さんを受け入れられる空きベッドが相対的に不足しているのです。
「非コロナの救急搬送困難事例」が過去最多
専門家会議の資料によると、新型コロナ疑いではない「非コロナ」の救急搬送困難事例は過去最多です(1)(図1)。
急病や事故など、新型コロナではない事例で119番に電話しても、スムーズに搬送されないということを意味しています。
これは、過去の波でもなかなか経験されなかった現象です。
院内クラスターと隣り合わせ
現在、多くの医療機関では入院時に新型コロナスクリーニング検査をおこなっています。これはひとえに入院患者さんに新型コロナを感染させないためです。
しかし、従来株の頃と比べて感染性が増しているオミクロン株は、「蟻の一穴」から院内クラスターを生んでしまいます。
潜伏期にスクリーニング検査すると、入院後まもなく新型コロナを発症してしまう患者さんがいます。気付いたときには周囲に広がっていることもあります。また、濃厚接触者になった医療従事者の多くは、毎日検査で陰性を確認した後に勤務していますが、それでも医療従事者同士で感染が広がることがあります。
十分な感染対策をしている医療機関でも、院内クラスターが常に隣り合わせの状態です。過去のインフルエンザシーズンでは、これほど院内クラスターに悩まされることはなかったので、かなり感染性が高いことを現場で実感しています。
最前線のマンパワーが削られると、病床が空いていても、受け入れキャパシティは相対的に少なくなってしまいます。
そういった事情もあり、救急搬送を断らざるを得ない病院が増えています。
年末年始を前に各地でインフル流行期入り
12月18日までの1週間(第50週)で、東京都の1医療機関における1週間の定点あたりのインフルエンザ報告数が1.12人になり、東京都もとうとう流行期に入りました(図2)。誤解のないように直近の2019年のインフルエンザシーズンと比較した別グラフを窓で添付しています。これと比較するとまだ小さな波ですが、今後増加が懸念されます。
先日岩手県が先行して流行期に入りましたが、12月21日に東京都、青森県、神奈川県、熊本県、富山県も流行期に入り、これで合計6都県が流行期入りしました。全国的にインフルエンザが流行する可能性が一気に高まったと言えます。
非コロナの患者さんが入院している大部屋しか空床がない場合、隣に新型コロナ陽性あるいはインフルエンザ陽性の患者さんを入院させるのは、はばかられます。
今後、救急要請があった時点で断らざるを得ない医療機関が増えてくると思います。この構造は、残念ながら「5類感染症」にしても解決できる問題ではありません。
まとめ
非コロナの救急搬送困難が過去最多の水準になっていることから、「新型コロナじゃないから搬送してもらえるだろう」とたかをくくっていると、誤算になるかもしれません。
全国的に医療逼迫がすすんできているさなか、各地でインフルエンザの流行期入りが始まっていることから、年末年始以降もさらなる医療逼迫が懸念されます。
年末年始に向け、ドラッグストアなどで抗原検査キットや解熱鎮痛薬を事前に購入しておき、ワクチン接種を検討していただけると幸いです。
(参考)
(1) 第111回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和4年12月21日)(URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00395.html)
(2) 東京都のインフルエンザ定点報告週報告分推移グラフ(URL:https://survey.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/epidinfo/weeklychart.do)