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中国において今後最も注目すべき発展地域はここだ!大湾区

鈴木崇弘政策研究者、PHP総研特任フェロー
発展著しい中国広東省(写真:ロイター/アフロ)

 中国の経済は、昨年ぐらいからやや減速してきているとはいわれるが、近年実に驚異的な発展を遂げており、世界の経済に大きな影響を与えるようになってきたと共に、ある意味世界経済の脅威にもなってきている。そのようなことも、最近の米国政府による中国通信機器大手「華為技術(ファウェイー)」の排除事件にもつながっていると考えられる。その本社があるのが、中国深センである。その深センは、つい少し前までは日本企業の下請け、まがい物やコピー製品の製造というイメージであった。

 しかし、最近では深センは、急激な発展を遂げてきた。そして、日本でも深センの近年の急速な発展を生み出してきたイノベーション、スタートアップなどに注目が集まってきている。そのため、多くの日本人や日系企業が現地を視察に訪れたり、現地企業との提携を試みたりしてきている。

 筆者も、昨年の夏、その発展を実感するために、現地深センを訪問(注1)した。そして、その発展ぶりに瞠目すると共に、日本にとっての脅威であり、ある意味「中国」そして「日本」自身に対する認識を変えなければいけないとも考えるようになってきている。

ところが、筆者が最近聞くところによると、深センは中国における発展の序の口に過ぎず、深センを含む広東省・香港・澳門「大湾区(グレーターベイアリア)」(注2)に注目しないと、中国における現在そして今後の発展の広がりと深さを知ることはできないのだという。

 そこで、本記事では、メールでのやり取りを基に、現地情報に詳しい現地企業「FIND ASIA」の取締役余暁さんと同社で華南地区担当として活躍する日本人の加藤勇樹さんとの鼎談という形で、なぜ同地区に注目すべきであるかについて、またその地区の現状や今後の可能性についてレポートしていくことにする。

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鈴木:余取締役、加藤さん、本日はご多忙のところ、最近日本でも徐々に注目や関心が高まってきてはいますが、まだまだ知られていない「大湾区地区」についてお話を聞く機会をつくっていただき、ありがとうございます。限られた時間ではありますが、よろしくお願いします。

 まず伺いたいのは、ご存知のように中国の深センは、最近では「紅いシリコンバレー」とか「米国のシリコンバレーを超えた」とかいわれて、日本でも大変注目を集めています。

 日本人が大勢現地視察に訪れていると聞いています。そのため、最近では現地企業は、日本人が来てもなかなか次に繋がらないので、企業見学に高い費用を請求したり、面談や見学を渋るようなこともあると伺っています。私も、昨年訪問させていただき、その発展ぶりに驚くと共に、現地でどこの国にいるのかわからないというような印象を持ちました。

急速に発展する深センの夜景/筆者撮影
急速に発展する深センの夜景/筆者撮影

 ところが、深センだけをみて、実は中国の発展やイノベーションを語ることはできない、深センも含むより広いエリアである、Greater Bay Areaつまり「大湾区」を見ないといけないといわれているそうですね。

「深セン以外からのイノベーション」

余:はい、そのとおりです。深センが中国のイノベーションの大半だと勘違いされていますが、実際はそうでもないのです。

余暁さん/本人提供
余暁さん/本人提供

 まず深センの隣にある香港を考えてみましょう。深センの人材には香港などで教育を受けた人材が多いのです。また深センは、大学の質や規模ともに香港に劣っています。香港には多くの大学、東アジアトップクラスの大学が集結しており、DJI(注3)の社長が勉強した香港科技大学などがあります。

加藤:また香港には、同地発のイノベーションを支援するCYBER PORTやSCIENCE PARKなどの公的なスタートアップ支援が充実しています。

余:香港は、人口は700万人程度でありながら、個人の車両で宅配郵便を行うという新しい物流サービスを提供する企業GOGO VANやディープラーニング技術を応用したサービスを提供する企業SENCE TIMEなどのユニコーン企業が誕生しています。

「この地域の規模などについて」

鈴木:今のお話を伺うと、確かに、深センは単独で、イノベーションや発展が起きているのではなく、周辺地域との関係性において発展してきていることがわかります。では、この地域の現状についてもう少し数字などを交えてお話しいただけませんか。

加藤:それについては、私の方からお話しさせてください。広東省は、人口1億1,169万人(全人口の8.0%)、経済規模(域内生産総額:GRP)8兆9,879億2,800万元(中国の10.9%)で共に省・市・自治区別の中で首位、社会消費品小売総額の全体の10.4%、貿易額の全体の24.5%で共に省の中で首位です。

