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“天才”と呼ばれた日々、中川晃教が思っていたこととは…才能のルーツは母だった!?

島田薫フリーアナウンサー/リポーター
少年期から現在までを語る中川晃教さん(撮影:すべて岩田えり)

 空間を支配する唯一無二のハイトーンボイス、演じるキャラクターは遠い過去から蘇ったのかと錯覚を起こさせるほどの高い演技力で、あっという間に物語に引き込みます。この舞台が終わったら消えてしまうのでは…と思わせるほど、全力で舞台上に生きている中川晃教さん。その表現力のルーツはどこにあるのか。現在稽古中の『SHINE SHOW!シャイン・ショウ!』がプロフィールの転機になるだろうと語る理由は?

―中川さんの表現力がどこから生まれたのかを知りたいです。音楽・演技の勉強はどうされていましたか?

 幼稚園からピアノを習ってクラシックをやっていました。そんなにクラシックに惹かれたわけではないですけど、父親が趣味でギターを弾いていたので、その影響でコードを勉強して曲を作るようになったのが小学校3年生くらいでした。

 ヤマハ「ポピュラーソングコンテスト(略称:ポプコン)」のティーンズ版、「ティーンズ・ミュージック・フェスティバル」に1つ下の妹と一緒に出場し、ピアノでオリジナル曲を弾いて歌ったら、東北地区から全国大会に進んで賞をもらいました。

 ソロでも出場して尾崎豊さんの『ふたつの心』を歌いましたが、審査員の方に「尾崎豊はこの世に2人はいらない」と言われて、全国大会には行けませんでした。真似ているつもりなんて一切なくて、好きだっただけなんですけどね。

 演技は…小学生の時、演劇クラブでした。母親が元歌手で、古賀政男先生(作曲家・国民栄誉賞受賞)の門下生だったので、「歌は語るように、セリフは歌うように」と教えてくれて、演劇も歌もお芝居が大事というのがずっと頭にありました。母は古賀先生のレッスンで、歌詞をそのまま歌うのではなく、歌詞をセリフのように読んでみなさいということを言われていたようです。

 そうは言っても、舞台デビューとなった『モーツァルト!』が僕にとっては初めてのお芝居だったので、演出家や周りの方々には「本当にできるのか」と大分心配をかけたみたいです。

 幸いにも、僕は音楽の中にモーツァルトの感情を見つけることができたので、その流れのままに、とりあえずセリフを喋ってみるところからスタートしました。滑舌とか、文章の点とか丸とか、技術的な部分はその後でした。

 子供の頃から、ピアノを弾いて歌うことは喋るよりも気持ちを吐露しやすい、夢も描きやすい。恋をしたことはないけれど、愛の形も知らないけれど、ピアノを弾いて音色に自分の声を乗せて、どんなものだろうと想像するのが自然な形でした。

―ミュージカルのデビュー作『モーツァルト!』では、数々の賞を総ナメにして衝撃を与えました。“天才”ともてはやされましたが、当時はどう思っていましたか?

 自分では“天才”とは思っていなかったですよ(笑)。デビューから一緒にやってくださっている方たちからは、「少しくらい調子に乗った方がいい」と未だに言われますから、多分、性分だと思います。

 確かに行く先々で「天才」と言われて、そこで調子に乗って自分が天才だと勘違いを起こすのは簡単かもしれないです。実際モーツァルトにはそういう才能があったと思うんです。でも、彼は音楽に追い込まれていきます。当時演じている時には、自分も才能に負けていく、あの作品のように自分の分身に滅ぼされていくような感覚がありました。

 でも大人になって、人に何かを伝えて届いた時に、自分の運命・使命はこれで「僕はこの世界でやっていく」と確信した気がします。最初は自分のためかもしれないけど、どこかで誰かに喜ばれるためにと変わっていったんですよね。

―今回の作品『SHINE SHOW!』は、今までとは違う役ですね。

 人間以外を演じることも多いので、会社員役は珍しいですね。内容は、のど自慢大会の裏側でいろいろなことが起こるバックステージもの、シチュエーションコメディーです。出場者は、抱えている問題を何とか解決してのど自慢対決に挑みたいと思っている設定。僕が演じる“和歌山翔”も出場者の1人で、恋人にプロポーズしようとする役です。

 “和歌山翔”は、歌を通して自分の思いを恋人に伝えるところ、彼女の思いを尊重しようとするがために自分の言いたいことを1回飲み込んでしまうところなど、自分と似ている部分があると思います。

 歌も入りますが、形態としてはストレートプレイです。僕にとって歌が全くないストレートプレイは、『7Days Judgement ―死神の精度―』という4人芝居の作品が初めてで、ボス役のラサール石井さんに子犬のように可愛がられる下っ端のチンピラ役でした。歌を封印してお芝居だけをやる、しかも自分の中には全くないチンピラ役!どうにもこうにもという感じでしたけど、そこに飛び込んだおかげで、芝居の面白さを知ることができました。なので、久しぶりのストレートプレイが楽しみです。

―今回の面白さはどこにありますか?

