深夜、濁流が町を襲った しかし報道もない、市の支援もない、だから助け合うしかない、静岡市葵区のSOS
台風15号による記録的大雨に襲われた静岡市葵区では、23日夜から24日未明にかけ、安倍川の支流、内牧川の護岸の一部が決壊し、濁流が一気に住宅街を飲み込んだ。
土地の低い場所では、大人の胸の高さを超える浸水があり多数の住宅が被災した。急激な雨で川の水位が上がり、瞬く間に決壊する川の様子を、地元の住民の皆さんが映像におさめていた。
あの日、どれだけ深刻な災害が発生していたかを物語る貴重な資料映像だ。
報道も、公的支援も後手にまわり、地域の住民は協力し合って復旧にあたらざるを得なかった。なぜ、自治体や国の初動は遅れたのか検証が求められる。
■「葵区のことを報道して欲しい」という連絡を受け、現地へ
27日夜、筆者のTwitterのDMに葵区に住む男性からメッセージが届いた。
「内牧川沿いの幸庵新田、内牧エリアでは数十世帯が床上浸水。27日現在も、清水同様、浸水した家財道具が道路に積まれています。現地では、ボランティアの受け入れ態勢がなく、地元の人間だけで復旧作業をしようという雰囲気だそうです。(中略)自助、共助はもちろんですが、広く被災状況を知ってもらい多くの助けをお願いしたく、堀さんにもお力添えをいただけますよう、よろしくお願い申し上げます」
このメッセージを受け、翌28日午後、現地に入った。
内牧川では決壊した箇所の復旧工事が進められていたが、砂埃が舞う住宅街では、泥まみれになった家財道具や濡れて使えなくなった畳などの後片付けに住民の皆さんが追われていた。
一人で暮らしているという80歳代の女性に出会った。
自宅は床上浸水。泥の跡が壁に残っており、測ってみると女性の首の高さに匹敵した。洪水に見舞われた夜は2階で寝ていたため、命が奪われることはなかったが被害は深刻で、疲れた表情で玄関に座り込んでしまっていた。
床下には泥が残り、風呂も台所も壊れてしまったというが、今年の夏、50年近くかけていた水害の保険を解約したばかりで、補償の見込みが経っていないと途方に暮れていた。今一番必要な支援は、住宅を修繕し、生活を再建するための資金の見通しだという。
インタビューを終え、お礼を述べると、女性は逆に筆者の食事のことを気にかけてくれた。
■次の嵐までに、土砂を撤去し、修繕と対策が必要 しかし見通しは不確定
内牧川を少し遡ったところにある地域、幸庵新田。あの日の夜、茶畑や住宅を泥水と土砂が襲った。
家の周りの泥を片付けている男性に話を聞いた。
森合 直さんの自宅は周囲を土砂に囲まれていた。床上浸水は免れたものの、車もバイクも水に浸かり廃棄になった。
深刻なのは、今も道路や水路に残る大量の土砂。森合さんが24日午後に撮影した写真をみると、まるで土砂の中に家が立っているような惨状だった。
業者が来て、道路が通行できるよう一部を撤去してくれたが、本格的な復旧には至っていない。市の担当者が調査に訪れたが「来週あたり重機を入れる」と説明するのにとどまり、森合さんは、実際に撤去や修繕工事がいつどのように進むのかは結局わからないと語った。
次に同じように大雨に見舞われたら再び土砂が家に流れ込んでくる可能性がある。
いま、必要な支援は、線状降水帯に見舞われても洪水が起きない対策工事だと語った。
■「県は静岡市の浸水被害を把握してなかったと思う」と住民
9月28日午後3時現在、静岡県の発表によると、県内での床上浸水は1820棟、床下浸水は2923棟とされている。
取材中、住民からは、県や市はどこまで迅速に互いに実態把握に努めたのか疑問が残るという声を度々聞いた。
実は、静岡県が静岡市の浸水被害の発表を始めたのは、24日午後6時の第5報から。それまでは静岡市の数は発表されていなかった。
しかも、その第5報では、床上浸水878とあるが、床下浸水に関しては空欄のまま。
島田市や掛川市など、その他の自治体の状況は、24日深夜0時現在の第1報から数字の報告が上がっている。
静岡市葵区だけを見てもこれだけ深刻な被害が出ているのになぜ、実態把握が遅れたのか、今後の検証課題の一つだ。
公助なき、自助、共助で、住民の皆さんは今日まで暮らしの再建に汗をかいてきた。復旧、復興するためにはまだまだ多くの課題を抱える住民がいる。速やかに、きめ細やかに、そうした声が行政に届くことを願ってやまない。
住民の皆さんの声は映像にまとめてある。ぜひ多くの人に届けたい。