【河内長野市】東中学校の特別授業がやはりすごい!ベトナム戦争で枯葉剤の被害者ドクさんを招いての講演会
これまでこのページで、河内長野にある学校の取り組みを何校かご紹介してきました。例えば特認校で大自然と触れ合える天見小学校や、羊の太郎がいてダッシュ里山授業を行っている長野高校など、ユニークで個性的な学校。
しかし、その間の中学校の存在を忘れてはいけません。市立東中学校では昨年、デジタル復元師小林泰三氏を講師に招いて体験型の特別授業が行われ、その様子を取材させていただきました。
今年は、ベトナム戦争で使われた枯葉剤の被害者として、下半身がつながった結合双生児のひとり、グエン・ドク(Nguyen Duc)さんをベトナムから招いての特別授業を行うと、同校の内本年昭校長から連絡をいただきました。
そこで昨年に引き続き、当日の特別授業の様子を取材してきました。
河内長野には国際交流協会という団体があり、毎年秋に、世界のごった煮というイベントを開催し、その他にもグローバルカフェなどいろんな国際的な催しをしています。
最近では5月26日から3日間、ラブリーホールで行われたワークショップハートグローバルへの協力があります。
それから河内長野と姉妹都市でもあるアメリカインディアナ州のカーメル市から、昨年の秋に、イーサン・ マックアンドリューさんが河内長野に来られて、国際交流協会の方がサポートしたこともありました。
しかし、今回のドクさんは国際交流協会とは無関係に、東中学の内本校長が招聘して来日されました。
ということで、ドクさんが河内長野に来られる当日、東中学校にお邪魔しました。
タクシーからドクさんが降りてきました。同行しているのは、通訳のトゥエット(Shichi Tuyet)さん。普段は箕面市でベトナム料理研究家として活躍されている方です。
内本校長とドクさんが校長室に向かいます。ふたりは再会したとき、お互いに目を潤ませていました。コロナ渦で4年近く会えていなかったための、感動の再会です。
ドクさんは兄のベトさんと分離をする際に、足を片足ずつ分け合ったので、片足と松葉杖を巧みに利用して移動します。
校長室では楽しそうに再会を喜び合うふたり。そうです、単なるベトナムの有名人という理由で、内本校長がドクさんを招聘したのではありません。
内本校長とドクさんとの深い友情があったからこそ、ドクさんはベトナムからはるばる河内長野まで来られたのです。
ではいったい、ふたりの接点はどこにあるのでしょうか?
内本校長が美術科の教員だった2009年当時、ホーチミン戦争証跡博物館にはじめて訪問した時にベトナム戦争や枯葉剤被害について深い衝撃を受けました。以来、学校の生徒にベトナム戦争のこと、枯葉剤被害を語り、また絵画表現をするようになりました。
枯葉剤の被害者といえば、ベトさん、ドクさんの兄弟です。枯葉剤被害のことをもっと詳しいことを知りたいと思っていた内本校長は現地でドクさんと親交のある桝蔵千恵子さんと知り合いました。
桝蔵さんが「直接ドクさんから話を聞いたほうが良い」とおっしゃり、内本校長はドクさんを紹介してもらい、初めて会うことになります。
その後ドクさんに「自分の言葉で語ってほしい」内本校長がお願いして、2009年11月25日に、ドクさんがテレビ会議を通じて日本の生徒たちに枯葉剤被害のことや自身のことを語りました。
内本校長とドクさんは、平和を願う歌「いつも僕の中に」を共同作詞して、現地のTV番組に出演するなど、より親交が深まりました。
さらにドクさんの紹介で、内本校長が戦争証跡博物館のフイン・ゴック・バン館長と懇談したことがきっかけで、同博物館の壁画のリニューアルに合意します。
内本校長を含めた複数の日本人画家と、ドクさんとふたりの子供を含めた複数のベトナム人により、平和をテーマに制作された壁画が2017年に完成しました。
内本校長のインタビューを動画に録りました。
つまり内本校長とドクさんとはもう13・4年もの付き合いがあるわけです。
さて、ここにモルックと書かれた木の箱があります。モルックはフィンランドカレリア地方のキイッカ(Kyykkä)というゲームを基に開発されたスポーツで、最近流行っていますね。
私の知っている範囲では長野公園や富田林の寺池公園などでもモルックが行なわれていますが、今回第1部の特別授業として、ドクさんがモルックに参加して、2年生の代表チームとの対決が行なわれます。
モルックは校内にあるオムニコート(人工芝に砂がちりばめられたコート)で行われます。
ドクさんが登場すると教室の窓から大声援が送られました。
ベトナムの国旗Tシャツを着た先生が、先ほどのモルックを手に登場します。特別授業第1部のモルック対決がまもなくスタートです。
モルックのルールを確認すると、モルックと呼ばれる木の棒を投げて倒れたスキットルの内容によって得点を加算します。先に50点ピッタリになるまで得点を獲得すると、勝ちになります。
こちらがセットされたスキットルと呼ばれるピン。これをモルックを投げて倒していくわけですね。
いよいよモルックが始まりました。2年生の代表チームがモルックを投げました。
こうしてモルックがスロットルにぶつかって倒れていくのですが、見た限りにおいて、けっこう高度なスポーツだと思いました。
ボウリングは転がしてピンを倒しますが、そうではなく立体的に投げることで倒すために、位置がずれてスロットルにぶつからないなど簡単には倒れません。
さあ、いよいよドクさんが投げました。初めてのモルックとあって、かなり苦労されていました。
