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音大付属高女子生徒殺人未遂事件報道:なぜ注目され、なぜ優しいコメントが多いのか

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
写真はイメージ(写真:アフロ)

■武蔵野音大付属高で女子生徒刺される 容疑の同級生逮捕

捜査関係者によると、刺されたのは3年生の女子生徒で、重傷とみられるという。県警は同じクラスの別の女子生徒を殺人未遂の疑いで緊急逮捕した。

出典:武蔵野音大付属高で女子生徒刺される 容疑の同級生逮捕 2/6(木) 16:31 朝日新聞Y!

誰かが人を刃物で刺す。犯罪としては珍しいものではありません。そのような傷害事件や殺人未遂事件の全てが大きく報道されるわけではありません。けれども、この事件は全国ニュースです。

■女子高生容疑者、被害者も女子高生、現場は学校内、音大付属高校

一般に、犯罪者の8割は男性です。未成年者による傷害事件も、女子は男子の3~4分の1です。女性の傷害事件、刃物を使った殺人(未遂)事件は、珍しいので、大きく報道されます。

心理学の研究によれば、男女の怒りの量には差はありませが、表し方に差がある。男性は殴る蹴るの身体的な攻撃が多くなり、女性は仲間外れなどの人間関係への攻撃が多くなります。

男性が誰かを刺した場合は、ニュースバリューが低くなりますが、容疑者が女性、特に若い女性になると、ニュースバリューが高まり、報道が大きくなります。容疑者が少年事件の対象ならなおさらです。

また、被害者が男性よりも女性の方が、特に若い女性の方が大きく報道されます。事件報道における男女差の問題は、気を付けなくてはなりません。

さらに、学校内での事件ということで注目され、加えて暴力事件など起こりそうもないと世間の人が思う音大付属高校内での事件ですから、マスコミの扱いも大きくなります。

男女ともに家庭内や友人間などで、日常的に暴力があれば、暴力行為も出やすいものです。しかし、身の回りに暴力などない人が、突然刃物で人を攻撃するとすれば、特別な心理的背景があると考えるのが自然です。

普段から乱暴な人が乱暴なことをするよりも、おとなしそうな人が乱暴なことをする方が、ニュースになります。

ついカッとなってとか、金目当ての事件よりも、複雑な背景がありそうな事件の方が、注目されます。

音大付属高校と刃物による事件、そのコントラストが注目を集めます。

■単に注目されるだけでなく

女児が友人を刃物で殺害した事件としては、2004年に発生した佐世保小6女児同級生殺害事件があります。この事件は、ネット上のすれ違いをきっかけとして、カッターナイフで首を切るというものでした。

加害女児は無口でおとなしい子でしたが、事件前に精神的に不安定になっていたといいます。

今回の事件は大きく報道されていますが、私たちは単に興味半分に騒ぐだけではいけないでしょう。まずは被害者の回復を願いますが、なぜ事件が起きたのかを冷静に考えることが、類似事件の防止に役立ちます。

また佐世保の事件では、校内にいた生徒にPTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状が出たとも報道されました。今回も直接の被害者や家族だけでなく、多くの人の心が傷ついているでしょう。周囲の生徒たちのケアも忘れてはいけません。

少年事件の場合、通常は容疑者の学校名は報道されません。しかし、事件の舞台となり、被害者も同じ学校の生徒となれば、学校名が報道されます。

加害者と被害者を同時に出してしまった学校は、事件の対処、マスコミ対応、保護者への説明、日本中からかかってくる電話の応対で、混乱を極めていることでしょう。それでも、学校は残された生徒たちを守らなければなりません。

事件の解明はもちろん必要ですが、生徒たちを守らなければなりません。

■ヤフーコメント

報道への反応に関して、興味深いコメントがありました。

ヤフコメ民は女が犯人だと優しいですね(笑)。

これが男が犯人だと「極刑だ」「名前と顔を公表しろ」

「俺が娘の親ならば」など言いたい放題ですよね?

(yktkyk さん)

なるほど、おっしゃる通りです。いつもなら、少年法を攻撃したり、一方的に激しく容疑者を責めるコメントが並ぶところ、今回は違います。

上位に出ているコメントにも、次のような内容が並びます。

「刺した方の親も刺された方の親もこれはたいへんだわ。」

「女子同士の喧嘩ほど怖いものはない。」

「刺された側にどれだけ「責められるべき非」があるのか気になる。」

「どっちも良いところのお嬢さんなんだろうなぁ。」

「嫌な人間を刺して自分が不幸になることないと思うけどねー。」

なぜ、いつもの少年・男性の事件とはコメントが異なるのでしょうか。

(喧嘩などと表現されたら、被害者側は不愉快でしょうが)

一つは、私たちが無意識のうちに、女性は一方的に乱暴なことはしないだろうと感じているからでしょう。

これは主観の問題だけではなく、実際に女性被告が受ける刑罰は男性よりも軽くなっています。もちろん男女差別ではありません。女性加害者の事件の方が、情状酌量できるようなケースが多いからです。

また、「お嬢様学校」といった表現もコメント内によく見られますが、育ちの良いお嬢様は一方的に乱暴なことはしないだろうという推測も働いていると思います。

今回の事件では、容疑者の顔写真が出ることはありませんが、おそらくニュースの読者はいわゆる「お嬢様」をイメージしたことでしょう。

「心理学の研究によれば、人は外見の良い人は中身も良いと感じます。実験によれば、同じ罪状でも、いかにも善人そうに見える外見の良い人は、いかにも犯人らしい外見の悪い人よりも、刑を軽くするべきだと判断されました」(就活生も犯罪者も美人は得?:いえいえ美男美女が損をすることもあるんです:ヤフーニュース個人有料)。

今回の事件は、まだ容疑段階であり、詳しい背景もなにも報道されていません。それでも、多くのヤフーコメントがあり、明日のワイドショーでも取り上げられるでしょう。

今回のヤフーコメントが多面的なのは良いことだと思います。ただ本当は、少年男子容疑者の場合も、見るからに乱暴そうに見える容疑者の場合も、所属や職業がどのような人の場合も、そこには様々な事情があり得ることも、考えたいと思います。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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