久保建英、柴崎岳、岡崎慎司...ラ・リーガのグローバル展開と日本人選手の現在地。
2021ー22シーズンのリーガエスパニョーラが開幕した。今季、ラ・リーガ1部でプレーしているのは久保建英(マジョルカ)のみだ。また、岡崎慎司(カルタヘナ)と柴崎岳(レガネス)が2部で戦っている。
昨季は4人の日本人選手がラ・リーガ1部で鎬を削っていた。それに比べれば、単純にスペインでプレーする日本人選手の数は減っている。
しかしながら、現在のラ・リーガにとって、日本とアジアを見据えた国際戦略が掲げられているのは変わらない。この度、ラ・リーガ国際部門に従事し日本エリアを担当するギジェルモ・ペレス氏にインタビューを行った。彼の言葉には、日本の選手への期待、ファンへのリスペクトが込もっていた。
■久保の適応
ーーこの夏、久保がマジョルカに移籍しました。
「いくつかの視点があります。まず、ファンとして、非常に嬉しいですね。久保は(2019−20シーズンに)マジョルカで活躍しました。チームで重要な存在になり、彼自身も自分のプレーができていました。あのシーズンの終盤は本当に素晴らしかったです。フットボールのいちファンとして、久保のような才能ある選手が、マジョルカを家のように感じ、そのタレントを生かしてくれるのは嬉しいかぎりです」
「次に、日本の責任者として、日本のファンの方に喜んでもらえることが大事なので、そういう意味でも良かったと思います。マジョルカにとって、ラ・リーガにとって、日本のマーケットは大きいです。久保がより多くの試合に出ることが重要ですし、また久保はマジョルカで快適さを感じられるでしょう。2年前のようなシーズンになるかもしれませんし、それ以上のシーズンを送るかもしれない。現在の久保は経験を積んでいますし、東京五輪で素晴らしいプレーをしました。彼のマジョルカでのプレーを楽しみにしています」
ーー2年前のようなインパクトはあるでしょうか?
「あると思います。あの時のような驚きはないかもしれません。ですが、チームに早くフィットできています。1試合目は途中出場でしたが、2試合目からスタメンになりました。ヘタフェやビジャレアルで得られなかった信頼を得られています。それはマジョルカにとっても大きなプラスです。2年前、マジョルカは日本でバルセロナやレアル・マドリー以上の人気チームになったと過言ではありません。あの時以上のインパクトを期待していますよ」
■試合出場の影響
ーービジャレアルとヘタフェ時代の久保はどう見ていましたか?
「ビジャレアルでは、久保のポジションに良い選手が揃っていました。また、カンテラから若い選手が出てきていました。ヘタフェでは、ジョーカーとしての役割が与えられていたと思います」
ーー久保が出なかった場合、影響はあるのでしょうか?
「プレータイムが多ければ多いほど、それは良いです。ファンの人たちからすれば、久保が試合に出ていた方が、当然関心は高まりますからね。加えて、日本の場合、録画(あるいは見逃し配信)で試合を見る人もたくさんいます。そうなると、彼が試合に出ていたか、良いプレーをしたか、というのは関心に影響します。ただ、マジョルカでは、重要な選手になると思います。今季は多くの日本のファンの方がマジョルカに注目してくれるように願っています」
ーー昨季は、ラ・リーガに1部に4人の日本人選手がいました。久保、岡崎慎司、乾貴士、武藤嘉紀がプレーしていました。
「そうですね。昨シーズンは、確かに1部に4人の日本人選手がいました。ウエスカやエイバルは難しいシーズンを過ごしましたし、岡崎や乾は序盤戦こそプレータイムを得ていましたが、少しずつ出場機会が減っていきました。武藤はスタメンでもサブでもプレータイムを得られていたように思います。ただ、スペイン、またヨーロッパでの日本の選手の評価というのは変わっていません。今シーズンに関しては、武藤は日本に戻り、ラ・リーガでプレーした選手と一緒にプレーします。乾は、キャリアで一番良い時期をスペインで過ごしたと思います。我々の印象は、日本からはどんどん良い選手が出てきているというものです。彼らはヨーロッパのどのリーグでもプレーできると思います」
「スペインの2部と1部の違いで言えば、柴崎は2部でプレーしていますが、昨シーズンは1部昇格目前でした。2部の中には、1部でプレーできるようなチームが存在します。スペインの2部は、ヨーロッパで、国によっては1部リーグと同じくらいのレベルがあると思います。今シーズン、レガネスが1部に昇格することを願っていますが、いずれにせよ柴崎は彼が求めていた場所にたどり着いたのではないかと思います。彼への信頼があり、定期的に試合に出られるチームです。『WOWOW』で2部の試合を視聴できますし、そこで柴崎や岡崎の試合が見られます」
