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アメリカの学校運動部にも「女子マネ」はいるのか。

谷口輝世子スポーツライター
(写真:アフロ)

全国高校野球選手権大会や全国高等学校総合体育大会が開催されると、試合の内容や結果とともに、運動部を支えるマネジャーの仕事ぶりも報道されることがある。高校野球ではマネジャーの多くが女子生徒であることから「女子マネ」と呼ばれている。

日本と同様に学校で運動部活動を行うアメリカにも、「女子マネ」はいるのか。

米国でも女子生徒がマネジャーになっている高校や大学の運動部はある。日本と同様に、男子選手のチームを支えている女子のマネジャーというトーンの報道もいくつか見かけた。高校運動部のマネジャーの仕事内容は主に、選手の水分補給補助、用具管理補助、スコアつけなどで、これも日本と大差はないと言えるのではないか。

ただし、彼女らは「女子マネ」ではなく、「スチューデント・マネジャー」と呼ばれている。学校によってはスチューデント・マネジャーの多くが女子生徒のところもあるし、男子生徒がマネジャーをしている運動部も少なくない。男子、女子生徒混合でひとつの運動部のスチューデント・マネジャーを務めているところもある。

米国では1970年代にタイトル・ナインという連邦法が可決された。連邦政府の財政支援を受けている教育機関で、性別によって何かをする機会に差をつけることを禁じるものだ。かつては米国学校の運動部活動では男子生徒が中心であったが、タイトル・ナインによって女子生徒にも男子生徒と同じように活動の機会が与えられるようになってきた。

仮に、米国内で性別を理由に野球部への女子の入部を認めず、「女子マネジャー募集」として性別を明示してマネジャーを募集したとなれば、この連邦法に違反することになるだろう。しかし、ある女子生徒が野球部のトライアウトに参加し、能力の差によって入部できなかったと仮定する。野球部では男女問わずマネジャーを募集していたので、その女子はマネジャーになったというのであれば違法とはみなされないはずだ。

大学アメリカンフットボールの事例

大学スポーツの花形であるアメリカンフットボール部のマネジャーは少し事情が異なる。筆者はノートルダム大学アメリカンフットボール部でスチューデント・マネジャーを務めた女性と、ミシガン州立大アメリカンフットボール部の現役のスチューデント・マネジャーである女子学生を取材する機会を得た。

両校とも強豪校であり、スチューデント・マネジャーになるにもトライアウトがある。春季の練習期間中にスチューデント・マネジャーを希望する学生は練習に参加する。そこでの仕事ぶりを上級生のスチューデントマネジャーや、学校職員であるアメリカンフットボールの用具部長が評価し、事前に決めておいた人数だけをスチューデント・マネジャーとして入部させる仕組みだ。

マネジャーの仕事内容が練習補助や重い用具の持ち運びに偏っていると、女子生徒は男子生徒より一般的には不利といえるだろう。昨シーズン、ミシガン州立大には10人以上いるスチューデント・マネジャーのうち女子のマネジャーは1人だけであった。

ノートルダム大のアメリカンフットボール部でスチューデント・マネジャーを務めた女性は、現在はメジャーリーグ、タイガースの広報担当になっている。同大学でもスチューデント・マネジャーは女子学生よりも男子学生のほうが多かったそうだ。

こういったトライアウトを勝ち抜いてスチューデント・マネジャーになり、さらにそのまとめ役に選出された学生に対しては奨学金を出す大学もある。

ミシガン州立大野球部では30年以上前に女子学生がマネジャーを務めたことがある。女子学生をマネジャーとして抜擢した同州立大野球部監督の回想録には、「この大学の野球部では初めての女子マネジャーであったのではないか」と書かれており(参考文献1)大学のスチューデント・マネジャーというポジションは当時の女子学生にとって狭き門だったことがうかがえる。

高校運動部創生期、マネジャーが力とお金を持ちすぎた?

話を米国の高校運動部に戻す。米国の高校の運動部は1800年代末ごろに、生徒の自主的な活動として始まった。生徒だけでチームを作り、練習をし、対戦相手を探し、試合日程も組んでいた。キャプテンとマネジャーというポジションを作り、キャプテンを中心とした練習、マネジャーを中心としたチーム運営をしていた。恐らくマネジャーも選手と同じ性で、男子生徒であったと思われる。

マネジャーを務める生徒がお金も管理していたため、お金のトラブルが発生することがたびたびあったようだ。自主的な活動だった運動部でキャプテンと、お金を預かるマネジャーの力が大きくなりすぎることで、他生徒を排除する動きなど、学校側が看過できない状態になっていったという。1900年代に入ると、生徒の自主的な活動に学校が介入するようになった。学校介入の一因には、力を持ちすぎたスチューデント・マネジャーによるトラブルを防ぐ目的もあったようだ。(参考文献2) 

参考文献1 DANNY LITWHILER Living the Baseball Dream (Danny Litwhiler with JIM SARGENT,Temple University Press)

参考文献2 The Rise of American High School Sports and the Search for Control(Robert Pruter,Syracuse University Press)

スポーツライター

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情をお伝えします。著書『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのかーー米国発スポーツペアレンティングのすすめ 』(生活書院)『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店) 連絡先kiyokotaniguchiアットマークhotmail.com

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