Yahoo!ニュース

日本代表の田中史朗は、なぜ試合前の仲間に喝を入れたのか?【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
番組収録中の田中。リーチ主将を終始絶賛。

9月にイングランドでおこなわれる4年に1度のワールドカップを見据え、ラグビー日本代表の田中史朗は覚悟を決めている。

1勝3敗で4位だったパシフィック・ネーションズカップ(アメリカ・カナダ)を終えて8月6日に帰国した。9日は都内の飲食店で『ラグビーワールドカップ開幕直前 日本代表応援スペシャル!』(16日、BSスカパーで16時50分から放送)の番組収録に参加。「結果と同時に、思いを見て欲しい」。決意を新たにした。

身長166センチ、体重75キロと小柄な身体つきながら、相手の盲点を突く判断と負けん気で日本代表46キャップ(国同士の真剣勝負への出場数)を獲得。今季は日本人選手第1号として3季目のシーズンを迎えた南半球最高峰のスーパーラグビーで、所属先のハイランダーズの優勝を経験した。過密日程下でジャパンへの合流期間は限られるなか、ワールドカップでのキーマンの1人として期待される。

日本ラグビー界の人気や地位の向上のため、大胆な提言も欠かさない。指揮官のエディー・ジョーンズヘッドコーチに意見具申できる希少な存在で、7月に合流したチームでも意を決して「勝つ気があるのか」と仲間を叱咤している。

以下、収録後の取材機会における一問一答の要旨(当方以外の質問応対を含む)。

――(当方質問)帰国後はどう過ごしていましたか。

「帰ってきた日(6日)は全然眠れなくて、おととい(7日)は3時半に目が覚めてしまったんです。もう、4時にはクラブハウス(群馬県太田市・国内所属先のパナソニックの本拠地)に行ってトレーニングをして、そのまま色んな取材が夕方くらいまであって。きのうは1日、休みで、家族と1日過ごすことができて(田中には妻と1歳の長女がいる)、きょう、という感じです。取材をやっていただくのはラグビーの普及になるのですが、ちょっと、家族と過ごす時間が短かった。そのことは、日本全体で考えていきたいですね。来年から日本にスーパーラグビーのチームができますし」

――(当方質問)パシフィック・ネーションズカップ。田中選手は7月29日のフィジー代表戦(トロント)から戦列復帰も、22―27と惜敗。8月3日のトンガ代表戦(バーナビー)も20-31と勝ち切れなかった。

「僕自身、日本代表でプレーしたのは1年ぶりくらい。もっとできることがあるな、と感じました。試合も負けてしまいましたし、日本代表の選手にも気持ちの面で慣れが出てしまっている部分がある。勝ちたいという思いがスーパーラグビーの選手に比べて薄い。外国(出身)選手や堀江(翔太、昨季までスーパーラグビーでプレー)にはそういう(何が何でも勝とうとする)気持ちは感じるのですが、他の大半の選手からは…。そのことは、リーチ(マイケル主将、田中と同じくスーパーラグビーでプレー)と一緒にで話していけたら」

――具体的には。

「ミーティングの時に、何も言わない。自分の足りないところがあればコーチ陣に聞くようにと言われているのに、聞こうとしない。それは、そこで満足しているということ…。もし、エディー(ジョーンズヘッドコーチ)に言いにくいのであれば、他のスタッフにでもいいのに。そのあたりが、まだ1つのチームとして成り立っていないと思います」

――(当方質問)トンガ代表戦前日の練習後、選手たちに喝を入れたようですが…。

「もう、ただ純粋にやる気があったのかなと感じたので。フィジーにフィジカルで負けた後の試合後で、なぜ、ああいう(身体の小さい自分にも軽くぶつかるような)状態になったのか、と疑問にしか思わなかった。日本代表を軽く受け止めている選手がいたとも感じました。報酬(代表選手に支払われる日当に限りがあること)やら何やらはあると思うけど、いまはもうそういうのをナシにして、日本代表としてワールドカップを戦うという思いをしっかり持ってほしいな、と。それでああいうことを言いました」

――4月から国内で合宿を張ってきた選手に、疲れもあったのでは。

「6月の合宿はしんどかったみたいなので、疲れはあると思うんですけども…。疲れてたって日本代表だから、言い訳にならない。僕らが日本代表であることへのプライドを持てるような発言や環境づくりをすれば、選手も変わってくれるかなと思います」

――(当方質問)4月から始動した今季のチームで、スーパーラグビーのシーズン終了後に合流した田中選手が苦言を呈さなければならないと感じてしまった。ジレンマは。

「(途中から)入ってきていきなり(厳しいことを)言って、僕のことを好いていない人はもちろんいるとは思う。ただ、そこがもつれになってチームが変わるのはいや。ただ僕が嫌われるだけならいいので、チームがまとまれるようになればいいと思います」