 また、特許取得件数は4万5740件で、そのシェアは省の中で全国2位、PCT出願率は全体の60.3%のシェアを占め首位、さらにR&D費用支出は2,035億1,000万元、シェアは13.0%で首位を占めています。同省の深セン市は、「大衆創業、万衆創新」指数と新規企業登録数で、全国の市の中でトップとなっています。

 主要都市の経済規模では、上海市や北京市が上ですが、それらに続いて、香港、深セン市、広州市が並びます。また深セン市の成長率は8.8%で、北京市や上海市を上回っています。また、中国の主要都市の1人あたりのGRPでは、香港、深セン市、広州市が、北京市や上海市を上回っています。

 以上のようなことからも、この大湾区地域の経済規模や発展の様子がわかっていただけるかと思います(注4)。

加藤勇樹さん/本人提供
加藤勇樹さん/本人提供

鈴木:ありがとうございます。では次に、そこにおける都市や地域の関係性がどのようになっているのか教えていただけませんか。

「役割分担が進む大湾区」

余:深センは、電子電気産業において開発設計の中心です。それに対して、広州は、膨大な関連産業を抱える自動車産業及び機電産業の生産が中心で、中国国内の自動車製造の内10%が生産されています。佛山などは、ロボット産業が集積しています。このように、この地域(いわゆる「大湾区」)は、その地域ごとである意味に棲み分けをしながら、モノづくりにおける基盤が整っているのです。

加藤:更に世界有数の観光地であるマカオ、中国国内最大の総合娯楽施設を抱える珠海など文化レジャー産業も充実しています。そのことも、この地域の産業に広がりとダイナミズムを提供しています。

余:この地域で成長した中国系企業は、香港という国際チャンネルを通じて海外進出を図ってきていますし、香港市場での上場を果たしています。たとえば、テンセントやアリババ、最近だと中国で人気の火鍋料理チェーン店を展開するハイディーラオという企業が香港で上場を果たしました。

「統合化が進む大湾区」

鈴木:この地域でいえば、昨年、香港・澳門(マカオ)を繋ぐ長い橋の開通や高速鉄道開通などが話題になりました。これらのことは、その地域にとってどんな意味があるのでしょうか。

余:香港・広州南が、高速鉄道で従来の半分で移動できるようになりました。また世界最長52kmの香港・澳門橋の開通をはじめ、この地域におけるハード面での統合が非常に顕著になり、この地域がさらに密接につながりだしてきています。またそのハード面での統合と並行する形で、香港人が大陸での就業や社会保障が解放されつつあること、大湾区共通の電子決済が進展するなど、ソフト面でのこの地域の統合が進みつつあるのです。このハードとソフトの両面での統合は、この地域の経済発展の可能性とポテンシャルをさらに拡大、深化させ、この地域の更なる発展、進化に繋がると考えられます。

鈴木:それらのことからも、その地域の今後の更なる劇的な発展と可能性、ダイナミズムを感じますね。

「日本との結びつきについて」

鈴木:それでは、最後に、この地域の急激な変化や発展と日本との関係性、あるいは、近年なかなか新しい方向性を見いだせない日本ですが、そのような状況を克服していくためにも、日本はその地域の発展をどのようにとらえ、活かしていくべきでしょうか。

 余さんは日本での留学経験もおありですし、加藤さんは、日本人として現地で活躍され、現地の事情にも詳しいわけですが、ぜひそれらも踏まえて、アドバイスをいただければと思います。

余:4月初頭に香港行政長官などの中国政府の高官が、日本で大湾区構想についてのシンポジウムを開催しました(注5)。日本からの投資や国際交流の強化を推進する目的で開催されたものですが、非常に盛況で、日本からの関心も非常に高まってきていると感じました。

大湾区シンポジウム(大湾区公式HP)
大湾区シンポジウム(大湾区公式HP)

 日系企業が最も進出している、香港‐広東省‐マカオ地域ではありますが、従来の生産拠点や市場としてのみならず、より一層の交流が必要であると思います。

加藤:東京湾も産業の集積地であり産学連携や、東京湾地域に工場地域をこれまでに建設し、その地域を有機的に統合し、日本の経済成長を成し遂げてきたわけですから、その意味では先達であり、双方で学びあえることも多いはずです。

