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子どもを「スマホ」から守る「WAIT UNTIL 8TH」運動とは何か

石田雅彦科学ジャーナリスト
「WAIT UNTIL 8TH」のHPより

 子どもがスマートフォン(以下、スマホ)を使った犯罪の被害にあう事件が目立つようになっている。米国でも子どものスマホの使い過ぎが問題視され、「WAIT UNTIL 8TH」という運動が広がりをみせている。スマホの問題点はいったいどこにあるのだろうか。

スマホ依存とは

 スマホ自体は単なるデジタル・デバイスに過ぎない。中に入れることのできるゲームやSNSといったアプリケーション(以下、アプリ)が問題だ。これらのアプリの多くは、インタラクション機能があって依存性が強く、リアル世界のコミュニケーションを阻害し、子どもを狙った性犯罪の温床にもなり兼ねない。

 2019年、WHOはギャンブル依存症とともにゲーム障害(Gaming Disorder)を病気(国際疾病)のガイドライン(ICD-11)に入れた(※1)。

 何かに対して執着する状態になり、自分をコントロールできなくなるような状態を依存という。その中でも極度に強い依存状態は、依存症という病気だ(※2)。

 ゲームの多くがインターネット上でプレイされていることからインターネット・ゲーム障害(Internet Gaming Disorder)と用語を使い分けているが、学会などではインターネットやスマホへの依存も病的な障害や依存症としてとらえていく趨勢にある。

 スマホ依存にはチェック調査のためのスケールがある(短縮版、SAS-SV、※3)。このスケールは、スマホ使用などに関する10項目(※4)に6段階(まったく違う〜まったくその通り)でチェックして評価する。

 この点数が31点以上になると、スマホ依存(Smartphone Addiction)の危険性があると診断される。スマホ依存は、就学前の児童と10代後半の若年成人がなりやすい(※5)。子どもだけでなく大人のスマホ使用に関してもチェックできるので脚注の質問を試してみてはいかがだろうか。

WAIT UNTIL 8THとは

 特に、育ち盛りの子どもに対するスマホの影響は、国際的にも問題視されるようになっている。例えば、米国では「WAIT UNTIL 8TH」という運動が大きな反響を生んでいて日本でも話題になりつつある。

 これは米国の8年生、つまりジュニア・ハイスクールを終える14歳までスマホの使用を制限しようという試みだ。WAIT UNTIL 8THの考え方は、親同士や学校などの間で共通の方法として子どもには通話とメール機能のみの携帯端末を使わせる。

 スマホを使いこなす子どもの学業成績は必ずしも良くない。むしろ認知能力が低くなり、成績が下がる傾向があることがわかっているし、逆にスマホを使わない子どものほうが成績がいいようだ(※6)。

 さらに、スマホの過度な使用は、脳を変化させ、前頭葉の大脳皮質を薄くするし、対人関係でもあまり笑わなくなるなど問題が生じやすくなる。スマホを使い過ぎることで健康への直接的な悪影響も出ている。例えば、スマホの使い過ぎで運動不足になり、食生活も乱れがちになることもわかっているが(※7)、夜間のスマホ使用によって睡眠不足になることで肥満になるという調査研究もある(※8)。

 各家庭で子どものスマホの使用を禁止しても、学校で広まってしまっているとなかなか難しいのは洋の東西を問わない。友だちのほとんどがスマホを使っている場合、親は自分の子どもからねだられても許さざるを得ないからだ。

親同士で連携して

 よく「子どもの自主性を信じて使用法のルールを取り決めればいいのでは」という意見が出るが、欲望に忠実でのめり込みやすい子どもに依存性の強いゲームやSNSの使用制限を課すのはむしろ逆効果なのではないかという研究もある(※9)。

 また、親同士、学校、地域のコミュニティなどが連携し、子どものスマホ使用に制限をする社会的なネットワークが効果的であり、そうしたコミュニケーションがない場合には子どものスマホ依存が強くなるという研究は多い(※10)。

 WAIT UNTIL 8THのホームページでは、Microsoft、Apple、Google、eBay、Yahooなどの創業者やCEOらが自分の子どもにスマホの使用開始をできるだけ遅くしていると紹介しているが、これらは一般的にもかなり有名な事例だろう。

 子どもにゲームやSNS機能が備わったスマホを与えるのは、早くても10代半ばにすべきだ。それまでは友だちと遊び、自然に触れ合い、本を読んで過ごしたほうがいい。

※1-1:世界保健機関(WHO)では従来のICD-10に修正を加えたICD-11を2018年に発表(ICD=International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems、疾病および関連保健問題の国際統計分類)、ICD-11では依存症の診断ガイドラインが示され、プロセス障害としての依存症として新たに「Gambling Disorder(病的ギャンブリング)」と「Gaming Disorder(ゲーム障害)」が追加、また米国精神医学会(American Psychiatric Association、APA)によって作成されたDMS-5も精神疾患のガイドラインとして使用(DMS=Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)

※1-2:Jon E. Grant, et al., "impulse control disorders and “behavioural addictions” in the ICD-11." World Psychiatry, Vol.13, Issue2, 125-127, 2014

※2:American Psychiatric Association, "Internet Gaming."

