【オートバイのあれこれ】シンプル・シングルに込められた、ヤマハの静かなる反骨精神。
全国1,000万人のバイクファンへ送るこのコーナー。
今日は「シンプル・シングルに込められた、ヤマハの静かなる反骨精神。」をテーマにお送りします。
「軽薄な風潮に、くさびを打ち込め」。
1985年(昭和60年)に登場したヤマハの『SRX-6』は、’80年代当時の日本に流れていた“ナンパな空気”へ一石を投じるために生み出されました。
経済が上向き、暮らしがどんどん豊かになっていった時代。
「豪華」や「贅沢」といった言葉が求心力を強めるなかにあって、ヤマハはそんな風潮に振り回されない“硬派なバイク”を作ると決め、そうして誕生したのがSRXだったのです。
先述したヤマハの方針どおり、SRXに華美なディテールは皆無。
オートバイ界隈においても「最先端」「最新」「ハイスペック」がトレンド化していたにもかかわらず、
・素朴なスタイリング
・42psのSOHC単気筒エンジン
・鉄フレーム
・旧来的な2本タイプのリヤサスペンション
・セルスターター無し(=エンジン始動はキックスタートのみ)
など、「質素」「ベーシック」を極めたような構成で固められていました。
まさしく“周りに流されない”作り。
当時の世相からすると、SRXは全く的外れなバイクだったと言って差し支えありません。
(開発陣も、「(その魅力が)分かる人だけに買ってもらえればそれで良い」と考えていたそう)
しかし…
SRXは発売後、当のヤマハをも驚かせるほどの厚い支持を集めることになります。
・控えめなスタイリングは、(レプリカ全盛のなかで)都会的でスタイリッシュに感じられ、
・42psのエンジンは、ビッグシングル特有の鼓動やトルクを味わう余裕をもたらし、
・鉄製の角パイプフレームは、必要十分な性能を備えつつ淑やかな魅力を放ち、
・余計なモノを省いた作りには、ヤマハのSRXへ込めた想いが感じられたのです。
華やかさを武器にしない質実剛健な設計が、コアなバイクファンに加え、当時のハイスペック一辺倒な雰囲気に内心モヤモヤしていた層へウケたということ。
また走りの面においても、単気筒の醍醐味である図太いトルクを活かしたダイレクト感満点のドライバビリティが好評で、SRXは単に“時代へのアンチテーゼ”ということに終始するのではなく、“ストイックなシングルスポーツ”としての地位を確立するまでになったのでした。
「一変させた」とまでは行かずとも、最終的にSRX-6が累計で約2万台売れたことを考えると、ヤマハはSRXを通じて見事、当時の「ナンパな空気」に「くさびを打ち込むことができた」と結論づけていいでしょう。
画像引用元:ヤマハ発動機