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食物アレルギーの原因は皮膚から?新たな仮説「二重抗原曝露説」とは

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(提供:イメージマート)

【食物アレルギーの謎 - アレルゲン除去の失敗】

食物アレルギーは、特定の食品タンパク質に対する免疫反応によって引き起こされる疾患です。しかし、妊娠中や授乳中、乳児期の母子のアレルゲン除去は、長期的には食物アレルギーの発症リスクを下げないことが分かってきました。

なぜアレルゲン除去が効果的でないのでしょうか。考えられる説明は以下の4つです。

1. アレルゲン曝露は食物アレルギーの発症に無関係

2. アレルゲン除去が不十分で、食事制限が厳格でない

3. 食物の摂取以外の経路でアレルゲンに感作される

4. アレルゲン除去の考え方自体が間違っており、早期の経口摂取がアレルギー予防に必要

1つ目の説明は除外できます。食物アレルギーは抗原特異的な免疫疾患であり、抗原曝露が免疫応答に必須だからです。

2つ目の説明は可能性がありますが、たとえ完全なアレルゲン除去ができたとしても、食物アレルギーを予防できるかは疑問です。

【二重抗原曝露仮説 - 皮膚と腸管の役割】

そこで注目されているのが、3つ目と4つ目の説明を組み合わせた「二重抗原曝露仮説」です。この仮説では、皮膚からの低用量アレルゲン曝露が感作を引き起こし、早期の経口摂取が免疫寛容を誘導すると考えます。

つまり、皮膚バリアの低下したアトピー性皮膚炎の乳児が、微量の食物アレルゲンに皮膚から曝露されると、Th2型の免疫応答とIgE産生が起こります。一方、早期に十分量の食物タンパク質を経口摂取すると、腸管関連リンパ組織でTh1型や制御性T細胞の応答が誘導され、免疫寛容が成立するのです。

二重抗原曝露仮説は、アトピー性皮膚炎と食物アレルギーの密接な関係を説明できる点で優れていると考えられます。皮膚バリアの恒常性維持が、アレルギー予防に重要な可能性があります。

【早期介入の可能性 - アレルギーマーチの予防】

二重抗原曝露仮説に基づけば、早期のアトピー性皮膚炎の集中的な治療で皮膚炎症を抑え、皮膚バリア機能を改善することが、食物アレルギーの感作予防につながるかもしれません。

また、生後6ヶ月までにアレルギー性の高い食品を積極的に与えることで、経口免疫寛容を誘導できる可能性もあります。実際、最近の研究で、生後6ヶ月以降に穀物の摂取を開始した児は、IgE依存性の食物アレルギーのリスクが高いことが示されています。

食物アレルギーの発症には、アレルゲンへの曝露だけでなく、腸内細菌叢や感染症、ビタミンDなどの非特異的な免疫調節因子も関与している可能性が指摘されています。アレルギーマーチの予防には、皮膚と腸管の両面からのアプローチが重要と考えられます。

参考文献:

Lack G. Epidemiologic risks for food allergy. J Allergy Clin Immunol. 2008 Jun;121(6):1331-6. doi: 10.1016/j.jaci.2008.04.032. PMID: 18539191.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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