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ヤクルト大引「宣言どおり」の10年越し奉納試合連続HR!「10年後は3発目を狙います」

菊田康彦フリーランスライター

「宣言どおりだったでしょ?」

試合後のグラウンドから引き上げる途中、東京ヤクルトスワローズの大引啓次(32歳)はそう言って笑顔を見せた。

11月5日に神宮球場で開催された明治神宮外苑創建90年記念奉納試合
11月5日に神宮球場で開催された明治神宮外苑創建90年記念奉納試合

11月5日に神宮球場で開催された明治神宮外苑創建90年記念奉納試合。ヤクルトが12対1で東京六大学選抜に大勝したこの試合で、大引は4回に試合を決定づける3ラン本塁打を放った。それは彼以外、何人たりとも成しえない偉業となった。

「明治神宮外苑創建××年記念」と銘打って、プロとアマの対戦による奉納試合が行われるのは、これで2度目。前回──2006年に開催された明治神宮外苑創建80年記念奉納試合に、法政大の4年生だった大引は一番・遊撃で出場し、1回裏にヤクルトの先発・藤井秀悟(現巨人打撃投手)から先頭打者本塁打を打っていた。

あれから10年。大学生・社会人ドラフト3巡目でオリックス・バファローズに入団した大引は、北海道日本ハムファイターズを経て、2014年オフにフリーエージェントでヤクルトへ移籍。奇しくも10年の時を隔てた2度の奉納試合に、異なるユニフォームで出場することとなった。

前回、六大学選抜で出場した選手で、現在ヤクルトのユニフォームを着ているのは大引だけ。今回のヤクルトのベンチ入り選手を見ても、前回もベンチ入りしていたのは雄平と川端慎吾だけである(いずれも前回は出場なし)。ただ1人両方の試合に、しかも違うユニフォームで出場するということだけでも価値がある。

だが、大引はさらにある「宣言」をしていた。ちょうど10日ほど前のことだ。

「個人的には(奉納試合を)すごい楽しみにしてるんですよ。どっちも出るのって僕だけじゃないですか? せっかくなんでホームラン狙いますよ。もう、上向いてバットを振ります(笑)」

3対2でヤクルトが競り勝った10年前の試合でホームランを打ったのは、両軍を通じて大引しかいない。つまり、10年の時を経て2試合連続でアーチをかけるのは、大引だけに与えられた権利である。それを実行すると宣言したのだ。

そして、それは現実となった。ヤクルトが3点を先制した4回表、なおも1死一、二塁の場面で打席には七番・遊撃で出場していた大引。マウンドには、先月のドラフトでオリックスに8位指名された六大学選抜の3番手・澤田圭佑(立教大)。

「真っすぐでしょ。初球のカーブをファウルにして、次は内に突っ込んでくるんじゃないかと思ったんですけど、読み通りというか内寄りのボールが真ん中に入ったんじゃないですかね」(大引)

澤田がカウント0-1から投じたその球を振り抜くと、打球はレフトスタンドへ。夢のような10年越しの「2試合連続」ホームランとなった。

これで6対0とリードを広げたヤクルトは、その後も得点を重ねて12対1と大勝。真中満監督以下、コーチ、選手も「プロとして負けるわけにはいかない」との決意で臨んだ一戦に大勝すると、その試合後、大引は新たな「宣言」を口にした。

「次回は100周年でまた開催されると思うんで、僕自身また出場したいっていう気持ちが芽生えました。それにはあと10年、42歳を迎える年になりますけど、そこまで現役でいられるようにっていう1つのモチベーションにもなりますね。もし、まだ現役でヤクルトのユニフォームに袖を通していて、こういう機会があれば、直訴してでも試合に使ってもらって、3発目を狙いたいと思います」

そうなれば「ミスター奉納試合」どころか、まさに「レジェンド」。10年後の2026年に開催されるであろう「明治神宮外苑創建100年記念奉納試合」が、早くも楽しみになってきた。

フリーランスライター

静岡県出身。小学4年生の時にTVで観たヤクルト対巨人戦がきっかけで、ほとんど興味のなかった野球にハマり、翌年秋にワールドシリーズをTV観戦したのを機にメジャーリーグの虜に。大学卒業後、地方公務員、英会話講師などを経てフリーライターに転身した。07年からスポーツナビに不定期でMLBなどのコラムを寄稿。04~08年は『スカパーMLBライブ』、16~17年は『スポナビライブMLB』に出演した。著書に『燕軍戦記 スワローズ、14年ぶり優勝への軌跡』(カンゼン)。編集協力に『石川雅規のピッチングバイブル』(ベースボール・マガジン社)、『東京ヤクルトスワローズ語録集 燕之書』(セブン&アイ出版)。

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