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高校野球も中高一貫!!  神宮大会に異変!?

森本栄浩毎日放送アナウンサー
神宮大会は札幌大谷が優勝。付属中出身者が過半数を占める新鋭が出現した(筆者撮影)

 「中高一貫」という言葉は、名門大学を受験するための学校に使われるものとばかり思っていたが、高校野球にもこの波が押し寄せてきたのかと感じさせるような、今年最後の公式戦だった。

神宮決勝は付属中出身者ばかり

 明治神宮大会は、初出場の札幌大谷(北海道)が星稜(石川=北信越代表)を2-1で破って優勝。同校初となる来春センバツに弾みをつけた。元女子高で、共学化を機に野球部が誕生し、併設の中学野球部から主力選手がこぞって入部したことが躍進のきっかけとなった。星稜も、多くの選手が星稜中出身で、全国優勝を経験している選手もいる。奇しくも、この両校はベンチ入り18人中10人が付属中学の出身だったのだ。これまでから、明徳義塾(高知)や仙台育英(宮城=併設の中学は秀光中)などが「中高一貫」の代表格とされてきたが、過半数が付属中出身というのはあまり聞いたことがない。

星稜は順調に 札幌大谷は初戦で勢い

 大会そのものは、大方の予想通り、今年の春夏の甲子園メンバーを多く擁する星稜が順調に勝ち進んだ。相手の札幌大谷は、初戦で近畿王者の龍谷大平安(京都)と当たって苦戦が予想されたが、初回に奪った5点を守り抜いて逃げ切った。これで勢いに乗り、国士舘(東京)と筑陽学園(福岡=九州代表)には完勝で、特にエース・西原健太(2年)を決勝まで温存できたのが大きかった。星稜も最速150キロのエース・奥川恭伸(2年)を温存して、決勝では荻原吟哉(1年)を先発に起用し、中盤まで息詰まる投手戦となった。西原はこの日の最速は140キロだったが、ゆったりとしたモーションから内外角に投げ分け、星稜打線を手玉に取った。右打者には外角のカットボール。左打者へのチェンジアップが冴え、4回まで1死球を与えただけ。三振も5つ奪う完ぺきな内容だった。一方の荻原は立ち上がりこそ制球に苦しんだが、4回まで内野安打1本で内容的には遜色なかった。

星稜先制も終盤に逆転許す

 試合が動いたのは5回。星稜は先頭の5番・奥川が二遊間への安打性のゴロ。二塁手の送球がやや乱れ(記録失策)、初めて回の先頭が出塁した。

5回表1死から星稜は荻原がスクイズを決め、先制。しかし星稜はこの試合、わずか1安打と打線が沈黙した(筆者撮影)
5回表1死から星稜は荻原がスクイズを決め、先制。しかし星稜はこの試合、わずか1安打と打線が沈黙した(筆者撮影)

 続く福本陽生(2年)の左中間安打で一気に無死1、3塁とすると、1死後、8番・荻原がスクイズを決めて、星稜が先制した。右翼で出場していた奥川はこの段階ではブルペンにはいかず、荻原が5回以降も続投となった。6回は中軸につかまりかけたが、何とかしのぎ、迎えた7回。奥川はブルペンで準備していたが、直前の攻撃で走者となったことが林和成監督(43)を迷わせた。「今日の奥川は長くて3イニング」と決めていたようで、7回の先頭から起用することも可能だったが、「6回のブルペンではまだ(捕手が)座っていなかったので」(林監督)、荻原がさらにマウンドを守ることになった。下位打者に連打を浴びて得点圏に2走者を背負った荻原は、2死までこぎつけたが、1番・北本壮一郎(2年)に、遊撃横を抜かれ逆転を許した。ここでようやく奥川の登場となり、続く打者を145キロの速球で三振に仕留めたが、星稜にとってあまりに重い終盤でのビハインドとなった。

札幌大谷・西原1安打投球

 西原は9回1死から四球の走者を背負ったが、最後は奥川を併殺に打ち取り、堂々たる1安打完投勝利。

札幌大谷の西原は1安打完投で優勝投手に。「まっすぐの勢いで抑えるのが持ち味」と西原が言えば、相手の奥川も、「ストレートが走っていて打てなかった」と脱帽した(筆者撮影)
札幌大谷の西原は1安打完投で優勝投手に。「まっすぐの勢いで抑えるのが持ち味」と西原が言えば、相手の奥川も、「ストレートが走っていて打てなかった」と脱帽した(筆者撮影)

