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京都大学国際シンポジウム「食と持続可能性」(京都大学主催)食品ロスと環境影響、その削減に向けて

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
京都大学国際シンポジウム「食と持続可能性」のポスター(エコ〜るど京大公式サイト)

2018年10月29〜30日まで、京都大学国際シンポジウム「食と持続可能性」が開催された。30日午後は食品ロス削減全国大会in京都が開催されたが、30日午前のプログラムでも、食品ロスに関連するテーマが発表された。

30日午前中のプログラムでは10人近くの方が発表された。その中から、食品ロスに関連するものを3つご紹介したい。

京都大学国際シンポジウムが開催された京都大学百周年時計台記念館(筆者撮影)
京都大学国際シンポジウムが開催された京都大学百周年時計台記念館(筆者撮影)

「FAO食料政策協定の現状と課題、将来の方向性について」 Rosa Rolle博士(FAOシニアフードシステムオフィサー)

お一人目は、イタリア・ローマから来日された、Rosa S. Rolle博士。エコ〜るど京大が公開したパワーポイント日本語訳の肩書きとしては、FAOの「栄養食品部門の上級企業開発員」とある。

「都市でのフードアクションへのFAOの枠組み」というタイトルで発表された。

Rosa Rolle博士(FAOシニアフードシステムオフィサー)(筆者撮影。肩書きは「エコ〜るど京大」のサイトの日本語訳より)
Rosa Rolle博士(FAOシニアフードシステムオフィサー)(筆者撮影。肩書きは「エコ〜るど京大」のサイトの日本語訳より)

Rosa博士は、食品の期限表示に関する消費者の理解不足が食品ロスを招いていることに触れた。

消費者の「消費期限」と「賞味期限」の誤った解釈は、 家庭での食品廃棄の一因となっている

出典:エコ〜るど京大 Rosa博士の発表資料(参加者のみに公開)

また、食品ロスや食品廃棄物が大都市の課題であり、持続可能性を脅かすものであると述べた。

食品ロスと廃棄物は、全体的に管理される大きな都市の課題であり、地球の持続可能性に対する脅威でもある

出典:エコ〜るど京大 Rosa Rolle博士の発表資料

Rosa博士の発表を聴く参加者(写真:京都大学の浅利美鈴先生を通して提供された、YuccoTさん撮影写真)
Rosa博士の発表を聴く参加者(写真:京都大学の浅利美鈴先生を通して提供された、YuccoTさん撮影写真)

Rosa博士は、タイのメーファールアン大学(MFU)大学で行なった、食品ロスを減らすためのキャンペーンの成果についても述べた。学生に、食べきることを促す「ナッジングカード」を見せて啓発したところ、キャンペーンの前後で、食品廃棄の発生率が軽減された、というものだ。成果は食品の種類別に数値で示された。

「食品ロスと環境影響、その削減に向けて」酒井伸一教授(京都大学環境安全保健機構 附属環境科学センター)

2つ目が、酒井伸一先生の「食品ロスと環境影響、その削減に向けて」だ。

酒井伸一教授(京都大学環境科学センター)(筆者撮影)
酒井伸一教授(京都大学環境科学センター)(筆者撮影)

京都大学と京都市が連携し、1980年から「廃棄物細組成調査」が継続されているのは、食品ロスに関わる人であれば有名な話だ。

1980年に、京都大学名誉教授の高月紘(ひろし)先生が始めた。その調査を、酒井伸一先生が引き継いだ。300家庭から、およそ1トンの家庭ごみが収集される。

ごみは、およそ400カテゴリーに分けられる。食品廃棄物については、5年おきに実施される詳細調査で、食品容器包装などといった12の「食べられないものの項目」を含む64項目に分類される。

2012年の調査によれば、全体のうち、45.9%が調理くずだった。現状では、食品廃棄物のうち、およそ40%が「食品ロス」という結果が得られている。

左から二人目が酒井伸一先生。(京都大学の浅利美鈴先生を通して提供された、YuccoTさん撮影写真)
左から二人目が酒井伸一先生。(京都大学の浅利美鈴先生を通して提供された、YuccoTさん撮影写真)

京都大学と京都市による2013年10月31日の調査によれば、手つかず食品が全体の11%、賞味期限内にもかかわらず捨てられていた食品が全体の62%もあった。高月紘先生は、この状況を「飽食(ほうしょく)」ではなく、「放食(ほうしょく)」と述べておられるという。