「岡崎に関しては、スペインに残ってくれて嬉しいですね。すでに、日本のファンの方々は、インターネットで“カルタヘナ”を検索し始めているでしょう。カルタヘナのSNSのフォロワーは増えていますし、カルタヘナはラ・リーガと連携しながら日本のファンと繋がりを持とうとしています」
ーーバレンシアは、この夏のマーケットで鈴木輪太朗イブラヒームを徳島ヴォルティスから獲得しています。
「それぞれのクラブに、戦略があります。バレンシアの考え方がどういうものかは分かりませんが、しかしそういう選手を獲得したのはトップチームでプレーできるレベルにあるからでしょう。重要なのは、スペインやヨーロッパのクラブが日本の若い選手に注目しているということだと思います。我々としては、これをきっかけにラ・リーガと日本のファンがさらに近づければと考えています」
■アジア市場と戦略的な視点
ーーポスト・コロナ時代において、ラ・リーガでアジアのマーケットはどのような位置付けになるでしょうか?
「アジアの市場に関しては、戦略的な視点があります。2017年にシンガポールにオフィスを構えて、もうすぐ5年になります。その頃から、各国に駐在員を派遣するようになり、私や(前任の)オクタビ・アノロ氏は日本の担当にあたりますが、グローバル展開でそれぞれの国のラ・リーガのファンと繋がろうという試みをしてきました。アジアは重要な位置づけになりました。コロナ禍に関係なく、近年、我々はそこに力を入れてきましから、それを続けていきます。日本に関していえば、国内のリーグ戦であるJリーグを非常に大切にしています。それは素晴らしいことです。我々が目指すのは、2番目のリーグ戦になること。Jリーグと競うことは考えていません。Jリーグと共に成長していきたいと思っていますし、それは提携という形で実を結びました」
「日程と試合時間に関しては、夏はスペインでは暑さ対策で時間の調整が難しい事情がありますが、これからは日本でも視聴しやすい時間に試合が行われるでしょう。イベントやアクティビティ、Jリーグとの連携、スポンサーとの協力、メデイアでの露出、そういったものを通じてファンに近づく努力をしています」
ーー先日、ラ・リーガとCVCファンドとの契約締結が発表されました。その契約について、どのように考えていますか?
「我々は『ラ・リーガ・インプルソ』と呼んでいます。そのネーミングの通り、この合意は、ラ・リーガを推進するためのものです。スポーツやエンターテイメントのあり方が変わってきていて、コロナ禍でデリケートな状況でもあります。我々の成長を止めないため、またラ・リーガのクラブをサポートするため、さらにはいろいろな方法での収入の手段を確保するためのコラボレーションだと考えています」
ーーテレビ放映権などを含め、ポジティブな変化は期待できるのでしょうか?
「CVCとの契約で、いろいろな点で変化があると思います。テレビ放映権に関しては、より正当な分配がなされるようになると思います。これまでの分配方法については、ラ・リーガとしては2013年からそこを変えようと動いてきました。(1部の)1位と20位の(受け取る収入の)差はこの数年で縮まったと思いますし、その中でスペインのクラブはチャンピオンズリーグやヨーロッパリーグで競争的に戦えています」
ーースタートしたばかりですが、新たなシーズンについて、どのように見ていますか?
「私は楽観的です。マジョルカ、レガネス、カルタヘナといったチームの全ての情報を握っているわけではありません。ですが、久保、岡崎、柴崎にとって良いシーズンになるはずです。ラ・リーガにおいては、新たなバルセロナ、レアル・マドリーを見るのが楽しみですし、昨シーズン奮闘したアトレティコ・マドリーやセビージャがタイトルを争えるかどうかも注目です。興味深いシーズンになるでしょう」
ーー最後に、日本のファンにメッセージをお願いします。
「我々はモチベーションに満ちています。昨シーズンのように、タイトルの行方を含め、欧州カップ戦出場権獲得や残留争いも最後まで白熱することになるかもしれません。『WOWOW』や『DAZN』で視聴できるので、皆さんにも是非注目してほしいです」