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兵站補給線であるクリミア大橋は攻撃しても軍事目標と見做される

JSF軍事/生き物ライター
爆発炎上するクリミア大橋(写真:ロイター/アフロ)

 10月8日にロシアが建設したクリミア大橋(ケルチ大橋)で大爆発が発生、自動車橋の橋桁が落下し、また爆風火炎によって隣接する鉄道橋の石油タンク貨車に引火し激しく炎上する事態となりました。攻撃方法はいまだ詳細は不明です。攻撃者は戦争中のウクライナが疑われていますが自分からは明言していません。

 そして10月9日にロシアのプーチン大統領はクリミア大橋の爆発を「ウクライナ特殊機関によるテロ行為」と断言して非難しています。ですがこれはテロ行為とは言えないでしょう。ロシアとウクライナは全面戦争中であり、クリミア大橋は最前線への兵站補給線として機能しているからです。つまり「軍事目標を狙った破壊作戦」だとは言えます。

国際人道法(戦時国際法)の解釈

 以下は国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)による国際人道法(戦時国際法)の説明です。

民用の空港、道路、橋は民用物ではあるが、軍事目的に使用されていたり、軍事目標がそれら施設に設けられていたりする場合には、攻撃されうる軍事目標となる。

出典:ロシア、ウクライナと国際法:占領、武力紛争、および人権について | ヒューマン・ライツ・ウォッチ

 橋は民用物ですが、軍事輸送に使用されている場合は軍事目標となり、攻撃を行っても国際人道法に違反しません。ただし以下のような条件があります。

その場合にも、均衡性の原則が適用される。紛争当事者は、攻撃によって予期される軍事的利益と、民間人が被る短期的及び長期的な損害を比較考慮しなければならない。つまり、紛争当事者は、民間人への影響を最小限に抑えるあらゆる方法を検討しなければならない。

出典:ロシア、ウクライナと国際法:占領、武力紛争、および人権について | ヒューマン・ライツ・ウォッチ

 これは逆に言えば、民間人への被害を最小限に抑える考慮が為されたならば、攻撃を行ってよいという意味になります。

民間人へ予測される被害が、予期される軍事的利益を上回る場合、攻撃を行うべきではない。

出典:ロシア、ウクライナと国際法:占領、武力紛争、および人権について | ヒューマン・ライツ・ウォッチ

 これは逆に言えば、民間人へ予測される被害が、予期される軍事的利益を下回る場合、攻撃を行ってよいという意味になります。つまり民間人への巻き添え被害を一切出してはならないとは、国際人道法には書かれていないのです。

 国際人道法は戦争を行う最低限のルールです。戦争行為を禁止するものではありません。だからこのような解釈になります。酷い話になりますが、ある程度の民間人への被害を出しても、直ちに国際人道法に違反しているとは言えないのです。

開戦1週間前のクリミア大橋(鉄道橋)の軍事輸送の様子

※この動画は「演習の為にクリミア半島に展開していたロシア軍の部隊がクリミア大橋を渡ってロシア本土に帰る様子」と説明されていたが、ウクライナ側の油断を誘うための罠であり、1週間後にロシア軍によるウクライナ全面侵攻が開始される。

クリミア大橋(ケルチ大橋)の攻撃方法推定

 橋の破壊方法について幾つか推定が出ています。

  1. トラックの爆薬(道路上)
  2. 無人ボートの爆薬(海上)
  3. ATACMS短距離弾道ミサイル(秘密供与)

 破壊された橋の状況を見る限り、焦げているのは橋の上側で、橋の下の裏側は焦げていませんでした。すると海上のボートの自爆は可能性が低そうです。

 また爆発の様子を見る限り、かなりの規模になります。ATACMS短距離弾道ミサイルの弾頭重量は約500lb(227kg)ですが、ここまで派手な爆発になるでしょうか? 

 また仮にATACMSが秘密裏に供与されていたとして、1発のみというのは不自然です。もしミサイルで攻撃するなら道路橋と鉄道橋を全て一気に落とすべく複数発を撃ち込むのが合理的なはずです。

 するとトラックに爆薬を満載した自動車爆弾説が残りますが、これも確定した証拠がありません。現状で考えられる限りは可能性が高いとは言えますが、今後新たな情報と分析が出たらまた結論が変わるかもしれません。

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人戦闘兵器、オスプレイなど、ニュースに良く出る最新の軍事的なテーマに付いて解説を行っています。

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