若者の高い離職率で問われている経営者の「知性」
■いまさらの若者の高い離職率
就職した若者の3割が3年以内に離職している。それを聞かされて、いまさら驚く人のほうが少ないにちがいない。
厚生労働省は10月31日、初めて、業種別に入社から3年以内に離職した人の割合を公表した。新聞各紙は、「教育や飲食・宿泊業で大卒若者の5割が入社3年以内に離職」と報じている。大卒全体でいえば、3割近くが入社3年以内で辞めているという。しかし、その扱いは各紙とも小さい。いまさら騒ぎたてるほどの話題性はもたない、との判断があるからかもしれない。
とはいえ、この公表結果は、どう受け取られるのだろうか。教育や飲食・宿泊業という業種から、「時間が不規則だから辛いんだろう」とおもう人もいるだろう。「こうした業界は賃金が低いのかな」と受け取る人もいるにちがいない。
懸念するのは、この数字だけをみて、「最近の若者は辛抱がたりない」という見方がいっそう強まることである。まったくの見当ちがいではないのだろうが、大事なことを見過ごしてしまうことにつながりかねない。
■問われる経営者の知性
大学の授業そっちのけで就活(就職活動)に走りまわり、ようやくに就職できた会社を、なぜ若者は簡単に辞めてしまうのだろうか。「辛抱が足りないから」という答で片付けるのが、いちばん簡単なのかもしれない。
しかし、それだけの問題ではないはずだ。自分の個性と選んだ会社が合わないことに気づいてしまう、ミスマッチングを指摘する声も多い。それは職業というものを真剣に考える機会を与えない教育制度の問題だ、と指摘する声もある。それは、確かにあるとおもう。日本の教育制度の大欠陥だともおもっている。
それと同じくらい大きな問題がある。それは、会社側の問題だ。若者が早期に会社を辞めていくのは、会社側にも大きな問題があるのだ。
労働時間や賃金も、その問題のなかの一つでしかない。それをひっくるめた「環境づくり」を会社が怠っていることが、大きな原因だと考える。
CSR(企業の社会的責任)活動のために社員にサービス残業を強いる経営者の姿勢を批判して、ある人は「経営者の知性の問題」だと指摘していた。経営者に「知性」が欠けているから、CSRのためといいながら、平気で社員に不当な犠牲を強いる、というわけだ。CSR活動に熱心だと会社の表面はつくろえても、社員に対する責任をはたしていない。それどころか、社員の人間性を無視している。知性が欠けている、といわれても当然だ。
同じようなことを平気でやっている経営者が、実に多い。CSR活動どころか、会社としての業績を上げるためには社員にサービス残業をはじめとする犠牲を強いて平然としている、そんな経営者がなんと多いことか。
社員が仕事に喜びをみいだす「環境」づくりに配慮している経営者が、はたして、どれくらいいるのだろうか。そんなことより業績優先、数字だけしかみていない経営者が多すぎる。そんな経営者にとって、社員は数字を上げるための「道具」でしかない。
「それがビジネスだ」という反論を投げつけられるかもしれない。確かに、それはビジネスの一面ではある。しかし、すべてではない。
ますます「数字」と「効率」が、会社にとっての金科玉条のごとく守るべきものになりつつある。そのために、社員は「道具」にされていく。道具にされるのを辛抱しろ、と若者に言うのは酷だろう。「道具」ではない、「人」だからだ。だから、若者は辞めていく。
人を道具でなく人として扱う経営者としての知性があれば、若者が早期に会社を辞めるという現象にも変化があらわれるにちがいない。