 創部10年の「新鋭」札幌大谷が、初の大舞台で一気に全国の頂点まで駆け上がった(タイトル写真)。センバツ出場が確実な相手に4つ勝っての優勝は特に価値がある。4年前に就任した船尾隆広監督(47)は、「何が起こったのかわからない。送り出した投手がそれぞれ、自分の役割を果たしてくれたのが大きい」と話した。函館大有斗時代に甲子園出場を経験し、道内の名門社会人チームでレギュラーを張って、インタビューには慣れているはずなのに、なかなか言葉が出てこなかった。西原も「まだ(優勝の)実感がわかない。長い冬にしっかり練習して、1段も2段もレベルアップしたい」と、浮かれることもなく淡々と話した。喜びより驚きの方が上回っていたのか、どの選手も信じられないという表情を浮かべていた。

格の違い見せた奥川

 一方の奥川は「敗れてなお強し」の印象を与えた。

来秋ドラフトの目玉となりそうな奥川。今大会でも別格の投球内容で、3試合15回1/3で26三振。本人は、「フォークで空振りが取れたのは収穫」と話した(筆者撮影)
来秋ドラフトの目玉となりそうな奥川。今大会でも別格の投球内容で、3試合15回1/3で26三振。本人は、「フォークで空振りが取れたのは収穫」と話した(筆者撮影)

 結局、代わったあとの4打者から3三振を奪う圧巻の投球内容で、格の違いを見せた。それでも「優勝したチームの投手が一番。結果として一位にならないと」と悔しさをにじませ、「センバツではもっといい投球をしたい」と本番の甲子園での捲土重来を誓った。現段階でセンバツの顔ぶれを予想すれば、投手陣に厚みがあり、攻撃陣も経験豊富な星稜が優勝候補の一番手に挙がってくるだろう。札幌大谷も計算できる投手が西原以外に、筑陽戦であわや無安打無得点の好投を演じた横手投げの太田流星(2年)、国士舘戦でロング救援の増田大貴(1年)といて不安はない。初出場と北海道という気候的なハンディを考え合わせれば、即優勝候補には挙げ辛いが、旋風を巻き起こす可能性は十分にある。

両校とも「気心知れた仲間と一緒に」

 両校に共通するのは、併設の中学からそのまま上がってきた選手が過半数いることだ。札幌大谷は、西原と飯田柊哉(2年=主将)のバッテリーを始め、決勝打の北本や太田ら主力が名を連ねる。特に硬式球で試合をできているのも大きなアドバンテージと言える。星稜では、6人の星稜中出身の2年生に加え、4番の内山壮真や荻原ら1年生は全国優勝も経験している。札幌大谷の船尾監督は、「先制されても楽しそうにやっていた。中学時代から一緒にやっているので気心が知れている」と選手たちへの信頼を口にした。中学時代、負けたあと「高校でも一緒にやろう」と皆が声を掛け合ったという。

来春のキーワードに「継続は力なり」

 中高一貫の最大のメリットは、選手たちの連帯感、結びつきの強さだ。当然、指導者間の連携が取れているから、指導方針で選手たちが戸惑うことはない。高校野球はわずか2年半で終わる。彼らはその倍以上の期間、苦楽をともにすることになる。これに勝る財産があるだろうか。そう言えば、星稜の奥川は、かほく市立宇ノ気中の出身だが捕手の山瀬慎之介(2年=主将)とは、小学4年からバッテリーを組んでいる。「継続は力なり」これが来春のキーワードになるかもしれない。

毎日放送アナウンサー

昭和36年10月4日、滋賀県生まれ。関西学院大卒。昭和60年毎日放送入社。昭和61年のセンバツ高校野球「池田-福岡大大濠」戦のラジオで甲子園実況デビュー。初めての決勝実況は平成6年のセンバツ、智弁和歌山の初優勝。野球のほかに、アメフト、バレーボール、ラグビー、駅伝、柔道などを実況。プロレスでは、三沢光晴、橋本真也(いずれも故人)の実況をしたことが自慢。全国ネットの長寿番組「皇室アルバム」のナレーションを2015年3月まで17年半にわたって担当した。

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