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震災・原発事故から3年 深まる遺族の苦悩 、無念ー「せめて原発事故さえ無ければ」

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
上野敬幸さんは津波で当時8歳の娘と3歳の息子を失った。

あの東日本大震災・原発事故から3年が経つ。政治も社会からもあの頃のショックが薄れ、震災や事故は風化しているように観える。だが、被災地の人々にとっては、何も終わっていない。むしろ、状況はより複雑化し、人々の苦悩はより深くなっているとも言える。

◯「せめて原発事故さえなければ…」二児を亡くした父親の苦悩

荒涼とした大地を海からの風が吹きぬける。福島県南相馬市原町区・萱浜は、震災による津波に襲われ、壊滅的な被害を受けた。全てが押し流された中で、たった1軒の家だけが今も辛うじて原型をとどめている。軒先には、おもちゃや折り紙の鶴がそなえられていた。

「あれからずっと考え続けています。何故、子ども達を救えなかったのか」

この家の主、上野敬幸さんは津波で、両親と当時8歳だった永吏可(えりか)ちゃんと3歳の倖太郎(こうたろう)くんを失った。上野さんの瞳に色濃く宿る陰は、筆者が紛争地取材の中で観てきたそれに似ている。地震直後、上野さんは自宅に戻り、家族らの安否を確認した。消防団員だった上野さんは地震被災者の救出に向かったが、その後、自宅を津波が襲ったのだ。悲劇は重なる。福島第一原発事故が、行方不明者捜索を阻んだ。

「せめて、原発事故が無ければ…!もっと、早く子ども達を探してやれたのかもしれない…」。

そう、上野さんは声を震わせる。上野さん宅は原発から22キロの地点にある。自衛隊による津波犠牲者・行方不明者の捜索は大幅に遅れた。200人規模の自衛隊の特別チームが来たのは、事故発生から1ヶ月以上たってから。そして、たった1回の捜索の後、彼らは次の地域へと移って行った。

「だから、自分達、地元の有志で遺体を探し始めましたが、重機が1機しかなくほとんど手作業でした。放射能で汚染されることを嫌がられ、外部から重機を借りることもできなかった」。

南相馬市原町区・萱浜の慰霊碑
南相馬市原町区・萱浜の慰霊碑

泥水の中を必死にかき分け、上野さん達は40人以上の遺体を回収した。その中には、永吏可ちゃんの遺体もあった。やっとのことで見つけた愛娘の亡骸。だが、原発事故によって最後の最後まで家族は引き離された。

「当時、妊娠していた私の嫁さんは、原発事故で避難していました。嫁さんは、永吏可を抱きしめることも、火葬に立ち会うこともできなかったんです。……悔しいですよ。東電の社長や会長には、うちの嫁さんに謝って欲しい。土下座して詫びて欲しい」(上野さん)。

倖太郎くんの遺体は未だ見つかっていない。上野さん達「福興浜団」は、今も毎週末、遺体・遺品の捜索を続けている。

*福興浜団https://www.facebook.com/fukkouhamadan

◯取材を行って-天災と人災

地震や津波は、天災であり、しかもあの未曾有の規模では、被害は防ぎきれなかった部分もある。だが、人々の悲しみや苦しみは、それを無視した復興政策によって、さらに深まることとなってしまう。天災で苦しんだ人々が人災にも苦しめられるという不条理はあってはならない。原発事故にいたっては正に人災そのものだ。東電経営陣は震災以前から、福島第一原発の津波リスクは理解していたことが取締役会議の議事録からも明らかになっている。あれだけの事故を引き起こしてもなお、原発再稼働や原発輸出を推進しようとする安倍政権の厚顔無恥ぶりは事故被害地のみならず、国際的にも失笑や憤りを買っている。私達は、今一度、震災・原発事故被害者の人々の声に耳を傾け、あの3.11から何を学ぶべきなのかを思い出すべきではないだろうか。

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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