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41歳。子どもを産むことをほぼあきらめた私。今後は法律婚にこだわりません~スナック大宮問答集47~

大宮冬洋フリーライター
第141回のスナック大宮を東京・西荻で開催。22名が参加しました。(参加者提供)

スナック大宮」と称する読者交流飲み会を東京、愛知、大阪などの各地で毎月開催している。味わいのある飲食店を選び、毎回20人前後を迎えて和やかに飲み食いするだけの会だ。2011年の初秋から始めて開催140回を超えている。のべ2800人ほどと飲み交わしてきた計算になる。

 筆者の読者というささやかな共通点がありつつ、日常生活でのしがらみがない一期一会の集まり。30代から50代までの「責任世代」が多い。お互いに人見知りをしながらも美味しい料理とお酒の力を借りて少しずつ打ち解けて、しみじみと語り合えている。そこには現代の市井に生きる人の本音がにじみ出ることがある。

 その会話のすべてを再現することはできない。参加者と日を改めて対話をした内容をお届けする。一緒におしゃべりする気持ちで読んでもらえたら幸いだ。

***リエさん(仮名。独身女性、41歳)との対話***

広報一筋20年。転職前の有休消化中で「大人の夏休み」を海外で過ごす予定です

――リエさんはスナック大宮に初参加でしたね。興味を持った理由から教えてください。

 長く企業広報の仕事をしています。取引先のメディアの方から「これ、面白いですよ」と教えていただいたのが大宮さんの記事でした。私も(広報やIRの)文章を書く仕事をしているので、大宮さんの文章のちょっと女性的な温かさに共感を覚えています。このライターさんに会ってみたい、と思ったのが第一の理由です。

――光栄です。僕は年齢を重ねるごとに「おばさんみたいなおじさん」になっていると実感しています。若い頃はマッチョ志向だったのですが、人の上に立つような強さを身に着けることをどこかであきらめました(笑)。リエさんは広報の仕事は長いんですか?

 はい。大学を出て新卒入社の会社でも広報を務め、この夏から働くことが決まっている会社ではグローバルなブランディングに関わることが決まっています。チャレンジングな仕事なので楽しみです。でも、今は前にお世話になった会社の有休消化中で、大人の夏休み中(笑)。これからほぼ1か月間を海外の各地で過ごす予定が決まっています。

筆者(右端)の下手なトークに拍手までしてくれるリエさん(左端)。話しやすい雰囲気を作ってくれました。(参加者提供)
筆者(右端)の下手なトークに拍手までしてくれるリエさん(左端)。話しやすい雰囲気を作ってくれました。(参加者提供)

「早めのジャッジ」が求められる婚活のペースに自分の気持ちを合わせられませんでした

――次の仕事が決まっているけれど、今は何もやるべきことがなくてゆっくりできる。めったにない最高の時間ですね! 海外一人旅ですか?

 いえ。私はアメリカやイギリスに留学した経験があり、親族や友人が海外で暮らしています。その人たちを訪ねて一緒に過ごす予定です。

――ちょっと失礼かもしれませんが、プライベートなことを聞かせてください。リエさんは独身とのことですが結婚願望などはありますか?

 10年ほど前にいろいろあって、「誰かと付き合いたい、つながりたい」と再び思えたのが35歳ぐらいのときです。友人知人に独身男性を紹介してもらったり、婚活イベントにも参加したりしました。でも、婚活だとお互いに早めにジャッジしなければなりませんよね。時間をかけて相手の人柄を知る前に「真剣交際をするかどうかをこの日までに返事して下さい」というペースに自分の気持ちを合わせることができず、苦しい思いをしました。私は深く長い関係を築いていきたいタイプです。

――反論するわけではありませんが、結婚してからでもそんな関係性を築いていくことはできます。もちろん、生理的に無理な相手と一緒に暮らすことはできませんが、家族になると恋愛で結びついていたこととは関係性が大きく変化するのも現実です。相手だけでなく自分の意外な部分が表に出てきたりします。

 なるほど。でも、40歳を過ぎて子どもを産むことをほぼあきらめた私は法律婚にこだわっていません。法律婚をすると、相手との気持ちが離れても「離婚の手続きが面倒で世間体も悪い」という理由で結婚生活を続けてしまう気がするからです。

 若い頃にアメリカでの生活でLGBTや事実婚のカップルをたくさん見たこともあり、愛情の形は多様であっていいと思っています。事実婚のほうがお互いに良い意味での緊張感を持ちながら深くつながれるかもしれません。法律婚が絶対に嫌というわけではありませんが、形態にはこだわらないつもりです。