酒井先生は、2013年に、『Waste Management』で論文として公表されている、スイスの事例についても紹介された。供給された食品のうち、エネルギーベースで48%がロスとして廃棄されていたという。

酒井先生は、食品ロスを抑制することによる温室効果ガス排出削減効果が大きいことを強調された。

トップバッターの講演を務められた京都大学農学研究科副研究科長の秋津元輝(もとき)教授(筆者撮影)
トップバッターの講演を務められた京都大学農学研究科副研究科長の秋津元輝(もとき)教授(筆者撮影)

「世界の安全食料保障と栄養の現状2018」ンブリ・チャールズ・ボリコ氏(国連食糧農業機関:FAO 駐日連絡事務所 所長)

3つ目は、FAO駐日連絡事務所所長の、ンブリ・チャールズ・ボリコ氏の「世界の安全食料保障と栄養の現状 2018」だ。

ンブリ・チャールズ・ボリコ氏(国連食糧農業機関:FAO  駐日連絡事務所 所長)(筆者撮影)
ンブリ・チャールズ・ボリコ氏(国連食糧農業機関:FAO 駐日連絡事務所 所長)(筆者撮影)

ボリコ氏は、2017年時点でもなお、世界に栄養不足の人が8億2100万人存在することに触れた。世界の中でも、特に、紛争が長期化したり、行政能力が弱体な地域では、飢餓や低栄養が悪化することを強調した。

ボリコ氏は、会場の参加者に向けて、「世界の中で、食料不足の人が一番多いのはどこだろうか?」と問いかけた。多くの人が「アフリカ」に手を挙げたが、実はアジアが5億1,510万人と最も多く、全体の3分の2がアジアに集中しているのだ、と説明した。

SDGs(持続可能な開発目標)の12番目で「小売・消費レベルの食料廃棄を2030年までに半減する」という数値目標が立てられているが、世界の生産量の3分の1もが捨てられている現状を熱く訴えた。

チャールズ・ボリコ氏が示したプレゼンテーション(筆者撮影)
チャールズ・ボリコ氏が示したプレゼンテーション(筆者撮影)

以上、食品ロスに関する3つのプレゼンテーションについて、概要を述べた。

シンポジウムに参加して

10月30日午後の食品ロス削減全国大会in京都も密度が濃かったが、午前中のこのシンポジウムも相当、内容が濃かった。午後から参加された方は、これを聴けなくて、もったいなかったな、と思う。

10月30日AMのシンポジウムを聴く参加者(京都大学の浅利美鈴先生を通して提供された、YuccoTさん撮影写真)
10月30日AMのシンポジウムを聴く参加者(京都大学の浅利美鈴先生を通して提供された、YuccoTさん撮影写真)

筆者は、FAO駐日連絡事務所所長のチャールズ・ボリコ氏のプレゼンテーションを聴いたのは、これで4度目だった。

一度目は、セカンドハーベスト・ジャパン(2HJ)の広報を務めていた時、2HJ主催のシンポジウムの最後に、日本語で挨拶してくださった時のこと。日本語の堪能さと内容の素晴らしさに感銘を受けた。

二度目が、2018年2月2日に開催された、ダニエル・グスタフソン国連食糧農業機関(FAO)事務局次長を迎えて 「食品ロスを考える国際セミナー」。この時も日本語でのプレゼンテーションだった。

三度目が、2018年3月21日に開催された、「東京都食品ロスもったいないフェスタ」

いずれも日本語だったが、今回は英語だった。内容はもちろん、お話も力強く、熱意が聴衆に伝わるものだった。

ンブリ・チャールズ・ボリコ氏(国連食糧農業機関:FAO  駐日連絡事務所 所長)(筆者撮影)
ンブリ・チャールズ・ボリコ氏(国連食糧農業機関:FAO 駐日連絡事務所 所長)(筆者撮影)

 

終わってからボリコ氏にご挨拶に行くと、最初はわからなかったようだが、すぐに思い出して下さって、「Rumi(ルミ)〜!」と、何度も名前を呼んで再会を喜んで下さった。ボリコ氏の、人間性や温かみが感じられ、本当に嬉しかった。ボリコ氏が、食品ロスを始めとした食料問題に関わり、解決に向けて尽力して下さっていること、心から有難いと感じている。

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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