野球殿堂入りの名将ゆかりの地での首位決戦は高知FDが制す【四国アイランドリーグplus】
日本の独立リーグのパイオニア、四国アイランドリーグplusは、今年19年目のシーズンを迎えている。NPBへの人材送出、地域密着型の「ふるさとプロ野球」という後続リーグにも受け継がれる2つの柱を理念とし、創設以来、毎年ドラフト指名選手を輩出し続け、人口減に悩まされる四国という地で、野球の灯をともし続けている。
このアイランドリーグの中で最近注目を集めているのが、徳島インディゴソックスだ。リーグ発足以来しばらくは低迷を続け、経営的にも不振が続いていたが、2011年に初優勝を飾ると、以来6度のリーグ優勝、3度の独立リーグ日本一を成し遂げている。また、2013年以降は毎年NPBへ選手を送り出しており、そのため好選手が門を叩くようになり、正の循環が起こっている。
今シーズンも、2位に2.5ゲーム差をつけ、34試合制の前期シーズンを制し、昨年後期シーズンからの連覇を達成している。
そのインディゴソックスが、昨日、高知ファイティングドッグスを迎えてフランチャイズである徳島県の南端、海陽町の蛇王(ざおう)運動公園野球場で後期4試合目となる公式戦を行った。
インディゴソックスは2013年以来春のキャンプをここで実施しており、同年より公式戦も継続的に実施している。
2003年に野球殿堂入りした阪急ブレーブス黄金時代の名将・上田利治氏(故人・旧宍喰町出身)の他、のちにプロゴルファーとして名を馳せた尾崎将司(元西鉄)、現役ではソフトバンクのベテラン右腕・森唯斗らを輩出した「野球処」の海陽町だが、最盛期から人口を半減させている県内有数の過疎地でもある。1993年に国体軟式野球の会場として建設された球場も決して「プロ向き」ではないものの、この辺境地だからこそ「プロ」のプレーを野球ファンに見せたいという思いでここで公式戦を開催している。
入場料は無料。独立リーグがよく行う、自治体による「買い興行」ではなく、地元から小口のスポンサーを募っての地元還元というかたちで実施している。チームの拠点のある県都・徳島から2時間と諸経費を考えると興行的には大きなメリットはないが、地域に根ざしたプロ野球という独立リーグの精神のもと、169人のファンの前で全力プレーを披露した。
後期開幕以降もインディゴソックスは好調を維持し、2勝1敗でここまで首位。対する前期は3位に終わったファイティングドッグスは5試合で2勝2敗1分けで、この日の試合の結果いかんでは首位も狙える位置にいる。
インディゴソックス・斎藤佳紳(天理大)、ファイティングドッグス・加藤翔汰(高野山高)の先発で始まった試合は、初回いきなりファイティングドッグス打線が火を吹く。先頭打者がショートのエラーで出塁すると、2、3番が連続ヒット。さらにゲッツーを焦ったショートのこのイニング2つ目のエラーに四球と打席でアウトになったのは2アウトからショートゴロに倒れた6番だけというこの回の攻撃で入った得点はたったの1点。盗塁死や捕手からの牽制アウトなど拙攻が目立った。
それでもファイティングドッグスは、その後も着実に得点を追加し、終始試合を支配。終盤にリリーフが得点を許したが、6対3でインディゴソックスを降し、首位に立った。
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この試合でもっともファンを湧かせたのは、来日10年目を迎えるアフリカ・ブルキナファソ出身のサンフォ・ラシィナだった。3年前には打点王にもなったスラッガーは、前日に今年初ホーマーを放ったばかり。この日は4回につまりながらも、逆方向のライトへの2号を放つと、8回にも同じようにライト芝生席に3号を放り込んだ。
試合後、勝った側のファイティングドッグス、吉田豊彦監督(元南海・ダイエーなど)は、序盤の走塁について「積極的にいっての憤死は問題なし」とし、ラシィナの2発は「日頃の練習に裏打ちされた技術でもっていった」と称賛した。
終盤のインディゴソックスの追い上げもあり、スタンドはわいた。試合後、徳島からきたのだろうか、ひとりの老人が次戦のスケジュールをさかんにスタッフに訪ねていた。県境を超えての遠出のしにくいシニア層にとって、地域密着型の小規模プロ野球の存在はありがたいものであろう。「田舎町の小さなプロ野球」の存在意義を感じた試合だった。
(写真は筆者撮影)