そのあとドクさんは、サッカーボールを足でコントロールするパフォーマンスを見せてくれました。
松葉杖と片足という不利な状況なのにもかかわらず、ボールさばきがとてもうまく、蹴った時のボールの勢いは相当強いものがありました。
こうしてモルックに参加した生徒たちとドクさんが記念撮影をして、第1部の特別授業は終わりました。
第1部のモルックは選ばれた生徒とドクさんのモルック対決でしたが、この後、第2部として全校生徒を対象としたドクさんの講演会があります。生徒が授業を受けている1時間くらいの間に、内本校長指示の元、体育館で準備が行われました。
音響設備もしっかりとしているので、遠くからでもドクさんの生の声が聞こえるようになっています。
講演はパネルを交えてドクさんがベトナム語でお話しされ、そしてトゥエットさんが日本語に通訳をするという方法で行われます。
休憩の後、体育館にドクさんが現れました。
と同時に、生徒が体育館に続々と入ってきます。
生徒が集まった後、壇上にドクさんが上がりました。
最初に内本校長が今回の講演会の意義について解説します。
30歳以上の人はベトさんドクさんのことは良く知っていますが、20歳代以下、特に今回の中学生になると、いまいちわかっていない生徒もいるのではということがあります。
そこでこの講演はベトナム戦争や枯葉剤、ドクさんのことをより深く知ることで、平和について考えてもらおうという狙いがあります。
ドクさんの講演が始まりました。通訳があるだけでなく、パネル展示があるので非常にわかりやすいです。
ドクさんは、生い立ちから始まり、これまでの人生を丁寧に語っていきます。
ドクさんを支援する「願う会」のことについての説明もありました。
そして、日本で行われた治療のことを語ります。
ドクさんは日本での恩義を忘れることができないと、後に結婚して生まれた双子の子どもには、日本にちなんだ名前、富士山と桜の花の名前を付けました。
男児はグエン・フー・シー(Nguyễn Phú Sĩ / 阮富士)君、女児はグエン・アイン・ダオ(Nguyễn Anh Đào / 阮櫻桃)ちゃんです。
兄のベトさんの容体が悪化し、ドクさんへの影響が心配されたことによる分離手術が、ホーチミン市立トゥーズー病院(Bệnh viện Từ Dũ )で行われました。
ドクさんは兄と分離してからのことについて、ひとりの人間として成長していく様子のことを語ります。
そんなドクさんも良い相手が見つかり結婚しました。
しかし、生まれてから手術をするまでずっと一緒だった兄との別れの時が来てしまいました。
ドクさんは、兄のベトさんについては特別な思いがあるとのこと。兄のベトさんは2007年に26歳の生涯を終えましたが、ドクさんは兄の分も含めて生きていきたいと強調されていました。
一卵性双生児は、その双子にしかわからないコミュニケーションがあると聞いたことがありますが、ドクさんの場合はそれ以上の状況です。
ドクさんが生まれて意識があるときから体が一体化した兄とずっと一緒という状況だったので、それはどういう感覚だったのか、こればかりはドクさんしかわかりません。
ドクさんが河内長野に来たのは、今回が3回目です。以前、2011年に三日市小学校を訪問したことがあります。そのあと2014年にも河内長野を訪問しています。
河内長野への想いについて特にドクさんは語りませんでしたが、深い友情でつながっている内本校長がいる場所だから悪い印象を持っているとは思えません。
でなければ3回も河内長野に来ることはないでしょう。
最後に、自分の運命を受け入れながらベトナム戦争や枯葉剤の事を多くの人に伝えようと慰問活動をされているという話で終わりました。今回の東中学校での講演会もその一環なわけですね。
この後、質疑応答が行われました。主に中学1年生がドクさんに積極的に質問をぶつけ、ドクさんもそれに対して丁寧に答えられていました。
講演の最後に、内本校長とドクさんが平和を願う歌「いつも僕の中に」を歌いました。
少しだけですが動画を撮影しました。
その後、生徒会長が壇上に上がり、ドクさんに感謝の言葉を伝えました。
そして花束が贈呈されました。
こうして内本校長に見送られながらドクさんは体育館を後にしました。
これで今回の特別授業の第2部が無事に終了しました。
校長室に戻ってきたドクさん、生徒会長と記念撮影です。
そのあとは急遽ドクさんのサイン会が始まりました。ドクさんと学校で会ったことは、生徒以上にその親御さんのほうが驚かれたことでしょう。
中にはバッグにサインをしてもらう生徒の姿もありました。
ベトナムは現在急激に経済成長していて、ホーチミン市の東部には81階建てのヴィンパール ラグジュアリー ランドマーク 81が完成し、まもなくメトロが開通するなど、日本の高度経済成長やバブル景気を思わせる雰囲気があります。
しかし、かつて国が分断し、国同士が大国の思惑に振り回さされて戦ったインドシナ戦争とベトナム戦争のことは決して忘れてはいけない。枯葉剤による被害者ドクさんの講演会を横で聞きながら、改めて戦争の悲惨さについて考えさせられました。
きっと東中学校の生徒も同じ気持ちを持ったことでしょう。
内本校長は、今後も生活がけっして楽ではないドクさんの支援を続け、学校での特別授業もしていきたいと語っていました。これについても、頭が下がる思いでいっぱいになりました。
河内長野市立東中学校
住所:大阪府河内長野市日東町26-1
アクセス:河内長野駅からバス 東中学校前バス停下車徒歩2分
グエン・ドクさん支援団体「NPO法人美しい世界のため」(外部リンク)