※3:Min Kwon, et al., "The Smartphone Addiction Scale: Development and Validation of a Short Version for Adolescents." PLOS ONE, doi.org/10.1371/journal.pone.0083558, 2013

※4:「スマホ使用のため、予定していた仕事や勉強ができない」「スマホ使用のため、(クラスで)課題に取り組んだり、仕事や勉強をしているときに集中できない」「スマホを使っていると、手首や首の後ろに痛みを感じる」「スマホがないと我慢できなくなると思う」「スマホを手にしていないと、イライラしたり怒りっぽくなる」「スマホを使っていないときでも、スマホのことを考える」「スマホが毎日の生活にひどく悪影響を及ぼしても、スマホを使い続けると思う」「TwitterやFacebookで他の人とのやりとりを見逃さないためにスマホを絶えずチェックする」「(使う前に)意図していたよりもスマホを長時間使ってしまう」「まわりの人が、自分に対してスマホを使いすぎていると言う」

※5:Sandor Csibi, et al., "Analysis of Problematic Smartphone Use Across Different Age Groups within the'Components Model of Addiction'." International Journal of Mental Health and Addiction, doi.org/10.1007/s11469-019-00095-0, 2019

※6-1:Louis-Philippe Beland, Richard Murphy, "Ill Communication: Technology, distraction & student performance." Labour Economics, Vol.41, 61-76, 2016

※6-2:Adrian F. Ward, et al., "Brain Drain: The Mere Presence of One's Own Smartphone Reduces Available Cognitive Capacity." Journal of the Association for Consumer Research, Vol.2, No.2, 2017

※6-3:Jessica S. Mendoza, et al., "The effect of cellphones on attention and learning: The influences of time, distraction, and nomophobia." Computers in Human Behavior, Vol.86, 52-60, 2018

※6-4:増田修治、成田弘子、「子どもの発達・学力と健康に視点をおいたメディアリテラシー教育指導法の研究」、白梅学園、研究年報、第23号、2019

※7-1:Jacob E. Barkley, Andrew Lepp, "Mobile phone use among college students is a sedentary leisure behavior which may interfere with exercise." Computers in Human Behavior, Vol.56, 29-33, 2016

※7-2:S J. Cho, et al., "Smartphone Usage Influences the Eating Habits of Middle School Students." Journal of the Korean dietetic association, Vol.24(3), 199-211, 2018

※7-3:Mallory S. Kobak, et al., "The Effect of the Presence of an Internet-Connected Mobile Tablet Computer on Physical Activity Behavior in Children." Pediatric Exercise Science, Vol.31, Issue1, 2018

※7-4:Andrew Lepp, Jacob E. Berkley, "Cell phone use predicts being an "active couch potato": results from a cross-sectional survey of sufficiently active college students." Digital Health, doi.org/10.1177/2055207619844870, 2019

※7-5:Maria Luisa Zagalaz-Sanchez, et al., "Mini Review of the Use of the Mobile Phone and Its Repercussion in the Deficit of Physical Activity." frontiers in Psychology, doi.org/10.3389/fpsyg.2019.01307, 2019

※8-1:H Chahal, et al., "Availability and night-time use of electronic entertainment and communication devices are associated with short sleep duration and obesity among Canadian children." pediatric obesity, Vol.8, Issue1, 42-51, 2013

※8-2:Sakari Lemola, et al., "Adolescents' Electronic Media Use at Night, Sleep Disturbance, and Depressive Symptoms in the Smartphone Age." Journal of Youth and Adolescence, Vol.44, Issue2, 405-418, 2015

※9-1:Grace S. Chng, et al., "Moderating Effects of the Family Environment for Parental Mediation and Pathological Internet Use in Youths." Cyberpsychology, Behavior, and Social Networking, Vol.18, No.1, 2015

※9-2:Laura M. Padilla-Walker, et al., "The Protective Role of Parental Media Monitoring Style from Early to Late Adolescence." Journal of Youth Adolescence, Vol.47, Issue2, 445-459, 2018

※10-1:Ihm Jennifer, "Social Implication of children's smartphone addiction: The role of support networks and social engagement." Journal of Behavioral Addictions, Vol.7, Issue2, 2018

※10-2:Juan Herrero, et al., "Smartphone Addiction and Social Support: A Three-year Longitudinal Study." Psychosocial Intervention, Vol.28(3), 111-118, 2019

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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