会場となった西荻のアジア食堂「ぷあん」は北タイ料理が名物。こちらは締めのカオソイです。(参加者提供)
会場となった西荻のアジア食堂「ぷあん」は北タイ料理が名物。こちらは締めのカオソイです。(参加者提供)

婚活目線ではない場の安心感。自分と異なる属性の人とゆるくつながれる機会は貴重

――スナック大宮には独身の方も多く来てくれますが、リエさんは男女の出会いを期待していたわけではないんですね。

 はい。むしろ婚活目線ではない場であることに安心感を覚えて参加しました。大人になると、自分とは異なる属性の人とゆるくつながれる機会が少なくなりますが、スナック大宮ではいろんな方がざっくばらんにお話をしてくださってとても楽しかったです。特に婚活の苦労話などを披露し合いました(笑)。

 私は子どもの頃からとにかく人が好きで、アメリカに留学したのも「英語が話せればもっと多くの人とつながれる」と思ったからです。世界中のすべての人と会うのは無理ですが、できるだけ様々な方と交流できたらと思っています。

――広報やIRは多くの人と会う仕事なので、リエさんはまさに天職ですね。仕事なので「ゆるくつながる」のは難しいかもしれませんが。

 国内外のステークホルダーになり得る人の視線を想像し、適切と思われるコミュニケーション戦略を立案して実行するのも私たちの仕事です。そのためにはできるだけ多くの人格に接しておくことが有効だと私は考えています。例えば、日本の地方に住んでいる50代の女性、アメリカの都市部に住んでいる40代の男性、などです。

 スナック大宮のような場で見聞きしたことを勝手に公開したりすることはありませんが、いろんな立場の方のお話を聞くだけでも自分の中の引き出しが増えていきます。その意味では広報という仕事にも役立つ機会だと感じました。

参加者が10人以上のときはテーブルやエリアをいくつかに分け、途中で2回ほど席替えをして交流しています。(参加者提供)
参加者が10人以上のときはテーブルやエリアをいくつかに分け、途中で2回ほど席替えをして交流しています。(参加者提供)

本当の聞き上手は、自分も楽しみながら周囲の人への気遣いをして空気を和らげられる人

 以上がリエさんとの会話だ。聞き上手というのはむっつりと黙って耳を澄ませている人ではないと思う。自分も楽しみながら、周囲の人に話しかけるなどの気遣いをすることで、その場の空気を和らげて本音を言いやすくするのだ。リエさんはそんな本物の聞き上手だと感じた。

 酒場や食事会は店主や主催者(スナック大宮の場合は筆者)だけでは良い雰囲気を作れない。客や参加者の中にリエさんのようなムードメーカーが必要なのだ。スナック大宮ではそんな人を覚えておき、今回のように後から連絡をとり、全国各地で開催する際の「チーママ」に指名。リーズナブルで美味しい飲食店の選定と予約、当日の受付や写真撮影をお任せし、さらには接客も手伝ってもらっている。リエさんにも声をかけたところ、以下のような前のめりの返事をもらった。

「ぜひやらせてください。東京だけでなく、全国の人的ネットワークを生かして良いお店を探せますよ。私はリモート勤務になりそうなので、日程も場所も大宮さんに合わせられます。チーママ的ポジション、大好きです!」

 優秀なチーママを指名できれば、そのスナック大宮はほぼ間違いなく成功する。初参加の人も寂しい思いをせず、久しぶりの人や常連さんも嬉しそうに過ごしている。その場限りの会話を楽しんでもいいし、連絡先を交換して友情を育んでもいい――。そんな小さな場を全国各地で作ってみたい。今年度中にリエさんがチーママを務めるスナック大宮をどこかで開催できる気がする。

当初は緊張した雰囲気が漂っていても、美味しい料理でお酒を飲んでいればだんだんと場が和みます。初対面の人との本音トークができることも。酒場の喜び、ですよね。(参加者提供)
当初は緊張した雰囲気が漂っていても、美味しい料理でお酒を飲んでいればだんだんと場が和みます。初対面の人との本音トークができることも。酒場の喜び、ですよね。(参加者提供)

フリーライター

僕は1976年生まれ。40代です。燦然と輝く「中年の星」にはなれなくても、年齢を重ねてずる賢くなっただけの「中年の屑」と化すことは避けたいな。自分も周囲も一緒にキラリと光り、人に喜んでもらえる生き方を模索するべきですよね。世間という広大な夜空を彩る「中年の星屑たち」になるためのニュースコラムを発信します。著書は『人は死ぬまで結婚できる』(講談社+α新書)など。連載「晩婚さんいらっしゃい!」により東洋経済オンラインアワード2019「ロングランヒット賞」を受賞。コラムやイベント情報が読める無料メルマガ配信ご希望の方は僕のホームページをご覧ください。(「ポスト中年の主張」から2017年3月に改題)

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