――改善の兆しは。一部では、ミーティングでの意見交換が活発になったとの声も。

「リーチが戻ってきたことで、1人ひとりが考えて発言するというところができるようになってきたと思います。ほんの少しずつですが」

――ワールドカップ本大会に向けて。初戦が9月19日。時間はありません。

「時間がないなら、その時間のなかでやるしかない。もっと、皆としゃべっていきたいです」

――初戦でぶつかる世界ランク2位の南アフリカ代表は、最近、やや負けが込んでいます。同5位のオーストラリア代表、同1位のニュージーランド代表、さらには同8位のアルゼンチン代表を相手に黒星を喫しました。

「僕たちにも、可能性があるとわからせてもらえますね。そのためには…すみません(咳き込む)。相手と一緒のことをしていても勝てないので、しんどいことをしろとは言いませんが、もっと考えながらやっていきたいなと思いますね。(関係者から水を受け取り)あ、すみません、ありがとうございます」

――今回の番組では、ご自身が初めて出場も未勝利に終わった2011年大会の映像は観ていない、という発言がありました。この日の収録中に映像を観て、涙ぐみました。

「そうですね。たまに番組のハイライトとかで観させてもらう時はあるんですが、こうして観ると…。もうああいう経験はしたくないなと改めて思いました。1試合、1試合、全力でやろう、と。気が抜けない、気を抜かない。それを改めてチームに落とし込みたい」

――7月以降に海外から合流したスーパーラグビー組と、それ以前からいた選手の連携は。

「まだ全然、合っていなくて…(途中で激しくせき込む)。フィジー戦から入った(小野)晃征のコミュニケーションで、大分よくなってきてるとは思います。いまから筋肉をつけるというのは、しんどい。コミュニケーションを取って、チームとしてまとまれるトレーニングをしたいですね。10番(スタンドオフ)は、ある程度出る選手が決まっているので、10番とは特にコミュニケーションを取っていきたい」

――チームの力を出すためには何が必要か。

「すべてです。やっぱ、甘いんです。環境も、チームを思う気持ちもハイランダーズと比べると感じない。日本代表だ、ということを、チームのなかに投げ込んでいきたいです」

――(当方質問)ラグビーのプレーに関する課題は。

「姿勢ですね。僕らは小さい。1人で相手を倒すのが無理やったら2人で。2人で無理だったら3人で。その、回数を増やす。こういうことはずっとやってきていると思うので、もっとシビアに、危機感を持って取り組んでいけるようにしたいですね」

――(当方質問)トンガ代表戦でも、ひとたび密集近辺で突進を許すとそのまま失点につながっていた。

「そうですね。あとはスクラムでも、フィジー相手には勝っていたのに、最後の1本で…(敵陣ゴール前で押し切れず)。それは向こうがあそこで本気を出してきたのかもしれないですけど。フォワードがずっと勝ってきたのに、そのフォワードが最後に疲れてきたというのもある。僕は指導者ではないので何が正解かは言えないですけど、お互いがサポートできるようなチームを作りたいです」

――個人の出来には。

「できた部分はあったんですけど、やりたいことはできてなかった。まだまだコミュニケーションは取れるし、まったく満足はしていないですね」

――(当方質問)自身では不満足でしょうが、ゲームに緩急はついた。

「…そういうのも、自分では納得てきてないです」

――(当方質問)エディー・ジョーンズヘッドコーチとの関係についても、触れていましたね。

「信じるようには、なりました。この大会は本当に成功させたい。疑いの心を持っていたら、チームとして成り立たない。彼も、日本のチームを強くしたいという気持ちは誰よりも強く持っている。信じたいなと思って、しっかりと話をしています」

――もっと休息が必要では。

「やるしかない。特に僕なんかは本当に体力もないですし、もっとやらないといけない。そこはエディーを信じてついていく」

――11日から、宮崎で代表合宿が再開。チームに伝えたいことは。

「身体を張る、ということ。僕は弱いんで吹っ飛ばされたりはするけど、その気持ちでは負けないようにやっていきたいと思います」

※ 参考

スーパーラグビーのシーズン中は下記のインタビューに応じた。

ハイランダーズ田中史朗、最新独占激白1 「自分がショボい」 【ラグビー旬な一問一答】

ハイランダーズ田中史朗、最新独占激白2「全てを話そうかなと」【ラグビー旬な一問一答】

ニュージーランドから帰国後はこう語っている。

王者ハイランダーズ田中史朗、帰国 ワールドカップは「ダサいけど死ぬ気で」【ラグビー旬な一問一答】

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

すぐ人に話したくなるラグビー余話

税込550円/月初月無料投稿頻度:週1回程度(不定期)

有力選手やコーチのエピソードから、知る人ぞ知るあの人のインタビューまで。「ラグビーが好きでよかった」と思える話を伝えます。仕事や学業に置き換えられる話もある、かもしれません。もちろん、いわゆる「書くべきこと」からも逃げません。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

向風見也の最近の記事