Yahoo!ニュース

『科捜研の女』から『レ・ミゼラブル』へ!繋がった正義感、恩人の言葉を噛みしめる石井一彰

島田薫フリーアナウンサー/リポーター
艶のある美声でインタビューに答える石井一彰さん(撮影:すべて島田薫)

 芸能の世界で大切な「声・顔・姿」に恵まれ、特に艶のある低音ボイスが魅力の石井一彰さん。穏やかな家庭に生まれ育ち、初等科から大学までを学習院で過ごした後は、自分のペースで演劇を学び始め、じっくりと順調に出演作を増やしてきました。映像では『科捜研の女』(テレビ朝日系)で内藤剛志さん演じる土門薫刑事の部下・蒲原勇樹(かんばら・ゆうき)役を好演。そして舞台では今回、『レ・ミゼラブル』でメインキャストのジャベール役をモノにしました。一つ一つ丁寧に取り組む姿勢は大きな信頼に繋がっていきます。

―この世界に入るきっかけは何ですか?

 小さい頃から、親に宝塚歌劇団の公演に連れて行ってもらっていました。自分では覚えていませんが、ずっとかぶりつくように観ていたらしいです(笑)。子どもの頃から観ていたので壁がなかったというか、舞台は身近なものでした。ですが、まさか自分が出るとまでは考えていなかったです。大学を卒業する年に東宝ミュージカルアカデミーという学校ができて、ここで勉強したのがこの世界に入るきっかけになりました(現在は閉校)。

―入学後1年で、『レ・ミゼラブル』でデビューです!

 学校ができたばかりだったので、卒業生が活躍する場としてオーディションを受ける機会をいただけて、タイミングが良かったと思います。もちろん、すごく頑張りましたよ。

―歌・ダンス・芝居、何が興味深かったですか?

 お芝居の授業は、すべてが“目から鱗”の連続でした。山田和也さんや小池修一郎さんといった、実際に東宝の舞台を演出されている先生方が特別講師で来てくださり、歌は『レ・ミゼラブル』歌唱指導・音楽監督の山口琇也先生、ダンスは(舞踊家・振付家の)前田清実先生で、とても刺激的でした。

 うれしい時に人はどうなるのか、悲しい時に人はどう歩くのか、そういうことを考えたことがなかったので、最初は難しかったですけど、教えていただくとすべてに納得できて、演技が楽しくなりました。特にお客さんが入っての発表会は気づきが大きかったです。不安もありましたが、充実感、幸福感にあふれ、舞台で演じる楽しさを教えていただきました。

―初めて舞台に立った時は?

 『レ・ミゼラブル』のフイイという革命家の学生役でしたが、記憶がないんですよね(笑)。毎日早めに劇場入りして皇居の周りをランニングして発声練習。舞台が終われば直帰して、たくさんご飯を食べて早く寝て翌日に備える…この繰り返しでしたが、どんどん痩せていきました(当時179cm・54kg)。

 忘れられないのは(テナルディエ夫妻役の)駒田一さんと森公美子さんです。一さんは全体練習後に、さり気なく「こういう風に歌ってみたらいいんじゃない?」と僕の個人練習にも付き合ってくださったんです。打ち上げの時にお二人が「本当に頑張ったね」とおっしゃってくださったのがうれしくて。今回はジャベールとして相対することができるので、今の自分を見てもらいたいです。

―今回はメインのジャベール役ですね

 決まった瞬間は、自分があのジャベールをやるんだという責任感と使命感で押し潰されそうになって、喜びが押し寄せてきたのはしばらくしてからでした。

―オーディションで手応えはありましたか?

 最終段階で、来日された演出家のクリス(クリストファー・キー)さんの前でジャベールの「星よ(Stars)」と「ジャベールの自殺」を歌ったんですが…言葉がないというか、小さく「Pa」と唇を鳴らしたり、「That it」みたいな反応で、感触があるかないかで言うと「ない」ですよね。それでも自分の中ではすべて出し切ったので完結はしたんです。最初から決まるまでは2年ぐらいありましたかね。

―ジャベールを受けた理由は?

 僕は『科捜研の女』というドラマで刑事役をやっています。参加して3~4年目(現在9年目)の頃、またミュージカルをやりたいと思っていた僕に監督が「ジャベールは警部でしょ?」とおっしゃたんです。ドラマで演じている蒲原勇樹は、正義に固執し、仲間の影響を受けて自分なりの正義を見つけていく刑事です。生真面目で強い正義感を持つジャベール警部と通ずるものがあるかもしれない、という話をしていたんです。

 その頃から、歌のスペシャリストから吸収したいと思い、いろいろなところに行きました。歌が素敵な俳優さんに、誰に習っているのか教えてもらい、自分も通わせてもらったり。若くても高いポテンシャル・技術がある人は大勢いますので、気になる人がいれば年齢関係なく訊きに行きます。

 国内だけでなく韓国にも行きました。言葉は分かりませんが、ひたすら基礎の発声法をやっています。日本のレッスンは課題曲を持っていくことが多いのでジャベールの代表曲などを習いたくなりますが、韓国では自分の身体と声そのものを作っておけば、できなかったことが自然とできるようになっていくと教えられます。