 のど自慢大会でスピッツの『楓』を歌うのが面白いですよね。1年に1度行われるのど自慢大会は、出場者にとって特別です。毎年凝ったコスチュームやモノマネ、歌に対する思い、そしてのど自慢大会で歌うことが人生のクライマックスで、命を懸けている人もいます。歌っている熱い姿と翌日の会社では全くの別人。そんな魔法にかかったような人間を掘り下げていくこと、『楓』で恋人にプロポーズしようとするのがすごく面白いです。

―舞台本番に向かっていく中川さんと役が重なって見えますが、中川さんが舞台というクライマックスにたどり着くためには、普段何をしていますか?

 本当に、役と僕が重なっているから面白いですよね。僕が本番・クライマックスに向けてしていることは…今朝は8時に起きて“蟠桃(ばんとう)”を食べました。蟠桃を知っていますか?桃の一種なんですが、丸ではなく平べったい形で、「西遊記」の中では孫悟空がこの桃を食べて不老不死になったと描かれています。タワシで皮の毛を水で洗い流して切って皮ごと食べると、ちょっと固めで美味しいんです。毎年食べています。

―“不老不死”に興味が?

 ゲン担ぎなどはいろいろ考えます。この間、父と電話で話していたら、土用の丑の日は土をあまりいじっちゃダメらしいんですね。そう聞くと、庭に雑草があるけど抜くのをやめておこうとか、意外とそういうのを大事にするかもしれない。いくつになっても青年・少年を演じたい、演じられる自分でいたい、と思うようになりました。

 さだまさしさんと歌番組でご一緒した時の話ですが、リハーサルで3回やり直しになりました。なぜかというと、プロンプターに出る歌詞が間違っていたんです。もちろん、さださんはご自分の曲なので覚えていますが、目の前に映った文字が違うと混乱するじゃないですか。普通なら現場がピリつく場面ですが、さださんは決してそうさせなかった。むしろ自分の戒めに変えられるように、「こんなに手に汗握ったのは初めてだよ、皆ごめんね」みたいなことをおっしゃったんです。こういう人って素敵だなと思いました。

 僕は自分の世界に没入しがちで、周りのことは一切見えなくなるところがあるんです。これは自分の長所でもあり、だからこそ僕はこの世に出ることができたと思います。大事にしなくちゃと思う反面、周りがしっかり見えるというのも必要だなと感じます。

 この仕事、長く続けていきたいですもん。「この人と仕事したら絶対楽しい」と思ってもらいたいです。今までそう思われないことをいっぱいしてきましたから…悪気があってのことではないですけど…。かなりストイックに細部にまでこだわってしまって、結果そうなるというか、見えない分たくさん失敗してきた気がします。

―そんな頃から随分変わられたような気がしますが…。

 とても変わってきていると思います。矛盾しますが、だからまた少し戻ってもいいかな、とも思っています。僕、玉置浩二さんが大好きなんです。昔の映像もよく見ていて、桑田佳祐さんの歌をカバーされていたり、「安全地帯」、ソロ、ドラマ、恋愛やプライベート、歌い方が変わっていきながらも進化されている。でもご自身は変わらない。絶対的な歌声が軸にあるから、こういう進化って素敵だなと思います。僕も軸を持って自分が変わっていけたらと思います。

 最近は大作が続いていましたが、今回の作品は僕のプロフィールの中での転機になりそうだと手応えを感じていますので、新たな挑戦をしていきたいです。

【編集後記】

中川晃教さんのミュージカルデビュー作『モーツァルト!』は、個人的にもとても大きな影響を受けた作品です。こういう思いもかけない衝撃は突然やってくるので、生の舞台を見逃してはいけないと心に強く思った日でした。普段なかなかこの話を聞く機会がなかったので、今回は貴重な機会になりましたし、お母様の影響など納得できる話が多々ありました。言葉一つ一つを丁寧に紡いでくれた姿からは穏やかさを感じましたが、次回はまた別の面も見られそうな気がします。

■中川晃教(なかがわ・あきのり)

1982年11月5日生まれ、宮城県出身。2001年、自身が作詞・作曲の『I Will Get Your Kiss』でデビュー。第34回日本有線大賞新人賞を受賞。2002年、ミュージカル『モーツァルト!』でタイトルロールを演じ、第57回文化庁芸術祭賞演劇部門新人賞、第10回読売演劇大賞優秀男優賞、杉村春子賞を受賞。以後、音楽活動と並行して数々のミュージカルに主演。2017年、『ジャージーボーイズ』で、第24回読売演劇大賞最優秀男優賞、第42回菊田一夫演劇賞受賞。近年の出演作品に『DEVIL』、『チェーザレ 破壊の創造者』などがある。日テレプラス「中川晃教 LIVE MUSIC STUDIO」が好評放送中。『SHINE SHOW!』は8/18~9/4まで東京・シアタークリエにて上演予定。

https://www.tohostage.com/shine_show/

フリーアナウンサー/リポーター

東京都出身。渋谷でエンタメに囲まれて育つ。大学卒業後、舞台芸術学院でミュージカルを学び、ジャズバレエ団、声優事務所の研究生などを経て情報番組のリポーターを始める。事件から芸能まで、走り続けて四半世紀以上。国内だけでなく、NYのブロードウェイや北朝鮮の芸能学校まで幅広く取材。TBS「モーニングEye」、テレビ朝日「スーパーモーニング」「ワイド!スクランブル」で専属リポーターを務めた後、現在はABC「newsおかえり」、中京テレビ「キャッチ!」などの番組で芸能情報を伝えている。

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