フルタイムの平均所定内賃金は31万8300円…一般労働者の賃金実情をさぐる(2024年公開版)
厚生労働省が2024年3月に発表した賃金構造基本統計調査の結果報告書によれば、2023年の一般労働者(フルタイム労働者。常用労働者のうち短時間労働者でないもの。正規・非正規を問わず)の所定内賃金(所定内給与額。以後「賃金」と表記)は31万8300円となった。この報告書から一般労働者の賃金の実情を確認していく。
まず言葉の定義を明確にしておく。「一般労働者」については次の通り。
・常用労働者…期間を定めずに雇われているか、1か月以上の期間を定めて雇われている労働者。
・一般労働者…短時間労働者以外の労働者。
・短時間労働者…同一事業所の一般の労働者より1日の所定労働時間が短い、または1日の所定労働時間が同じでも1週の所定労働日数が少ない労働者。
「一般労働者」は正規社員(・職員)以外に、派遣・嘱託・契約社員などの非正規社員(・職員)も含まれうることに注意が必要。
また「賃金」とはあらかじめ定められている支給条件・算定方法によって支給された現金給与額から、超過労働給与額(残業代)やボーナスなどを除き、所得税などを控除する前の額を指す。言い換えれば基本給に家族手当などを足したもの。
報告書から取得可能な1989年以降、今回新規に発表された2023年分に至るまでの賃金額と前年比推移を示したのが次のグラフ。なお2020年分調査から一部で推計方法が変更されており、その方法に基づき2019年分もさかのぼって再計算されている。よって2018年分までと2019年分以降との間には、厳密には連続性はないことに注意が必要となる。
賃金推移のグラフには直近年の値の他に、各属性の最高値(直近年以外の場合)、そしてデータが存在するうちでもっとも古い1989年の値を併記している。この推移からも分かるように、女性の賃金は堅調な上昇ぶりを示している。2005年と2010年、そして2013年は前年比マイナスを示したが、それ以外はすべてプラス。1980年から1990年代と比べて上昇幅こそ縮小してはいるものの、上昇傾向にあることに違いはない。
一方で男性は1990年代半ばまでは女性同様に大きな上昇カーブを描いていたが、それ以降は頭打ち。2001年の34万700円を一つのピークとして、それ以降は漸減の動きすら見受けられた。2014年以降は踊り場的な動きを見せつつ、上昇の流れにある。特にこの数年での上昇ぶりは著しい。
これは女性の社会進出・価値観の変化とともに、正規社員の減少・非正規社員の増加も一因。今件の「賃金」の対象には(短時間労働者は除外されているが)正規・非正規双方の社員が該当している。たとえ正規社員・非正規社員双方の給与がアップしても、(支払額の大きい)正社員数の比率が減れば、その分全体の平均値は下がってしまう。女性は元々非正規社員率が高いため、男性同様に非正規社員が増加しても大きな影響は生じない。
このような動きに伴い平均的な一般労働者における男女間の賃金格差は縮小に向かいつつある。
もっとも古いデータとなる1989年時点では女性の平均賃金は男性の約6割。それが直近では7割台にまで上昇している。男性の賃金が横ばい、女性が上昇している以上、その差が縮まるのは当然の話で、全体的な評価は難しいところではあるが、女性の平均賃金が上昇すること自体は喜ばしい話に違いない。
直近の2023年では、男性は前年比でプラス2.6%なのに対し、女性はプラス1.4%。そして全体ではプラス2.1%となっている。久々に男性の方が女性よりも大きなプラスが出ている。
今回取り上げた賃金はボーナスなどと比べ、景気や企業の業績の影響を受けにくい。労働各法の定めにより、基本給を下げる場合には一定の条件を満たした理由付け、手続きが求められるため、経営側では安易に上げるのを躊躇する傾向がある。「ベースアップ」がなかなか行われず、一時金や賞与で調整される場合が多いのも、これが理由。
もちろん賃金の動向だけでなく、人員整理・再構築による正規社員・非正規社員の構成比率の変化や、高額賃金の高齢者の退職・再雇用など、労働者自身の周辺環境の変化も、賃金上昇率とともに考慮をしなければ、雇用される側の総合的な生活安定度を推し量ることはできない。また手取りの上では「超過労働給与額」(時間外勤務手当、深夜勤務手当、休日出勤手当、宿日直手当、交替手当)も追加されることを忘れてはならない。
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