Yahoo!ニュース

子どものアトピー性皮膚炎が家族に与える影響 - 日本における最新の研究結果

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:アフロ)

【子どものアトピー性皮膚炎が患者と家族に与える影響】

アトピー性皮膚炎は、子どもの生活の質に大きな影響を与えるだけでなく、その家族にも重大な負担をもたらします。今回、私たち研究グループ(イーライリリー株式会社との共同研究)は、日本の小児および青年期のアトピー性皮膚炎患者とその介護者/家族における病気の負担レベルを評価し、その負担が患者の年齢によって異なるかどうかを調査しました。

研究の結果、年齢が上がるにつれて、精神的・心理的・社会的な負担がより大きくなる傾向にあることがわかりました。Children's Dermatology Life Quality Index (CDLQI) を用いた評価では、年齢が1歳上がるごとにスコアが0.543ポイント上昇することが示されました。

また、アトピー性皮膚炎の子どもを持つ家族は、睡眠障害や日常活動の制限、仕事への影響、気分の落ち込みなど、様々な面で負担を感じていました。Dermatitis Family Impact questionnaire (DFI) を用いた評価では、年齢が1歳上がるごとにスコアが0.325ポイント上昇することが明らかになりました。特に15~17歳の子どもの家族では、仕事への影響が「とても大きい」または「非常に大きい」と報告した割合が43.3%にのぼりました。

子どものアトピー性皮膚炎は、本人だけでなく家族全体の生活の質を大きく低下させる可能性があります。患者の年齢に応じて、適切な治療介入を早期から行うことで、子どもと家族の負担を軽減することが重要だと考えられます。

【子どものアトピー性皮膚炎の重症度と年齢による違い】

子どものアトピー性皮膚炎の重症度は、年齢によって異なる傾向があります。今回の研究では、医師による評価で重症度が高いほど、子どもの生活の質や家族の負担に与える影響が大きいことが明らかになりました。

また、年齢が上がるほど、アトピー性皮膚炎がより重症化する傾向が見られました。15~17歳の子どもでは、医師による評価で重症と診断された割合が41.3%と最も高く、一方で0~1歳では25%でした。年齢とともに、ストレスによって症状が引き起こされる割合も増加していました。

Patient-Oriented Eczema Measure (POEM) を用いた評価でも、年齢が上がるにつれてスコアが上昇する傾向が見られ、12歳以上の年齢層で特に高いスコアが報告されました。

これらの結果から、年齢とともにアトピー性皮膚炎の重症度が増す傾向があり、それに伴って患者と家族の負担も大きくなることが示唆されました。重症度と年齢を考慮した適切な治療介入が必要と考えられます。

【子どものアトピー性皮膚炎の治療と薬剤の使用状況】

子どものアトピー性皮膚炎の治療では、ステロイド外用薬が第一選択薬として広く使用されています。今回の調査では、89.1%の患者がステロイド外用薬を使用しており、そのうち35.1%が低力価、48.5%が中力価、52.8%が高力価、13.5%が超高力価のステロイド外用薬を処方されていました。

また、非ステロイド系の外用薬としては、タクロリムス軟膏が32.2%の患者に処方されていました。デルゴシチニブ軟膏は24.2%の患者に処方されており、0~1歳を除くすべての年齢層で同程度の割合で使用されていました。

全身性の治療薬としては、デュピルマブ(12.3%)、ウパダシチニブ(6.2%)、アブロシチニブ(1.4%)が使用されていましたが、これらは主に12~17歳の年齢層に処方されていました。デュピルマブは6ヶ月以上の患者に使用が認められているものの、他の全身性治療薬は12歳未満では適応がないため、この年齢層の患者の治療選択肢は限られています。

アトピー性皮膚炎の治療は年齢によって選択肢が異なるため、医師と相談しながら、子どもの状態に合わせた適切な治療法を選ぶことが大切です。また、外用薬を使用する際は、副作用に注意し、医師の指示に従って正しく使用することが重要です。

以上、私たちの研究グループが行った、日本におけるアトピー性皮膚炎が子どもと家族に与える影響と治療の現状についての調査結果を報告しました。アトピー性皮膚炎は、子どもの生活の質と家族の負担に大きな影響を与える疾患ですが、患者の年齢と重症度を考慮した適切な治療介入により、その影響を軽減することができると考えられます。

参考文献:

Otsuka A, Wang C, Torisu-Itakura H, Matsuo T, Isaka Y, Anderson P, Piercy J, Austin J, Marwaha S, Tanaka A. Patient and family burden in pediatric atopic dermatitis and its treatment pattern in Japan. Int J Dermatol. 2024. doi: 10.1111/ijd.17256.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

大塚篤司の最近の記事