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夏の移籍でJ2からJ1に”個人昇格”を果たした7人の可能性を探る

河治良幸スポーツジャーナリスト
(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

Jリーグはシーズン後半戦にさしかかり、移籍選手などの第二登録期間もスタートしています。すでに多くの移籍がリリースされていますが、J2からJ1に”個人昇格”するケースが目だちます。

それだけJ2に良いタレントがいるという証でもありますが、7人の特長とJ1での可能性をまとめました。なお育成型期限付き移籍からの復帰は割愛しています。

渡邉りょう(セレッソ大阪 ← 藤枝MY FC)

J2の日本人選手では最多の13得点を記録しており、今夏の移籍組でも最大の注目株と言える。昨シーズンの途中で沼津から藤枝に加入し、前線での精力的なプレーでJ2昇格に貢献したが、特別ゴールを量産していたわけではない。

今年はいわきとの開幕戦でいきなり2得点をあげたことで、仲間から決定的なパスが出てきやすくなったようだ。藤枝で学んだという前からの守備とそのままアグレッシブにゴールへと迫る姿勢はチームを前向きにさせるものだ。

移籍して最初の試合はパリサンジェルマン戦。いきなり前線でのボール奪取から北野颯太のゴールをアシストしてみせた。8月2日には天皇杯の湘南戦が行われるが、そこで公式戦の移籍初ゴールが期待される。

広島に移籍した加藤陸次樹とは何かと比較されるかもしれないが、もともとたたき上げの選手であることを本人も自覚しており、J1のチャレンジで失うものは何も無いだろう。

須貝英大(鹿島アントラーズ ← ヴァンフォーレ甲府)

個人的な評価を言わせてもらえば、個人の実力としては今回の”昇格組”でも一段抜けている。昨シーズンは甲府の天皇杯優勝を支えたが、主に3バック右を担っていた。172cmとサイズは大きくないが、とにかく1対1に強く、ボールを持てば前に運べる。

今シーズンは左右サイドバックで獅子奮迅の活躍を見せており、アウトサイドからクロスを上げるだけでなく、インにどんどん入ってくるので相手ディフェンスは非常にやりにくいだろう。J1でも強みになりそうなのが攻守の切り替えの早さで、アグレッシブな攻撃参加はとセットになっている。

左サイドバックでの印象も強い選手だが、鹿島は右サイドバックの主力だった常本佳吾がスイスのセルヴェットに移籍したチーム事情もあり、右がわをメインに、オプションとして左サイドという起用法になると考えられる。甲府でACLを戦うという選択肢もあったはずだが、このチャンスに覚悟を決めたようだ。プレー強度は十分にJ1で通用するだろう。何より振る舞いや言葉からも伝わる気持ちの強さは鹿島向きだ。

久保藤次郎(名古屋グランパス ← 藤枝MY FC)

ここまでJ2で5得点8アシストを記録しており、インパクトではセレッソの移籍した渡邉りょう以上と評価するファンもいるかもしれない。右ウイングバックというポジションから藤枝の多彩なチャンスを作り出し、決定的なクロスを送り込む。いわきとの開幕戦で、渡邉の強烈ヘッドを演出しており、ある意味、渡邉を波に乗せたのが久保だったとも言える。

昨シーズンは10得点6アシストだったように、ゴールに迫っていくプレーも得意としている。中学時代はグランパスみよしFCに所属しており、下部組織のホームグロウンということも、名古屋が獲得した理由かもしれないが、長谷川健太監督のスタイルにも合っており、ユンカーなどのゴールをアシストしつつ、自らゴールを決めるシーンが見られるのも遠くないだろう。

加藤聖(横浜F・マリノス ← V・ファーレン長崎)

驚異的な左足のクロスを誇り、セットプレーのキッカーとしても優れている。JFAアカデミーの出身であり、サッカーIQの高さも光る。今シーズンはここまで五試合の出場で、スタメンは1試合のみ。アシストも1つしか記録していない。そういう数字や実績だけ見れば、今回取り上げた7人の中でも大きく見劣りするが、マリノスの評価基準はそういうものではないのだろう。

ハイテンポなビルドアップに加わり、いかなる局面でもミスを恐れずボールを受けに行ける。守備のデュエルに課題はあるが、マリノスの環境でブレイクを果たしても全く不思議ではない。小池裕太の長期離脱で急務になった左サイドバックの穴埋め的な補強でもあり、当面はマリノスの戦術に適応するための時間で、永戸勝也の控え的な位置付けにはなると見られる。

それでも9月にはACLもスタートするので、チャンスには事欠かないはず。藤田譲瑠チマがシント=トロイデンに移籍。有力なパリ五輪の候補が旅立ってしまったが、この加藤が来夏にマリノス所属の選手として五輪のピッチに立っている可能性は十二分にある。

長倉幹樹(アルビレックス新潟 ← ザスパクサツ群馬)

前線で攻守に奮闘しながら大事な時にボックス内で仕事できるタイプのゴールハンターだ。今年のJ2で5得点を記録しているが、そういう数字以上の存在感があり、周りが前を向いて仕掛けられるのも長倉が”前圧”をかけてくれるからでもある。

タイミング良い動き出しからのワンタッチゴールもあるが、ドリブルからシュートに持ち込む個人で決め切る能力も備えている。伊藤涼太郎のベルギー1部シント=トロイデン移籍に伴い、三戸舜介が二列目の中央を担うようになったが、長倉がセンターフォワードだけでなく、サイドや二列目で起用できることも、新潟が目を付けた理由の1つだろう。

浦和ユースの出身だが、順天堂大学から東京ユナイテッドFCを経ての今がある。橋岡大樹などの活躍は刺激になっているといい、ここから飛躍が期待できる選手だ。

柴山昌也(セレッソ大阪 ← 大宮アルディージャ)

パリ五輪世代の有望選手の一人であり、鋭い仕掛けと161cmと小柄ながらパンチのある左足のシュートを武器としている。右サイドからのカットインが最大の武器ではあるが、アウトサイドだろうと、インサイドだろうと、どこからでも仕掛けて突破を狙えるのは柴山の強み。左側から斜めに切り裂く突破もあり、左右どちら側からでも相手の脅威になる。

基本は東京ヴェルディに移籍した、中原輝に代わる右サイドアタッカーとして期待されているはずで、現在のファーストチョイスはジョルディ・クルークスだが、二列目であれば左右中央のどこも可能なので、小菊監督の起用法も注目される。

ディサロ 燦シルヴァーノ(湘南ベルマーレ ← 清水エスパルス)

正真正銘のストライカーであり、狙ったら仕留める研ぎ澄まされたゴール感覚はJ1においても異彩を放つはず。一見して野生的だが、プレーに関する分析力も高く、再現性のあるフィニッシュワークができるタレントでもある。

ドイツ2部キールに移籍した町野修斗の後釜であり、並の選手であれば期待が重圧にもなりかねないが、ディサロに関してその心配はないだろう。ボックス内は競り合いなどでも力強さを発揮するが、個人で全て解決するようなFWではないため、いかに周りとビジョンを共有でるかが鍵に。現在J1最下位に沈む湘南の救世主となれるか。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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