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トリプルスリーだけじゃない。柳田が残した異次元の記録

小中翔太スポーツライター/算数好きの野球少年

菊池の打率低迷はBABIPで説明できる

打率.363、34本塁打、32盗塁でトリプルスリーを達成、OPSは12球団で唯一1.1を超える1.101を記録。凄まじい打棒を振るったソフトバンク・柳田はBABIPでも.402と非常に高い数字を残した。

BABIPは(安打-本塁打)÷(打数-奪三振-本塁打+犠飛)で計算され、フェアゾーンに飛んだ打球の内、安打になった割合を示す指標。ボテボテの打球が内野安打になる、打ち損じた打球が野手の間に落ちるなどの幸運が多いシーズンは数値が高くなり、芯で捉えた打球が野手の正面を突くなど不運に見舞われたシーズンは数値が低くなる。特徴としては年度によってバラツキが大きいが長い間プレーすれば.300前後に収束することが多い。そのためBABIPが高いシーズンに好成績を残せても翌年に揺り戻しの影響を受ければ打率は下がる。わかりやすい例が広島・菊池だ。打率、BABIPを順に並べてみると

2012 .229 .278

2313 .247 .297

2014 .325 .358

2015 .254 .291

リーグ2位の打率.325をマークした昨季のBABIPは.358だったが、例年並みとなった今季は高打率を残せなかった。菊池はじっくり待つよりはストライクが来たら積極的に打ちに行くタイプ。プロ4年間の通算2165打席で四球は97個しかない。約23打席に1つということはフル出場しても1週間に1つしかないほど珍しいということだ。こういうタイプの選手はシーズン毎の成績の変動幅が大きく、BABIPの影響を受けやすい。

柳田はイチローさえも凌駕する

上記でBABIPは.300前後に収束することが多いとしたが、もちろん個人差はある。左打ちの俊足選手は内野安打の可能性が高くなるため.300より高い数値に収束することが多い。中でもイチローは俊足の左打ちであることに加え、わざと詰まらせたり芯を外して野手の間に落とすという技術を備えているため通算BABIPは.346と高い。四球は14.5打席に1つと少ないが毎年高打率を残せる要因の1つだろう。

しかし今季の最強打者、柳田はそんなイチローをも凌駕する。冒頭の通り今季のBABIPは.402、昨季が.396で2013年が.403とここ3年は非常に高い数値で安定している。通算でもなんと.389。イチローよりさらに4分高い異次元とも思える数字だ。柳田は脚力もあり内野安打も多いには多いのだが飛び抜けて多いというわけではない。おそらく当たり損ないを足で稼いで内野安打にしたのではなく、打球が速過ぎてフェアゾーンに飛んだ打球を野手が処理出来ないためBABIPが高いのだろう。直近3年間のBABIPは.400ちょうど。これに加えて一発もあるのだから相手バッテリーにしてみれば「振れば安打」は言い過ぎだが「前に飛ばされれば半分弱が安打」という感覚に近いはず。長いプロ野球の歴史の中でも柳田以外で規定打席に到達してのBABIP.400以上は青木、イチロー、坪井の3人だけ。それも1シーズンしか記録していない。もし柳田にとっての平均BABIPが.380〜.400にあるのだとしたら200安打とトリプルスリーを同時に達成という快挙も夢ではない。

スポーツライター/算数好きの野球少年

1988年1月19日大阪府生まれ、京都府宮津市育ち。大学野球連盟の学生委員や独立リーグのインターン、女子プロ野球の記録員を経験。野球専門誌「Baseball Times」にて阪神タイガースを担当し、スポーツナビや高校野球ドットコムにも寄稿する。セイバーメトリクスに興味津々。

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