 呼吸法が違うんです。韓国の人は声量がスゴいイメージがありますが、70~80%で歌っても120%で歌ったように聴かせられるんです。声の大きさではなく、マイクへの乗せ方なんですね。最終的には様々な歌の要素が入っているというイタリア歌曲5曲をやりますが、5年通って今3曲目です。信じやすいタイプなので、言われたことを誠実にやっています。

―焦らないんですね

 僕が“のほほんとしたタイプ”ということもありますが、これまでできなかったことが、要求に対応できるようになってきたり、自分が表現したいことが少しずつできるようになってきた感触があります。『科捜研の女』の監督と話していた6年後に、こうしてジャベール役が決まったのは、カッコよすぎるかもしれませんが、ここに繋がっていたのかと思えます。

―石井さんは声、響きが特徴的ですね

 自分では分からないですけど、ありがたいことに声が好きだとおっしゃってくださる方がたくさんいて、一時期意識してしまい、カッコつけて低い声で自己紹介したりしていました(笑)。

―声・顔・姿三拍子揃っていますが、お話しするとイメージが違います

 見た目と中身が違うと言われます。怖そうに見られて、稽古場でも一人で座っていると誰も話しかけてくれませんが、そのうち後輩でも“かず”と呼び捨てになっていきます(笑)。「一緒にいて無理しなくていい」みたいなことを言われますね。

 『科捜研の女』で同世代だと小池徹平君とか、今回から新メンバーで加入した加藤涼君が年下ですけど「かずくんて優しいよね」と言ってくれます。

―ご自分のことはどう分析しますか

 頑固で不器用だと思います。何か一つのことをしている最中は、他のことをするのが苦手かもしれないです。今は舞台のことしか考えられないし、映像の世界へ行くと映像ばかりになってしまいます。一つ終わったら次に進みたいタイプなので、俳優としては不器用だと思います。

―沢口靖子さんや内藤剛志さんから学んだことはありますか

 沢口さんには誠実に仕事に向き合う姿勢を教えていただきました。本当にすごいんですよ!ドラマの撮影中は本当にドラマのことしか考えていらっしゃらないです。一緒に食事に行かせていただいても、「明日の勉強があるので」と20分ぐらいで帰られます。ユーモアにもあふれた、本当に素敵な方です。

 内藤さんからは現場の居方を教わりました。皆で一つの作品を作っている意識がとても強い方なので、撮影所のスタッフ・俳優全員内藤さんのことが大好きで尊敬しています。現場で座らないし、炎天下で日傘も差さないんです。それを僕がいろいろなところで話したら内藤さんから「お前が言い過ぎるから座れないじゃないか!」と言われまして(笑)。僕も内藤さんと一緒にいたくて横に立っていたら、今年の夏は真っ黒に日焼けしました。

―今後の目標は?

 時代劇に参加したいです。『科捜研の女』は京都で撮影していますが、時代劇に特化した撮影所でもあるので、その撮影を間近で見るとカッコイイんです。真田広之さんの作品(『SHOGUN将軍』)がエミー賞を受賞して、時代劇が世界でも注目されていますが、京都にいて感じた時代劇の良さ、充実感から、また挑戦したいという思いです。

 僕は「インドの王子様のよう」と言われることもあるので、そういう正統派なイメージを壊して、人間の奥底からの憎しみや汚い部分が出せる作品にも挑戦したいです。

―将来どうなっていたいですか?

 引退したら島で暮らして自給自足みたいなことをしたいなと。…俳優として、ですか?この世界で知名度を上げたいです!「この役なら石井一彰だね」と声がかかるようになる俳優になっていたいです。

■編集後記 

交じりっ気のないピュアな感性で、信じたものをやり続けた結果が今に繋がっている。年齢・焦りなど誰もが気にしそうなことに関心が強くないように感じます。ストイックに臨んでいても苦しさやつらさを感じさせません。これが「一緒にいて無理しなくていい」と思わせてくれる所以でしょうか。気がつけば、とてもリラックスした状態のままのインタビューとなりました。

■石井一彰(いしい・かずあき)

1984年2月29日生まれ、東京都出身。2006年、学習院大学卒業。2007年、東宝ミュージカルアカデミー(第一期)卒業(卒業公演『レ・ミゼラブル』マリウス役)。2008年、『レ・ミゼラブル』でデビュー。その後、『ミス・サイゴン』『太平洋序曲』『ロミオ&ジュリエット』などの舞台を中心にTV、ライブなど活動は多岐に渡る。2015年~『科捜研の女』(テレビ朝日系)に刑事・蒲原勇樹役で出演。ミュージカル『レ・ミゼラブル』帝劇クロージング公演は帝国劇場にて、2024年12月20日~2025年2月7日(プレビュー公演12月16日~19日)まで上演予定。その後全国ツアー公演。詳細はhttps://www.tohostage.com/lesmiserables/

フリーアナウンサー/リポーター

東京都出身。渋谷でエンタメに囲まれて育つ。大学卒業後、舞台芸術学院でミュージカルを学び、ジャズバレエ団、声優事務所の研究生などを経て情報番組のリポーターを始める。事件から芸能まで、走り続けて四半世紀以上。国内だけでなく、NYのブロードウェイや北朝鮮の芸能学校まで幅広く取材。TBS「モーニングEye」、テレビ朝日「スーパーモーニング」「ワイド!スクランブル」で専属リポーターを務めた後、現在はABC「newsおかえり」、中京テレビ「キャッチ!」などの番組で芸能情報を伝えている。

島田薫の最近の記事