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アトピー性皮膚炎が子どもの認知機能に及ぼす影響 - 最新の研究結果を紹介

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:アフロ)

【アトピー性皮膚炎とは?症状とメカニズムを理解しよう】

アトピー性皮膚炎は、乳幼児期から発症することが多い慢性の炎症性皮膚疾患です。日本では人口の10~15%が罹患していると言われています。主な症状は、激しいかゆみと皮膚の乾燥、発赤などです。かゆみのため夜間に皮膚を掻きむしってしまい、睡眠が妨げられることがよくあります。

アトピー性皮膚炎の発症メカニズムは複雑で、遺伝的要因や環境要因、免疫機能の異常などが複雑に絡み合っています。皮膚のバリア機能の低下により、アレルゲンなどの刺激に皮膚が過剰に反応し、炎症が起こるのです。また、皮膚の常在菌叢のバランスが崩れ、黄色ブドウ球菌などの悪玉菌が増えることも炎症を悪化させる要因の一つと考えられています。

【アトピー性皮膚炎が子どもの心身に及ぼす影響とは】

アトピー性皮膚炎の子どもは、夜間のかゆみによる睡眠障害に悩まされることが少なくありません。睡眠不足は日中の活動にも影響を及ぼし、イライラや集中力の低下を引き起こします。学校生活にも支障をきたし、勉強や友人関係にも悪影響を与えかねません。

また、外見への自信の喪失や、他人の視線を気にするあまり、人付き合いを避けるようになることもあります。こうした心理的ストレスから、不安感やうつ状態に陥る子どももいます。実際、アトピー性皮膚炎の子どもは、そうでない子どもに比べて、情緒障害や行動障害のリスクが高いことが報告されています。

【アトピー性皮膚炎が引き起こす炎症と脳機能の関係】

近年、アトピー性皮膚炎による慢性的な炎症が、脳の機能にも影響を及ぼす可能性が指摘されています。炎症性サイトカインというタンパク質が血液を介して脳に運ばれ、前頭前野の働きを弱めることで、注意力の低下や衝動性の亢進を引き起こすのではないかと考えられているのです。

また、アトピー性皮膮炎では、睡眠に関わるメラトニンの分泌リズムが乱れていることも分かっています。メラトニンは暗くなると分泌が増える睡眠ホルモンで、生体リズムを整える働きがあります。メラトニンの分泌異常が、睡眠障害や日中の眠気、集中力低下の原因となっている可能性が示唆されています。

アトピー性皮膚炎は、単なる皮膚の病気ではなく、子どもの心身の発達に大きな影響を及ぼす全身性の疾患と言えるでしょう。症状をコントロールし、生活の質を高めるためには、皮膚科医だけでなく、小児科医や心療内科医など、多方面の専門家が連携して治療に当たることが重要です。

参考文献:

- Yaghmaie P, et al. Mental Health Comorbidity in Atopic Dermatitis. J Allergy Clin Immunol. 2013; 131(2): 428–433.

- Chang YS, et al. Sleep disorders and atopic dermatitis: A 2-way street? J Allergy Clin Immunol. 2018;142(4):1033-1040.

- Int J Mol Sci. 2024 Apr 27;25(9):4778. doi: 10.3390/ijms25094778.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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