42歳。妻の浮気が原因で離婚。でも、子どものために今でも同居。とても嫌です~スナック大宮問答集77~
「スナック大宮」と称する読者交流宴会を東京、愛知、大阪などの各地を移動しながら毎月開催している。味わいのある飲食店を選び、毎回20人前後を迎えて和やかに飲み食いするだけの会だ。2011年の初秋から始めて開催150回を超えた。のべ3000人ほどと飲み交わしてきたことになる。
筆者の読者というささやかな共通点がありつつ、日常生活でのしがらみがない一期一会の集まり。参加者は30代から50代の「責任世代」が多い。お互いに人見知りをしながらも美味しい料理とお酒の力を借りて少しずつ打ち解けて、しみじみと語り合えている。そこには現代の市井に生きる人の本音がにじみ出ることがある。
その会話のすべてを再現することはできない。参加者と日を改めてオンラインで対話をした内容をお届けする。一緒におしゃべりする気持ちで読んでもらえたら幸いだ。
***トシカズさん(仮名。バツイチ、42歳)との対話***
「変なとんがり方」をした人がいない宴会。居心地が良かったです
――スナック大宮には初参加でしたね。いかがでしたか?
すごくいい雰囲気ですね! 温厚で話しやすい人ばかりで……。変なとんがり方をした人がいなかったので居心地が良かったです。
――変なとんがり方というのは?
僕の勤務先にもいるのですが、雑談をしているのに説教臭くなったり自慢話になったり……。超有名な進学校卒がいまだにアイデンティティになっている上司もいます。うっかり聞き役に回ったりするとストレスになりかねません。
スナック大宮にも実はすごい仕事をしている人がいたのにまったくエラそうではありませんでした。近くの席に座った人と自由に話せるのもいいですね。左の話題にはついていけなかった場合は右の人に話しかければいいのですから。大宮さん仕切りによる席替えもあって、いろんな人との交流を楽しめました。
――トシカズさん自身が感じ良く振る舞ってくれたので、他の人も話しやすかったのだと思いますよ。
去年はいろいろあって苦しかったのですが、最近はスッキリしてきました。父が去年、母が今年に亡くなり、空き家になった実家の売り先も決まったところです。以前よりは身軽になったので、僕も再婚や引越を考えようかなと思っています。
彼女は子どもたちの母親ではありますが、もう僕の妻ではありません
――バツイチなのですね。いつ離婚したのですか?
ちょうど1年前です。といっても、元妻と今でも同居しているんですけど……。
――ど、どういうことでしょうか。
うちには小学生の息子と幼稚園の娘がいて、数年前に都内に一軒家を建てたばかりでした。35年ローンを返済中です(笑)。去年の夏に元妻の浮気が原因で離婚したのですが、子どもたちのことを考えると両親が揃っていたほうがいいので彼女を追い出せません。僕も3か月間は家事と育児をひとりでやってみたのですが、仕事との両立はとても無理でした。
元妻は平身低頭で、よりを戻す気が満々です。でも、僕は一度裏切られたことがどうしても許せず、元妻と一緒に暮らしていることがとても嫌です。もちろん、別々に寝ています。彼女は子どもたちの母親ではありますが、もう僕の妻ではありません。
――かなり露骨な浮気だったのでしょうか。
そうですね。なめられたものですよ。僕より2歳下の元妻はある会社の契約社員として働いていたのですが、その会社の上司に当たる正社員と浮気していました。明らかに浮かれていたので、まずはLINEをチェック。僕は腐ってもIT系ですので、それぐらいは何でもありません。元妻がノリノリで浮気しているメッセージが大量に出てきたので保存しました。彼らが会っている曜日と場所もすぐに特定し、そのうえで探偵を雇って証拠写真も撮りました。探偵にとってはとても楽な仕事だったと思います(笑)。
1ヶ月ほど泳がせて証拠を集め、先方に通告。慰謝料は160万円です
――元奥さんのほうは脇が甘すぎるし、トシカズさんのほうは敏腕すぎますね……。
1ヶ月ほど泳がせて証拠を集め、弁護士にも相談して先方に通告しました。ショックだったのが、相手が即レスで認めて慰謝料の支払いにも応じたことです。一度ぐらいは動揺して否定してほしかったです……。こういうことに慣れているのかな、と思いました。特定できた浮気期間が短かったこともあって慰謝料は160万円で折り合いをつけ、発覚の2カ月後には離婚して今に至ります。
――スピード結婚ならぬスピード協議離婚! それにしても素人離れの調査能力ですね。
バカにされたことへの怒りのエネルギーもありますが、僕は調べ物が好きで得意なのだとわかりました。探偵は給料が低そうなのでやりませんが、身辺調査のアドバイザーぐらいはやってもいいかなと思っています。今回のことを勤務先の上司にも報告したところ、「仕事よりもやることが早いね」とほめられました(笑)。
*****
酒場で喜ばれるのは哀愁と人間らしさ。明るい自虐ネタは歓迎されます
以上がトシカズさんとの対話内容だ。元妻との事実婚生活というシュールな状況に思わず笑ってしまったが、トシカズさんも笑ってもらうことで気が晴れたようだった。
本当にさっぱりしたいのであれば、家と養育費を元妻に渡して自分は会社の近くに安いアパートでも借りて一人暮らしを始めるのが早道だろう。トシカズさんは「悪いことをしていない自分が自宅を出るのを納得がいかない。子どもたちも両親が揃っていたほうが明らかに安定する」と即座に反論。ならば、我慢して今の暮らしを続けるしかない。他の女性と付き合うことは法律的には問題がないが、元妻と同居中の男性と真剣に交際したい女性がいるとは思えない。
個人的にはトシカズさんに強烈な哀愁を感じた。裏切られて怒って即座に反撃して勝利したのに、勤務先での高給とキャリア、子どもたちとの同居、一戸建ての自宅のいずれも捨てられず、不本意ながらも離婚前と同じように生活しているトシカズさん。ちょっと滑稽で人間らしいな……。
ストレスが溜まり過ぎて体調を崩さないように気をつけてほしいが、このまま暮らしていくのもありかもしれない。企業社会で評価されるかどうかは不明だが、少なくとも酒場では「現在進行形の明るい自虐ネタ」を提供できる人として喜ばれる。スナック大宮には彼をいつでも歓迎したい。