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オミクロン変異ウイルスに新型コロナ治療薬は効くのか 既存の承認薬は使用できるか?

倉原優呼吸器内科医
photoACより使用

オミクロン変異ウイルスに対する治療薬

オミクロン変異ウイルスに対する新型コロナワクチンの有効性が現在議論されていますが、これまで新型コロナに使用されていた治療法は果たして大丈夫でしょうか?

2021年12月9日現在承認されている新型コロナ治療薬は、ウイルスの侵入を防ぐ抗体カクテル療法カシリビマブ/イムデビマブ(商品名:ロナプリーブ)ソトロビマブ(商品名:ゼビュディ)、ウイルスが増えるのを抑えるレムデシビル(商品名:ベクルリー)、ウイルスによる炎症を抑えるデキサメタゾン、バリシチニブ(商品名:オルミエント)の5つです()。現在、メルク社のモルヌピラビルが承認申請中です。ファイザー社のパクスロビドについては、国内での承認はもう少し先のようです。

図. 2021年12月9日時点での新型コロナ治療薬のまとめ(筆者作成)
図. 2021年12月9日時点での新型コロナ治療薬のまとめ(筆者作成)

新型コロナの治療薬には、ウイルスの侵入を防ぐ薬、ウイルスが増えるのを抑える薬、ウイルスによる炎症を抑える薬の3種類があります(表1)。オミクロン変異ウイルスに対する有効性が問題となるのは、抗体カクテル療法カシリビマブ/イムデビマブやソトロビマブといったウイルスの侵入を防ぐ薬です。この理由は、ウイルスの侵入時に必要なスパイクタンパクが変異するからです。新型コロナワクチンもこの侵入門戸に作用するものなので、オミクロン変異ウイルスに対して有効かどうか現在も議論が続いています。

表1. 新型コロナ治療薬のメカニズム(筆者作成)
表1. 新型コロナ治療薬のメカニズム(筆者作成)

オミクロン変異ウイルスでは抗体療法の有効性が低下する?

無症候性の濃厚接触者に対して、発症予防目的で抗体カクテル療法カシリビマブ/イムデビマブを使用することが可能ですが、オミクロン変異ウイルスに対して有効性が低下する可能性があると開発元が発表しています(1)。オミクロン変異ウイルスの場合、抗体カクテル療法が認識する部位の近くに多くの変異が存在するためです。

一方、2つ目の抗体療法として承認されたソトロビマブについては、新型コロナウイルスのスパイクタンパクの基礎的な部分に作用するため、新たな変異ウイルスがあらわれても効果が変わらないことが期待されていました(2)。実際、オミクロン変異ウイルスの疑似ウイルスを使った実験において有効性が示されたと発表しています(3, 4)。

抗体カクテル療法カシリビマブ/イムデビマブは発症予防目的で使用可能であるため重宝していますが、今後オミクロン変異ウイルスが流行した場合、抗体療法はソトロビマブ一択となってしまう可能性があります。

経口抗ウイルス薬は引き続き有効

ウイルスが増えるのを抑える薬として現在承認されているのは、レムデシビルです。侵入してきたウイルスが複製されないようにする薬剤であり、スパイクタンパクとは関係ないことから、変異ウイルスで効果が落ちるということはなさそうです(5)。

モルヌピラビル
モルヌピラビル提供:Merck & Co Inc/ロイター/アフロ

レムデシビルは点滴製剤ですが、現在期待されているのは軽症者に対する経口抗ウイルス薬です。高い有効性が報告されているパクスロビドや、現在承認申請中のモルヌピラビルについても、作用機序を考慮すると効果が落ちるということはなさそうです。パクスロビドを開発したファイザー社のCEOは「プロテアーゼというところに変異を起こすことは難しいため、オミクロン変異ウイルスに対しても有効という自信がある」と述べています(6)。

炎症を抑える薬剤に影響はなし

増えたウイルスによって体に強い炎症が起こってしまったとき、「消火器」のような役割を持つ全身性ステロイド(デキサメタゾンなど)や免疫を抑える薬剤(バリシチニブなど)を用いることがあります。これについても、これまでの新型コロナと同様、有効性に影響はないと考えられます。

パンデミック初期の従来株と比べるとデルタ株などの変異ウイルスは重症例が多かったため、総じてこのタイプの薬剤が効きにくい印象はありましたが、「スパイクタンパクに変異があるから効きにくい」というロジックではありません。

まとめ

以上のことから、現時点で明確にオミクロン変異ウイルスの影響を受ける治療薬は、抗体カクテル療法カシリビマブ/イムデビマブと考えられます(表2)。現在開発元などが正確な有効性について調査中です。

表2. オミクロン変異ウイルスに対する治療薬の影響(筆者作成)
表2. オミクロン変異ウイルスに対する治療薬の影響(筆者作成)

オミクロン変異ウイルスばかり報道されていますが、国際的にはまだデルタ変異ウイルスの流行が主流です。今後オミクロンがデルタに取って代わるのかどうか、注視が必要です。

(参考)

(1) Regeneron. Regeneron evaluating REGEN-COV and next generation antibodies against new omicron covid-19 variant. 30 Nov 2021. (URL:https://investor.regeneron.com/static-files/969bdb0b-53f5-46c7-94fb-7473ee7f5be3

(2) 新型コロナの新しい承認薬「ソトロビマブ」とは 新型コロナ治療薬まとめ(追記あり)(URL:https://news.yahoo.co.jp/byline/kuraharayu/20210928-00258448

(3) Preclinical studies demonstrate sotrovimab retains activity against the full combination of mutations in the spike protein of the Omicron SARS-CoV-2 variant.(URL:https://www.gsk.com/en-gb/media/press-releases/sotrovimab-retains-activity/

(4) Cathcart AL, et al. The dual function monoclonal antibodies VIR-7831 and VIR-7832 demonstrate potent in vitro and in vivo activity against SARS-CoV-2. bioRxiv preprint doi: https://doi.org/10.1101/2021.03.09.434607.(URL:https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2021.03.09.434607v9

(5) Gilead Statement on Veklury (Remdesivir) and the SARS-CoV-2 Omicron Variant.(URL:https://www.gilead.com/news-and-press/company-statements/gilead-statement-on-veklury-remdesivir-and-the-sars-cov-2-omicron-variant

(6) Pfizer CEO says omicron appears milder but spreads faster and could lead to more Covid mutations.(URL:https://www.cnbc.com/2021/12/07/pfizer-ceo-says-omicron-appears-milder-but-spreads-faster-and-could-lead-to-more-mutations.html

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医・代議員、日本感染症学会感染症専門医・指導医・評議員、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医・代議員、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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