前年同期比でプラスは2誌…ビジネス・金融・マネー系雑誌部数動向(2023年7~9月)
「PRESIDENT」一強時代変わらず
インターネットやスマートフォンの普及で、時間との闘いが激しいビジネス、金融業界。その分野の専門雑誌の部数動向の実情を、日本雑誌協会が四半期ベースで発表している印刷証明付き部数(※)から確認する。
最初に精査するのは、直近分にあたる2023年の7~9月期とその前期に該当する、2023年4~6月期における部数。
「クーリエ・ジャポン」の休刊後、今カテゴリーの雑誌は定期刊行誌では全部で6誌だったが、その後「BIG tomorrow」も休刊に伴いデータの非公開化が行われ、5誌に減ってしまった。そして2018年10~12月期を最後にPHP研究所の「THE21」が姿を消してしまう。
「THE21」は現在も定期的に刊行を続けており、休刊のお知らせは公式サイトなどでは確認できない。何らかの理由により単純に印刷証明付き部数の非公開化に踏み切ったものと考えられる。
部数が低迷していたのは事実ではあるが、その動向を推し量るすべが無くなるのは残念な話。
不定期刊化し、出入りが激しかった「¥en SPA!」は今期でも顔を見せていない。
「¥en SPA!」は2021年12月6日に発売された2022年冬号が最新号で、今期の対象時期には該当しない。以前は半年ぐらいごとに刊行し、部数も1期ごとに公開・非公開を繰り返していたが、2017年4~6月期を最後に公開されないままの状態が続いている(発行ペースは変わらず)。編集部、あるいは出版社がこれまでとは方針を変え、非公開との判断を下したのかもしれない。同誌公式サイトでは発行ペースについて「不定期刊」との表記が確認できる。
対象誌の中では「PRESIDENT」が前期から継続する形でトップの部数。部数上で第2位となる「週刊ダイヤモンド」とは2倍ほどの差をつけている。その「PRESIDENT」の部数だが、2013年後半から上昇傾向が始まり、2015年1~3月期をピークとしたあとは少し値を落として踊り場状態となっていた。その後、2016年に入ってから大きく下落し、2013年以降の上昇分をほとんど吐き出す形に。2013年までの沈滞期と比べれば5万部ほどの上乗せをした形で、安定期に突入した雰囲気だった。
そして2016年の10~12月期に大きな伸びを見せ、その後はほぼ横ばいのままだった。2018年4~6月期以降は減少傾向を示し、数期の踊り場を見せた後、ここ2年ほどで再び減少の動きとなっている。
同誌は部数動向を見る限りではヒット企画の号で大きく背伸びをし、その余韻を楽しみながら次のヒットの創生を目指すスタイルのように見える。しかし2018年以降はそのスタイルでの部数底上げも上手くいかなくなってしまったようだ。
プラスは皆無…前四半期比較
次に示すのは各誌における、四半期間の印刷証明付き部数の変移。前期の値からどれほどの変化をしたかを算出している。季節による需要動向の変化を無視した値のため、各雑誌の実情とのぶれがあるものの、手短に各雑誌の状態を知るのには適している。
今期では前期比で全誌がマイナス、誤差領域(5%内の振れ幅)のマイナス幅。
前期比で一番小さな下げ幅にとどまった「DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー」だが、実のところ長期的な部数動向では緩やかな下落傾向の中にあるものの、ここ数年に限ればほぼ横ばい、現状維持の流れとも解釈できる状態。
「DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー」はグローバル・マネジメント誌を名乗る経営学誌。1922年にアメリカ合衆国のハーバード・ビジネス・スクールの機関誌として創刊された雑誌で、今では英語以外に11の言語で翻訳され、多数の国で刊行されている。該当期における刊行誌は3誌。
「マイクロストレス その正体と対処法」「リーダーのための成長論」「戦略としてのコスト管理」とビジネスの現状に合わせた魅力的な特集が並び、電子版も用意されている(電子版では割高になるが、特集記事単位で論文として購読することもできる)。もっとも読者の感想の限りでは、読み物としては高評価ではあるが、実用的ではない、具体的な話が無いとの意見も見受けられる。雑誌の方向性の上では難しい話に違いない。何かをきっかけに提唱しているビジネススタイルだけでなく、自誌の部数も上向きへの転換ができればよいのだが。
前年同期比動向はどうだろうか
続いて前年同期比を算出。こちらは前年の同期の値との比較となることから、季節変動の影響は考えなくてよい。年ベースでの動きのためにやや大雑把とはなるものの、より確証度の高い雑誌の勢いを把握できる。
前年同期比ではプラス誌は「週刊ダイヤモンド」「週刊東洋経済」の2誌で、双方とも誤差領域内のプラス幅。残り2誌がマイナスで、そのうち誤差領域を超えたマイナスは「PRESIDENT」。
前年同期比では誤差領域内のプラス幅を示した「週刊東洋経済」だが、部数動向は緩やかな下落の動きが続いていたものの、2019年半ばから加速化、そして2021年に入ってからようやく下げの動きが止まったように見える。
「週刊東洋経済」は週刊で畳みかけるように世の中のトレンドを捉えた経済方面の特集が多く、これが部数を支えているのだろう。該当期発行号の中では「中高一貫校 新序列」「ChatGPT 超・仕事術革命」などが、話題性も高く評価も集めている。他方、タブロイド紙的なあおりによる見せ方の記事も少なからずあり(特に公式ウェブサイトに転載されたもので多く見受けられる)、経済誌としての評価は分かれるところではある。
コミック系雑誌では進んでいる、定期刊行の雑誌の現時点における電子雑誌化も、今ジャンルでも少しずつだが確実に歩みを進めている。特にビジネス・金融・マネー誌は電子化との相性がよいので、読者の紙媒体からのシフトは大きな動きとなりうる。それに伴い今件「印刷」証明付き部数の動向が、その雑誌の勢いそのものを反映し難くなるのも仕方がない。上げ底をせずに厳密な電子版の販売数を合算した、総合的な刊行部数の公開が望まれる。
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※印刷証明付き部数
該当四半期に発刊された雑誌の、1号あたりの平均印刷部数。「この部数だけ確かに刷りました」といった印刷証明付きのものであり、雑誌社側の公称部数や公表販売部数ではない。売れ残り、返本されたものも含む。
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