余:大湾区は、日本とのビジネスや文化における交流も盛んなので、日・大湾区間での人材・文化交流はますます結びつきを強めていけるはずです。私たちも、その分野で協力していきたいと考えています。

鈴木:本日は、非常に将来性のある、日本にとっても明るい可能性を秘めたお話を伺えたと思います。ありがとうございました。

(注1)拙記事「日本はもはや『先進国』ではない…深センで見た現実」(Yahoo!ニュース、2018年8月20日)]、「[https://www.kyobun.co.jp/commentary/c20181001/ 中国に差をつけられる日本の教育 政府がテクノロジーの重要性を理解」(教育新聞、2018年10月1日)、「超急成長都市「深セン」で体験した『中国の現在』と『日本の未来』(上)(下)」(フォーサイト、2018年10月30日)[https://www.fsight.jp/articles/-/44409]や番組「深セン…今世界で最注目の沸騰都市(AWニュースWeekly、2019年10月19日)」などを参照のこと。

(注2)「広東・香港・澳門大湾区(「大湾区」)は、香港、澳門の2つの特別行政区と広東省の9都市(広州市、深セン市、珠海市、仏山市、恵州市、東莞市、中山市、江門市と肇慶市)で構成され、56,000平方キロメートルにおよぶ広大なエリアと人口約7,000万人(2017年末現在)を擁します。また、中国内で最も開放的かつ経済活動が活発な地域として、中国全体の発展にとって極めて重要な役割を果たします。」(出所:広東・香港・澳門大湾区シンポジウムHP

(注3)DJI(ディー・ジェイ・アイ、Da-Jiang Innovations Science and Technology Co., Ltd.、大疆創新科技有限公司)は、深センにある会社で、世界シェアの7割を担っている世界最大の民生用ドローン及びその関連機器の製造会社。

(注4)より詳しくは、「広東省から見た粤港澳大湾区計画の概況と計画を通じたビジネスチャンス」(河野円洋[日本貿易振興機構(JETRO)広州事務所]、2018年10月)など参照のこと。

(注5)「広東・香港・澳門大湾区(「大湾区」)シンポジウム」広東省人民政府・香港特別行政区政府・澳門特別行政区政府の三政府合同主催、2019年4月9日開催

[参考]  

(鼎談者紹介)

・余暁(James Yu) FIND ASIA取締役

1989年 上海大学卒、横浜国立大学、ニューヨーク大学にて留学。

1989年 テンプスタッフ株式会社入社、その後香港法人取締役を就任。

2000年 香港にてGood Job Creations(Asia) Ltdを設立。代表取締役に就任。

2009年 リクルートグループとの資本提携、経営統合によってリクルート香港法人ディレクターに就任。

2011年 Find Asia Ltd.代表取締役社長に就任。

香港大学、香港中文大学名誉顧問、上海復旦大学、広州中山大学客員教授を歴任。

・加藤 勇樹 FIND ASIA華南地区担当

2013年 大学卒業後、新卒で入社した会社で2年勤務。

2015年 FIND ASIA Ltdに入社し、広州拠点の担当者として中国広東省広州で勤務を開

始。現地の外資系企業を中心に人材紹介サービスを展開。

2017年 広州拠点の業務拡大と、香港本社の業務担当の為、広州から香港・深センへ異動。

深セン・香港で人材紹介サービスを拡大しつつ、大湾区の企業や人材を、日本と結びつける交流事業を開始。

(会社紹介)

FIND ASIA中国大陸や香港、タイに拠点をもつ会社。グローバル採用支援を行うHR事業や日本で香港・中国の大学生に対し日本文化体験を行い日本・香港・中国の相互理解をサポートする事業を実施。

政策研究者、PHP総研特任フェロー

東京大学法学部卒。マラヤ大学、米国EWC奨学生として同センター・ハワイ大学大学院等留学。日本財団等を経て東京財団設立参画し同研究事業部長、大阪大学特任教授・阪大FRC副機構長、自民党系「シンクタンク2005・日本」設立参画し同理事・事務局長、米アーバン・インスティテュート兼任研究員、中央大学客員教授、国会事故調情報統括、厚生労働省総合政策参与、城西国際大学大学院研究科長・教授、沖縄科学技術大学院大学(OIST)客員研究員等を経て現職。経済安全保障経営センター研究主幹等兼任。大阪駅北地区国際コンセプトコンペ優秀賞受賞。著書やメディア出演多数。最新著は『沖縄科学技術大学院大学は東大を超えたのか』

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