フリーミアム時代のポール・マッカートニー
東京ドーム2日目 2013/11/19にポール・マッカートニーを観てきた。
日本で見るのは、90年、2002年、2013年と三度目。過去のどれよりも、今回の方が若々しいから不思議だ。御年71歳だ。会場には杖をついた観客も多いにもかかわらず、凛々しいポールに驚く。
さて、今回ニュースで取り上げた理由の一つが、コンサートで、携帯での撮影は許可されていたからだ。すでにいくつものコンサートで携帯電話を持込み禁止を不可能と判断し、携帯であればというコンサートも増えている。
かつて、グレイトフル・デッドも撮影・録音自由であったが、当時とは完全に時代が違う。
YouTubeにアップロードされるし、facebookにtwitter、LINEで瞬時に共有される時代だ。
実際にポール・マッカートニーのコンサートはフルで3時間弱のコンサートがアップロードされている。
この動画でもわかるように、半分以上の観客が携帯をかざしている。そう、それぞれがその日の撮影データを共有する時代となったのだ。しかし、三脚なしの映像には限界があるが、見ることができなかった人にとっては貴重な瞬間だろう。曲間の観客同士の話し声が、逆にその場にいる臨場感をかきたててくれる。
でも、音質に難があると思うと…。音質のいいものがアップロードされている。
便利な世の中だ…いや、困った世の中だ。
それだけではない、こちらは2013/11/18の東京ドームのセットリストをSonyのMusic Unlimitedのユーザーがセットリスト化したものだ。
https://music.sonyentertainmentnetwork.com/playlist/9860e613bc6e4aa4bf407741f5cd2596?autoPlay=true
会員でなければ30秒しか聞けないが、会員であれば月額980円で聞き放題だ。30日間はお試しもできる。
ポールのライブリストの試聴は、38曲30秒で聞いても19分間もかかる。そのくらいコンサートの時間は長い。
レコードやCDを買う方法は大きく変わってきている。コンサートのグッズ売り場では中高年がこぞって、パンフレットやタオルにTシャツを購入している。CDを購入する人はわずかだ。おそらく、ほとんどの人が、その日の想い出のための「想い出消費」に財布を開いているのではないだろうか?
ボク自身もライブの感動が、上記の映像やセットリストの音源を聞くことによって、さらに鮮明に蘇ってくる。かつてのライブではそんな体験ができなかった。今や、その日のライブ音源もダウンロード販売できる時代になっている。オトナであれば5,000円以上でも購入する人は多いだろう。
実際にポールのコンサートでは、リハーサルに6万円払って入場している人が200人以上いる。さらに1万6000円のチケットが40万円でオークションで売りに出される時代だ。
そこで、気づいたことがある。それは「フリーミアム」だ。「フリーミアム」とは、「フリー」と「プレミアム」を合わせたクリス・アンダーソンの造語だ。つまり、一部のフリーユーザーの代金をプレミアムの有料ユーザーがまかなっているという構図のビジネスモデルだ。
前出のMusic Unlimitedも一ヶ月間はフリーユーザーだが、それ以降はプレミアムユーザーになることを想定している。
今回のポール・マッカートニーのライブも、おそらく、豪華パッケージ版ブルーレイや高音質CDパックなどが販売されることだろう。そして、全公演の中からのベストテイクを世界中から集め、自分の見た公演からのテイクも含まれるというギミックは想像できる。さらに、6万円かかるリハーサルでしかやっていない楽曲もボーナスパックには含まれることだろう。
問題はそこではない。「想い出消費」のプロモーションは世界中ではじまっているということだ。
すでに、Flickrで「PAUL McCARTNEY」で検索すると…恐ろしいほどの今回のOUT THERE TOURの写真がアップされている。
http://www.flickr.com/search/?q=PAUL+McCARTNEY
「out there paul mccartney」で検索するといろんな会場からの携帯写真がアップロードされている
http://www.flickr.com/search/?q=out+there+paul+mccartney
YouTubeの動画や、これらFlickrの写真を見ると、自分も同じタグをつけて投稿したり参加できることがわかる。
そして、次の衝動は、やはり、より高品質で高音質なものへの渇望行動だ。
もしかすると、高品質パッケージは恐ろしくいろんなバージョンが登場し、ユーザーの頭を悩ませながらもオトナ買いさせることだろう。ビートルズマニアは何十年にも渡り、この手法に喜んで騙され続けてきた。
録音機器の充実により、どのライブ会場でもサウンドを録音することが可能だったであろう。また、多くのアーティストがライブ音源を後からミスを修正したりするが、ポール・マッカートニーは極めてミスが少ないアーティストだ。…であれば、すべての公演をダウンロード販売するというような画期的な方法があるだろう。
【1】誰もが同じ品質の高音質編集バージョン。
【2】そして、自分が見に行った時のあの特別な想い出消費をしたいバージョン。
もしかすると【2】の方が高価格でも販売できることだろう。
誰もが同じ物を持つパッケージメディアが安くなり、自分が特別な感情移入できるダウンロードデータが高価になる時代がくるのかもしれない。
想い出消費という側面でのフリーミアムビジネスでは、「フリーで自ら自分に宣伝を行い、プレミアムになる」ということだ。
今夜の日本、いやワールドツアー最後のライブを楽しんでほしい!