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小児アトピー性皮膚炎と腎機能:シクロスポリンとメトトレキサートの安全性比較

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(提供:イメージマート)

【小児アトピー性皮膚炎治療の新たな展開】

アトピー性皮膚炎は、多くの子どもたちを悩ませる皮膚疾患です。重症の場合、日常生活に大きな支障をきたすこともあり、効果的な治療法が求められています。近年、シクロスポリンとメトトレキサートという2つの薬剤が注目を集めていますが、これらの薬が子どもの腎臓にどのような影響を与えるのか、気になるところです。

イギリスを中心に行われたTREAT(TREatment of severe Atopic eczema)試験では、この2つの薬剤の効果と安全性が比較されました。特に、腎機能への影響に焦点を当てた研究結果が報告されています。

【腎機能への影響:予想外の結果】

シクロスポリンは腎毒性があるとされてきましたが、メトトレキサートは低用量では腎臓に影響を与えないと考えられていました。しかし、TREAT試験の結果は、私たちの予想を覆すものでした。

36週間の治療期間中、シクロスポリンを使用した子どもたちの腎機能は、メトトレキサートを使用した子どもたちと比べて、特に悪化することはありませんでした。両方の薬剤とも、腎機能に関する指標は正常範囲内で安定していたのです。

これは、小児アトピー性皮膚炎の治療において、シクロスポリンの使用をためらう必要がないかもしれないという、重要な発見です。

【治療効果と長期的な展望】

治療効果に関しては、シクロスポリンが12週間の時点で症状をより改善させましたが、48週間と60週間の時点では、メトトレキサートの方が優れた効果を示しました。

特筆すべきは、メトトレキサートが治療終了後も長期的に効果を維持したことです。これは、薬の中止後も症状のコントロールが続くことを意味し、患者さんにとって大きなメリットとなります。

この結果は、小児アトピー性皮膚炎の治療戦略に大きな影響を与える可能性があります。短期的な効果を求めるならシクロスポリン、長期的な効果を期待するならメトトレキサートという選択肢が提示されたと言えるでしょう。ただし、日本ではメトトレキサートはアトピー性皮膚炎に保険適用となっていません。

【安全性と患者さんへの配慮】

研究チームは、腎機能のモニタリングについても重要な提言をしています。従来は頻繁に血液検査を行っていましたが、この研究結果から、安定した治療レジメンでは6ヶ月ごとの検査で十分である可能性が示唆されました。

これは子どもたちにとって朗報です。頻繁な採血は子どもたちの大きなストレスとなり、治療を躊躇する原因にもなっていました。検査回数を減らすことで、治療の継続性が高まることが期待されます。

また、治療中は適切な水分補給が重要です。一時的な腎機能の低下が見られた場合でも、水分をしっかり取ることで改善することが分かりました。

日本の状況と比較すると、アトピー性皮膚炎の治療方針は国際的にも共通点が多いですが、薬剤の使用基準や保険適用の範囲に違いがあります。日本でも、この研究結果を参考に、より効果的で患者さんに優しい治療法の開発が進むことが期待されます。

アトピー性皮膚炎は、適切な治療と日常のケアで症状をコントロールできる病気です。この研究結果は、より安全で効果的な治療法の選択肢を増やし、多くの子どもたちとその家族に希望をもたらすものと言えるでしょう。

最後に、アトピー性皮膚炎でお悩みの方は、一人で抱え込まず、専門医に相談することをおすすめします。個々の症状や生活環境に合わせた最適な治療法を見つけることが、QOL(生活の質)の向上につながります。

参考文献:

1. Flohr C, et al. Efficacy and safety of ciclosporin versus methotrexate in the treatment of severe atopic dermatitis in children and young people (TREAT): a multicentre, parallel group, assessor-blinded clinical trial. British Journal of Dermatology. 2023 Sep 19;ljad281.

2. Bruce G, et al. The effects of ciclosporin and methotrexate on kidney function in the treatment of severe atopic dermatitis in children – results from the TREAT trial. British Journal of Dermatology. 2024.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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